表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

169/186

166話 『魔王戦』⑨~500秒の逃走。





   ──ローラ──



 アデリナがレイを仕留めようとした刹那、ローラは〈跳躍剣〉を発動した。

 

 この瞬間までローラは、アデリナにかけられた〈バグ〉を解除しようと努めていた。


 しかし、その必要はなかったのだ。

 誤作動を起こすということは、なにも技を封じられたわけではない。


 ならば、誤作動の先読みを行うことで、真の目的に辿り着けば良い。

 誤作動を利用するのだ。


 さっそく、それが役に立った。

 通常、〈跳躍剣〉は連続使用できない。しかし、今回ばかりは誤作動によって可能となった。


 まずレイの傍まで空間転移し、さらにレイを連れて『魔王の間』の外へと、空間転移する。

〈バグ〉の恩恵というわけだ。


 さらにローラは、〈跳躍剣〉を〈治癒の女神〉に切り替える。

 この短剣は、己に刺すことで、〈リザレクション〉並みの回復が発動する。しかし、いざ刺そうとしたところで、ローラは手を止めた。


 ここにも誤作動の気配を感じ取ったからだ。あとは誤作動の全容を確かめるのみ。


 ローラは〈貫き丸〉に切り替えて、それを自らに刺した。

 とたん、ローラは全回復する。失った左足も復活だ。

〈バグ〉によって、〈治癒の女神〉の効果と、〈貫き丸〉の効果が交換されていたのだ。


 ローラはそれを見抜くことで、状況を打開した。


 改めて、仮死状態のレイを見やる。

 レイは、500秒の仮死状態を終えれば、アデリナを討つと宣言した。


 ローラの予感通り、レイという冒険者には、次なるレベルがあるのだ。そこに至ろうとしている。


 ならば、ローラの使命は、500秒を守り切ることだ。


 ローラ達が現在いるのは、魔王城内の通路。

 数秒も経たず、アデリナが〈ワープ〉で追跡してきた。


 ローラは〈跳躍剣〉を使い、城内の別の場所へ、レイと共に空間転移する。


(〈バグ〉によって、〈跳躍剣〉を連続使用できるようになったのは、不幸中の幸いですね。このまま500秒が完了するまで、逃げ回っていたいものですが──そうはいかないでしょうね)


 次なる通路で、再度、ローラは〈跳躍剣〉を使おうとした。

 しかし、今度は使用できない。


〈バグ〉の効果がなくなったのか、と思ったが──


 アデリナが〈ワープ〉で現れる。その表情には、勝利の確信があった。

 それを見て、ローラはハッとする。


(アデリナの〈パーフェクト・キャンセル〉が発動している!)




   ──ハニ──



 球体の呪いを解除した。

 とたん、毒状態が改善される。その代わり、アデリナの〈パーフェクト・キャンセル〉封じが、取り消されてしまっただろう。


 ハニも、わが身のためならば、呪術を解除したりはしなかった。たとえ、代償の毒状態で、ハニ自身が息絶えることになったとしても。


 しかし、今ばかりは事情が違う。

 サラを救うためには、ハニが万全に動けなくてはいけない。

 毒状態では、一歩、歩くのも困難だった。

 ゆえに呪術を解除したのだ。


 ハニは、サラのもとへ駆け寄る。すでにサラは、瀕死だった。血を流しすぎたため、自らを回復魔法で癒すことができないのだ。

 だがハニも、冒険者時代はSSSランク判定を受けた魔導士だ。まだ打つ手はあるはず。


 まずハニは、〈ヒーリング〉で止血した。しかし、回復魔法は〈ヒーリング〉までしか使えない。

 ここから、どうすれば──。


 ふいにクルニアの声がした。

 クルニアもまた、深手を受けている。

 とはいえ、クルニアはタフなので、この程度では死なないだろうが。


「クルニアさん?」


 クルニアは苦しそうに言った。


「サラに輸血しろ。サラが意識を取り戻せば、あとは自分で回復魔法を使うだろう」


「だけど、ボクは魔族だから、回復魔法はほぼ使えないよ」


「回復魔法のカテゴリーに入らぬ輸血魔法が、見つかるはずだ。それを探し出し、会得しろ」


「い、いま?」


「さもないと、サラは死ぬぞ──それとハニ。ジェリコの球体を寄こせ」


「え? 〈パーフェクト・キャンセル〉封じの呪術を発動するつもりなの? けど、クルニアさん。その身体で毒状態になったら、今度こそ命が──」


「いいから、寄こせ!」


 ハニは、クルニアへ球体を放った。

 クルニアは球体を手に取り、呪術を再発動した。


 これでアデリナは再度、〈パーフェクト・キャンセル〉が使えなくなった。

 そしてクルニアは、毒状態に侵されることに。果たして、どれほど持つだろうか。


 ハニは、ハッとした。


(すべては、ボクにかかっているんだ!)




   ──ローラ──



 瞬間、ローラは〈跳躍剣〉を使い、レイと共に空間転移した。

 

 安堵する。危うく、詰んでしまうところだった。

 アデリナの〈パーフェクト・キャンセル〉が復活しては、さすがに打つ手がなくなるところだ。


 実際、いったんは〈パーフェクト・キャンセル〉封じが解除されてしまったのだ。

 その封じがまた、復活した。紙一重のところで。


 毒状態のハニが耐えきれず、ついに息絶えてしまったのか。

 ローラには、『魔王の間』に残してきた仲間たちが、どうなったのか分からない。

 致命傷だったサラやクルニアも、いまも生存しているか不明だ。


 だがローラは、あえて考えないようにする。

 いまの自分の使命は、仮死状態のレイと共に、500秒を逃げ切ることだ。やってのける自信はある。〈神刃剣〉を使えない代わりに、〈跳躍剣〉を連続使用できる強みがある。


 500秒を果たせば、あとはレイに任せられる。


 受付係をしていたころ、冒険者として新入りだったレイ・スタンフォードに、ローラは可能性を見出した。

 化ける可能性を。


(受付係として、人を見る目には自信がありましたからね──)


 ふいに気づく。アデリナの追跡が止んでいることに。


 アデリナが諦めたとは思えない。ここまで、アデリナは〈ワープ〉で追いかけて来て、ローラは〈跳躍剣〉で逃げて来た。

 これでは埒が明かないと、アデリナは考えたのだろう。


 すなわち、アデリナは異なる戦略を打ってくる。


 残りは、350秒だ。


(500秒とは、これほどに長いものでしたかね?)




   ──ハニ──



 新たな魔法を取得するためには、次の2つのことが必要だ。

 その魔法を会得できるレベルに達していること。

 そして呪文を認識していることだ。


 呪文については、腕利きは詠唱省略が多い。しかし、初めて使う魔法ならば、正式な呪文詠唱も必要となってくるわけだ。


(まずは、魔法を見つけ出さないといけないよ)


 新たな魔法取得には、複数のルートがある。

 最も一般的なのが、魔導書から取得することだ。しかし、この場に魔導書はない。

 魔王城内を探せば見つかるかもしれないが、そんな時間はない。


 ほかにも、急激なレベルUPによって、自然と取得する流れもある。ただし、これも今のハニには、現実的な方法とは思えない。


(やっぱり、これしかないよね──)


 ハニはその場に胡坐をかいた。精神統一の構えだ。


 3つ目の新魔法取得ルートとして、無意識の世界に降りて行く方法がある。魔法の源とは、無意識の領域で繋がっているからだ。

 そこから、新たな魔法を持ち出すことは、難しいが不可能ではない。


 ハニは瞑目して、意識を降下させていった。

 回復魔法の領域には近寄らず、その上で輸血を行える魔法を探す。


 果たして、そんな限定的な魔法があるのだろうか。

 なくては困るわけだが。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ