表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

137/186

134話 決戦も近いので、作戦を立てる。




   ──レイ──



 王都ルクセンとキリガ要塞のほぼ中央に、ルゲンという大平原がある。


 メアリの軍勢は、そこまで進軍し、布陣する。コヒム側に揺さぶりをかけるわけだ。


 会議室で、そのように説明されたところで、レイは尋ねた。


「コヒムも軍を出して来るのだろうか?」


 ベラルーシ団長が答える。


「そこはコヒム王子の性格次第でしょうか。王都の守りは固い。籠城する手もある。我々が、ルクセン市民が傷つくのを恐れ、大がかりな攻撃を出来ないことも計算できるでしょう。ただ、それだと戦いは長引く」


「コヒムがキリガ要塞を攻め立てないのも、こちらの軍が要塞内に籠っていては、攻略が難しいからでしたね」


 要塞の中庭は、小さな村といっても良く、自給自足が可能だ。


「その通りです」


 レイは考える。

 しかしアデリナの力をもってすれば、キリガ要塞ごと吹き飛ばすのも、容易いだろうと。

 ただ、これまでのところ、アデリナは動いては来ていない。

 問題は、キリガ要塞から軍勢を出すことで、アデリナがどう反応するか。


 一つの仮説として、アデリナは何かを待っている、というものがある。

 何を待っているにせよ、アデリナが重い腰を上げる前に、決着を付けたほうがいい。


 ここで作戦立案者にして、総指揮官が咳払いした。先を進めて良いか、ということだ。

 ちなみに、この総指揮官はメアリ王女ではない。

 メアリは旗頭ではあるが、すべてを取り仕切るのは、メアリの宰相である。


 すなわち、リリアス。


 レイは思う。


(この8歳児、出世したなぁ)


 いま会議室にいるメンバーは、レイ、リリアス、メアリ、ベラルーシ、ボール侯爵の5名。


 リリアスは続ける。


「進軍の目的は、2つある。1つ目は、コヒムが近衛兵団を差し向けてきたら、叩き潰すこと」


 レイは聞いた。


「それで、コヒムが軍を出して来なかったら?」


 リリアス答える。


「それでもいい。1つ目の目的は、2つ目の目的の、オマケ。重要なことは、敵勢の注目を、ルゲン平原に向けること」


「なるほど。その間に、少数精鋭のパーティが、鉤爪山脈を越えるわけだな。魔王城に乗り込み、アデリナを討つために」


 アデリナさえ討てば、後はどうとでもなる。

 後ろ盾を失ったコヒムを倒すのは、容易い。

 アデリナのもとに集った幹部格たちも、まとまりを欠くだろう。

 何といっても、そのメンバーときたら、ヴァンパイア王女に、元・魔王城の大魔導士に、ゾンビ・マスターに、チート犬だ。


 アデリナがいなくなれば、解散は確定的。


 もちろん、『アデリナを討つ』ことが、簡単ではないのだが。


 ここでボール侯爵が、ある提案をした。


 リウ国の諸侯たちに、コヒムが魔王と組んでいることを公言してはどうか、と。


 レイは、なるほど、と思う。

 コヒムに付いている諸侯たちも、そんな事実を知らされれば、メアリ陣営に寝返りそうだ。


 しかし、リリアスは却下した。


「リウ国の王族と、魔王が結託しているというのは、客観的に見るなら荒唐無稽。確実な証拠はないため、誰も信じない。最悪、悪辣な虚言を流すとして、メアリ陣営の信頼が失われる」


 レイは、話題を戻すことにした。


「で、リリアス。精鋭パーティを魔王城に送るという話だが、メアリ軍にも強者がいないと困るだろ。万が一、アデリナがルゲン平原に出張ってきたら、どうする?」


 アデリナは当分のあいだ、魔王城に居座り続けるはずなのだ。

 だが、この推測が外れる恐れも、かなりある。


 とくにアデリナには、〈ワープ〉がある。

 魔王城からルゲン平原に〈ワープ〉して、〈トルネード〉と〈ゴッド・フレイム〉の融合魔法を発動。

 メアリ軍を壊滅させたところで、魔王城にまた〈ワープ〉で戻る。

 所用時間は5分とかかるまい。


 リリアスは、うなずいた。


「だから、メアリ軍には、単身でアデリナに対抗できる者を残す」


「単身でアデリナに対抗できる者?」


 レイは考える。

 ラプソディ以外に、そんな者がいるのか、と。


 リリアスは、平板な胸を叩いた。


「このリリアス!」


 メアリが満足げな表情。


「さすが、我がリリアス。わたしと行動を共にしたいのだな?」


「戦略的な理由であり、それはない」


 レイは納得できない。


「まってくれ。リリアスの〈タイム〉は、アデリナ討伐パーティにとっても、重要だ」


 メアリが、レイを睨んだ。


「スタンフォード殿。冒険者が幼女に頼るとは、情けない」


「……幼女を宰相にした人に言われてもなぁ。だが、了解したよ。リリアスは、メアリ軍にこそ必要な人材だ」


 リリアスは会議を続ける。常に冷静なのがリリアスだ。


「ではアデリナ討伐パーティのメンバーを、発表する。レイお兄ちゃん、クルニアお姉ちゃん、ハニお姉ちゃん、サラお姉ちゃん、生意気な少年、以上」


『生意気な少年』とは、ジェリコのことだ。


「まった。質問したいことが2つある。とりあえず、1つ目。ローペンは、どうするんだ?」


 リリアスは小首を傾げる。


「ローペン誰?」


「……地下牢の凡人だよ」


 ハニが変なことを吹き込んだため、リリアスの中では、ローペンは今でも『凡人』だ。


「ふむ。パーティ・メンバーを増やしすぎると、敵に発見されやすくなる。凡人はたいした戦力になりそうにない。よって、現状維持」


「……せめて地下牢から出して、メアリ軍に入れてやったらどうだ?」


「では、リリアスの盾要員として、徴収する」


「……まぁ、いいか」


 レイが思うに、地下牢から出したことで、最低限の義理は果たした。


「では、もっと重要な質問だが」


「ふむ」


「パーティ・メンバーに仮決定している、サラとハニのことだ。確かに、2人は必要な要員だ。だが──いまだに行方不明なんだが」


 リリアスの回答は、シンプルなものだった。


「作戦決行までに、必ず捜し出すこと!」



※※※



    ──ローラ──


 キリガ要塞内の訓練場。

 ローラが目指したのは、そこだ。


 冒険者ギルドと王国騎士団は犬猿の仲。

 とはいえ、いまは国家有事のため、対立の感情も脇に置いてある。


 だからこそ、冒険者ギルドのローラが、キリガ要塞に滞在することもできているのだ。

 決戦のとき、メアリ軍に力を貸すことを条件に。


 ローラとしても、それは問題ない。

 リウ国を任せられるのは、コヒムではなく、メアリ王女だ。


 だが、ローラは一つハッキリさせておきたいことがあった。

 そのため、作戦会議の終わった午後に、この場に足を運んで来たわけだ。


 訓練場の戦闘フィールドでは、ベラルーシが模擬戦を行っていた。


 ローラは、〈墨〉を召喚。


〈墨〉とは、12本の剣(以前は13本だったが、〈竜殺し〉をレイに譲っている)のうち、『初期剣』と言えるものだ。


 というのも、〈墨〉は特殊能力を有していない。

〈墨〉は、ただの(つるぎ)であり、同時に剣というものを最上級まで極めた逸品だ。


 つまり、扱う剣士の技量によって、〈墨〉の価値は大きく変わる。


 ローラは〈墨〉を右手にして、戦闘フィールドへと飛び込んだ。


「ごめんなさい」


 まず、ベラルーシと対戦していた騎士団員を、〈墨〉を振るった風圧で、吹き飛ばす。


 それからベラルーシへと、〈墨〉の切っ先を突き付ける。

 周囲にいた騎士団員たちが、殺気立つ。


 展開によっては、ローラは〈跳躍剣〉を使うつもりだ。

〈跳躍剣〉の力によって、自身とベラルーシのみを、300メートル先まで空間転移させる。


 だが、その必要はなかった。

 ベラルーシが鋭く言う。


「寄さんか! この方は、俺の大切な客人だぞ!」


 騎士団員たちに釘を刺したところで、ベラルーシも剣を構える。


「剣聖と手合わせできるとは、願ってもない」


 ローラは小首を傾げる。


「私のことをご存じでしたか。冒険者ギルドでは長らく、私たちGODランクは極秘事項としていたはずですが」


「我々は、あなたがた冒険者ギルドと拮抗する、唯一の組織だ。間者の一人や二人は、送り込んであって、当然ではないか?」


「なるほど。そこまでご存じでしたら、私が何を求めているのかも、お分かりでしょう?」


 ベラルーシの顔に、何らかの感情が過った。

 それは罪悪感にも見えた。または後悔の念か。


 ローラは畳みかける。


「ベラルーシさん。私の記憶が確かでしたら、同じ時期でしたね? エリカが失踪したのと、先代の団長が病死し、あなたが団長を引き継いだのは? なにか、意味はあるのでしょうか?」


 刹那、ベラルーシが剣を一閃させる。

 

 ローラは紙一重で避け、〈墨〉の剣身を走らせる。

 切っ先がピタッと止まったのは、ベラルーシの頸から1ミリの位置だった。


 ベラルーシは笑った。


「さすが剣聖だ」


 ローラは剣を下した。


「エリカに何が起きたのか、教えてもらいますね?」


「もちろんだ。だが、メアリ王女が玉座を奪還するまで、待って欲しい」


「分かりました。ですが、なぜ今ではないのですか?」


 ベラルーシは不可解な表情を浮かべた。


「いま聞けば──あなたは、俺を殺すかもしれないからだ」


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ