145話 『魔王城』攻略戦⑨~駄犬が鍵。
──クルニア──
重力型の地雷を踏んだため、身動きが取れなくなったクルニア。
エトセラは、いまのクルニアなら楽に殺せると言い出した。
クルニアは溜息まじりに言い聞かす。
「駄犬。よく考えろ。貴様だけで、ポリーヌに勝てるのか? 私と貴様は同じ、接近戦タイプ。一方、トラップ魔法を駆使するポリーヌは、遠距離戦タイプだ。我々にとっては相性が悪い。改めて聞くが、私の協力なしに倒せるのか? 一撃必殺の〈零時間のフライドチキン〉とやらの間合いに、ポリーヌを入れることができるのか?」
エトセラは考え込みながらも、訂正してきた。
「〈零時間の肉団子〉」
「そうか。それで、どうなのだ?」
「そう、認める。ポリーヌは相性が悪い! アタシとオマエで協力して、戦うよ!」
「そういうことだ」
クルニアは〈破城槌〉を発動し、足元の地雷に戦闘槌を叩き付けた。不可視の地雷を壊すことで、重力から解放される。
「クルニア、クルニア。いまは〈天落なんたら〉は解いているの?」
「〈天落槌〉だ。常時発動していると、MPを消費するからな。それより、地雷を破壊できると判明したのは、地味に収穫だ」
「けど爆発タイプの地雷だったら、破壊したと同時に、ドカンとくるよね」
「まあな。それで駄……エトセラ、ポリーヌはどこだ?」
エトセラは尻尾を振りながら、駆けだした。
「ポリーヌの匂いは──こっちだよ!」
先ほどクルニアが、エトセラに言い聞かせた内容に、偽りはない。
ポリーヌとは相性が悪い。とくに今のように隠れられると。
だからこそ、エトセラの嗅覚は武器になる。
「アタシの歩いたルートで追いかけてくるんだよ、クルニア。そこが地雷のないルートだからね」
「ああ」
エトセラは、同行者のことなどお構いなしに、フルスピードで走る。
クルニアの敏捷性なら、置いていかれる心配はないが。
ふいにエトセラが立ち止まった。
クルニアは〈天落槌〉を起動する。
「近いのか?」
「そこの部屋の中にいるね!」
エトセラが示したのは、激しく戦闘するには不向きな狭さの部屋だ。
さっそくエトセラが室内に飛び込む。
クルニアは罠に備えて、部屋の外で待機した。
「あ、クルニア! アタシだけ先に行かせるとは、この裏切り者!」
(とくに罠ではないようだな)
「すまない、エトセラ。部屋の前で足を痛めたので、速度を緩めたのだ」
クルニアは適当なことを言いながらも、用心深く部屋の中に入った。
ポリーヌの姿はない。
エトセラは部屋の中央に座り、尻尾を振っている。
「ポリーヌは、どこだ?」
「アタシの座っているところから、ポリーヌの匂いがするよ!」
「……駄犬が、それは地雷だ!」
これまでの爆発がそよ風に感じられるほど、今回の地雷は凄まじかった。
エトセラがキャンキャンと、憐れっぽく鳴いている。
いまので魔王城の一区画が、丸ごと消滅したことだろう。
クルニアは考える。
ポリーヌの地雷は、進化するようだ、と。
防御力の高いクルニアとエトセラにダメージを与えるため、爆発力が増強された。
さらにエトセラの嗅覚を騙すため、地雷からポリーヌの匂いを出すよう設定までされていた。
エトセラはまんまと騙され、クルニアまで釣られたというわけだ。
クルニアは立ち上がり、あたりの惨状を確認する。
爆発の影響で、ここら一帯は激しく燃えている。
エトセラを見つけたが、戦闘復帰は難しそうだ。
防御力を上回る攻撃を受けたら、そこは小型犬だ。クルニアにとっては耐えられるダメージでも、エトセラには致命的となる。
クルニアはエトセラのもとまで行った。
「だいぶ、やられたようだな」
エトセラはクルニアに気づいていないようだ。
「……アデちゃん……アタシは……眠い……」
エトセラは目を瞑った。
てっきり死んだのかと思ったが、寝息を立て始めている。本当に眠り出したらしい。
(睡眠を取ることで、回復するのか?)
エトセラにトドメを刺すならば絶好の機会だが、クルニアは止めておいた。
「駄犬。貴様の分も、ポリーヌを殺しておいてやろう」
クルニアは考える。
ポリーヌの攻略法は、どこにあるのか、と。
ポリーヌは視線を向けるだけで、地雷を設置できる。
この地雷とは、トラップ魔法〈ランド・マイン〉によるものだ。床だけではなく、空間にも設置が可能。
しかも不可視。
地雷は、爆発するだけではなく、重力を発生するものなど複数の種類がある。
何より、地雷の内容自体が、戦闘の中で進化している。
つまり戦闘が長引けば、それだけポリーヌの地雷もレベルを上げてしまう。
では、どう攻略するのか。
クルニアは、エトセラの傍に座った。
それから〈天落槌〉を解く。
(追い立てられるのは貴様だぞ、ポリーヌ)
──ポリーヌ──
ポリーヌは、首を傾げた。
クルニアは一撃必殺の〈天落槌〉を解き、座り込んだのだ。まさか諦めたというわけではないだろうが。
(何が狙いかしらね?)
現在、ポリーヌは少し離れたところで、クルニアの動向を伺っていた。
地雷による攻撃の唯一の弱点は、標的が動かなくなると、こちらも攻撃しようがないことだ。
(もしかして、持久戦にでも持ち込もうというのかしら? そっちがその気なら──)
ポリーヌは、〈ランド・マイン〉のアップデートを開始した。
さらなる地雷の性能進化のためだ。
次なる地雷は、相手が動かずとも攻撃できるタイプにするつもりだ。
そして、次こそクルニアとエトセラの息の根を止めるのだ。
そのときだ。
クルニアが戦闘槌を振るい、空間を叩いたのは。
そこから闇が噴出する。
ポリーヌは、ハッとした。
(あの闇は、〈天落槌〉を纏っていた闇──〈天落〉。それを拡散させ出したということは)
〈天落〉の闇が触れた物質は、塵と化す。それがいま、拡散を始めたのだ。
ポリーヌは舌打ちした。
接近戦タイプのクルニアの中で、唯一、遠距離攻撃タイプともいえるのが〈天落〉。
しかし、それは消滅の闇を拡散するだけ、という代物。
クルニア自身も、闇の拡散はコントロールできないはず。
ところが──
(まさか!)
瞬間、消滅の闇が一か所に纏まり、形を成していったのだ。
造り出されたのは、ワイバーンか。テグスを模したのは、明らかだ。
全長は5メートルほどの、〈天落〉の闇で造られたワイバーン。
もちろん、接触すれば、塵と化すだろう。
それが飛翔し、猛スピードで迫って来た。
ポリーヌは戦慄する。
(私の居場所が、知られている!)
ポリーヌは身を翻し、走り出した。
頭の中では疑問が駆け巡る。
なぜクルニアは、ポリーヌの居場所を知ることができたのか。
クルニアからは視認できない場所に、潜んでいたというのに。それにクルニアは、探索魔法も使えぬはず。
なぜなのか──。
──エトセラ──
エトセラは夢の中で、ポリーヌを追跡していた。
「そこの突き当りを右だよ──あ、上のフロアへと移ったよ──」
実はエトセラは、意識を失いながらも、クルニアの補佐をしていたのだ。
つまり、嗅覚を使ってポリーヌを追跡する、という補佐を。
先ほどは、ポリーヌの匂いを発する地雷に騙されたが、二度も同じ手は食わない。
そしてエトセラは、寝言という形で、ポリーヌの位置を口にしていた。
──クルニア──
クルニアは、エトセラからの情報をもとに、〈天落龍〉を操る。
〈天落龍〉とは、〈天落〉の進化版だ。
戦闘中に進化するのは、なにもポリーヌだけではない。
拡散するだけだった滅びの闇が、操作できるようになったのだ。
その上で、龍の形にすることで、操作性をさらに高めた。
エトセラが言う。
「ポリーヌが、右側の空き部屋に隠れようとしているよ」
「逃がしはせん」
クルニアは〈天落龍〉を、空き部屋へと向かわせる。
(これが貴様の最期だ、ポリーヌ)
 




