表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

171/186

168話 『魔王』戦⑪~覚醒。





   ──サラ──



『魔王の間』にいる者で、初めに異変に気づいたのは、サラだった。『魔王の間』が狭くなったように感じたのだ。


 サラは嫌な予感を覚え、『魔王の間』から走り出た。狭くなったという感じは、通路にも及んでいた。


(これは──圧縮ですか?)


 サラは『魔王の間』に戻ってから、目をつむった。

 きっかり5秒数えてから、目を開く。

 ずっと見ているよりも、少しのあいだ視界を閉ざしてから見たほうが、より圧縮速度が分かると思ったのだ。


 そして愕然とした。

 圧縮速度は、想像以上に早い。


 クルニアも事態に気づいたようで、球体を奪おうと躍起になっていたハニを、蹴飛ばした。


「ふげっ!」


 ハニが転がってくる。


「ハニさん。魔王城が、おかしいです!」


「おかしいって、一体──あれ、『魔王の間』って、こんなに狭かったっけ?」


「『魔王の魔』だけではなく、城全体が圧縮されているんですよ!」


「へえ、圧縮かぁ──圧縮!?」




   ──アデリナ──



 魔王城の頂上部とは、中央尖塔のてっぺんだ。

 そこにアデリナは立ち、魔王城全体に対して、〈コンプレッション〉をかけていた。


〈コンプレッション〉とは、物体を圧縮するという、シンプルな魔法だ。Eランク程度の魔導士から使える。

 ただし、圧縮する物体の体積によって、MPの消費量が増減する。つまり体積が増えれば、その分、圧縮にかかるMPも増える。


 よってSSSランク魔導士のMP量をもってしても、圧縮できる体積は、せいぜい一般の家屋くらいだ。


 魔王城ほどの巨大建造物の圧縮には、万単位のMPが必要となる。どんな魔術師でも、圧縮が終わる前に、MPが枯渇してしまうだろう。


 しかし、アデリナには関係のない話だ。

 アデリナのMPは無限なのだから。


(残り100秒を切るわね──圧縮速度を上げましょう)


 アデリナは跳躍した。




   ──ローラ──



 刹那、魔王城内が迫って来た。

 壁、天井、床の距離が狭まってきたのだ。それも急激に。


 この勢いでは、あと数十秒後には、魔王城そのものが馬小屋サイズにまで圧縮されてしまうだろう。

 

 ローラは、仮死状態のレイを抱えて、脱出しようとした。


 そこで足を止める。

 アデリナが魔王城の圧縮を始めたのは、罠を張っているからだろう。

 すなわち、ローラが魔王城を飛び出したところに、何らかの魔法トラップが仕掛けられている。


(それでしたら──空間転移して脱するまでです)


 ローラは〈跳躍剣〉を振るった。


 空間転移。

 魔王城前の荒地へ。

 瞬間、ローラはアデリナの手刀によって、腹部を刺し貫かれる。


 腹部を貫かれながらも〈墨〉に切り替えて、アデリナに斬りかかる。

 アデリナは〈インフィニティ〉の銀糸で弾き返してから、ローラを蹴り飛ばした。


 ローラは仰向けに倒れる。


(空間転移先を──読まれていた?)


 アデリナが狙っていたのは、ローラが空間転移することだった。

 ローラの空間転移の出口を、誘導したのだ。

 アデリナの目の前に現れるように。


 それを可能にするためには、ある程度、ローラが空間転移する先を推測する必要がある。

 そのためアデリナは、魔王城を圧縮した。

 魔王城から脱するため、ローラは城外へ空間転移するからだ。


 それくらい予測できていれば、空間転移の出口を乗っ取ることも、アデリナならば可能である。


 ローラは全身から力が抜けていくのを感じた。

 アデリナが歩み寄ってきて、倒れているローラに囁きかける。


 ローラは、アデリナの言葉に衝撃を受けた。はじめは偽りだろうと思ったが、すぐにそれが真実だと悟った。


 そしてローラの意識は失われた。




   ──アデリナ──



 アデリナは、横たわっているレイのもとに、歩を運んだ。

 いまだ仮死状態のままだ。


 アデリナは右手を持ち上げる。銀糸が舞う。

 あとはこの右手を下ろすだけで、銀糸がレイの首を刎ねるだろう。


「残念だったわね、義弟くん。けど、あなたは惜しいところまで行ったわ。このわたしを、一瞬だけでも、追いつめた。そのことを誇りに思いながら、あの世に旅立つといいわ」


 刹那、アデリナの右腕を藤壺が満たした。

 一瞬のことだった。


 アデリナは跳躍してから、ジェリコとの距離を取る。


 ジェリコは背後から、アデリナに迫っていたのだ。そして、呪術を発動した。

 その結果が、アデリナの右腕を侵食する藤壺だ。


「ジェリコ坊や。どうして呪術が、一般的に広がらなかったか知っているの? 回復魔法で、容易く解呪が可能だからよ」


 アデリナの頸が裂けて、触手が這いだす。触手の先端には眼球があった。

 眼球が光り、〈ゴッド・ヒーリング〉を発動。ジェリコの呪術を解呪した。

 アデリナの右腕が回復し、藤壺も消える。


 ジェリコが、驚愕の表情を浮かべる。


「君は、回復魔法など使えないはずだ──それに、何だ、その不気味な触手は」


 ふいにジェリコの目に、戦慄が走る。どうやら、理解したらしい。


「ヒーラーを体内に融合したのか?」


「ヒーラーの一部だけれどね」


 ヒーラーのシャーリーのことだ。レイ達との戦闘が始まる前に、アデリナはシャーリーを分解してから、体内へと取り込んでいたのだ。


 いまやシャーリーといえるのは、頸の裂け目から現れた触手のみ。

 自我は失われているが、回復魔法を発動することはできる。


 これは主に、ジェリコの呪術対策だった。しかし、レイ達のパーティにジェリコの姿はなく、アデリナも拍子抜けしていたのだ。

 まさか、この場面で、奇襲を仕掛けてくるとは。


「さてと、残念だったわね、ジェリコ坊や。わたしが回復魔法で、呪術を解呪できる以上、あなたに勝ち目はないわよ」


 するとジェリコは、勝ち誇ったように笑った。


「はなから、僕は君を仕留めるつもりなどはなかったさ」


「なんですって?」


 ジェリコは天を仰いだ。


「ラプソディ──これで貸し借りはなしだ」


 アデリナは、ハッとする。


 振り返るも、レイの姿がない。


(仮死状態が終わった──レイ・スタンフォードは、わたしの能力のコピーに成功したというわけね)


 瀕死のローラもいないので、レイが連れて〈ワープ〉したのだろう。


 ジェリコは逃げて行くが、アデリナは追跡しなかった。

 いまや戦況は劇的に変わってしまった。

 レイが覚醒したとなると、戦いかたを変えねばならない。


 アデリナは魔王城の圧縮を止めた。

 それから、魔王城を復元──言うなれば『解凍』を行う。


 ついでアデリナは、魔王城内へと〈ワープ〉した。

 見晴らしの良い荒れ地で戦うより、視界が狭められる城内での戦いを選んだのだ。


 レイは『魔王の間』に戻ったはずだ。アデリナはそう一考してから、宝物庫へと飛んだ。


 いまやレイは、アデリナと同じ能力を有している。

 その上で、向こうには精霊兵器〈竜殺し〉がある。


(ならば、わたしにも武器が必要ね──)


 宝物庫の奥には、一振りの魔神剣が封じられているのだ。まさか、この魔神剣を切り札として、使うときが来ようとは。


(仮に使うとしても、それは【螺界】と戦うときだと思っていたけれど)


 だがアデリナは悲観していなかった。ある意味では、これは好機ともいえる。強敵と戦うことでこそ、レベルUPは果たされるのだから。


 ならば、アデリナの能力を得たレイほど、それに該当する敵はいない。


(いまのレイ・スタンフォードを倒せば、わたしは、自分を超えることになる)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ