表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

132/186

129話 ぶらり旅④~サラ・ハニvs地雷マスター・キノコ狂い。




   ──ハニ──



 リボルザーグの背後で、空間が裂ける。

 裂け目からは、新手が2人現れた。


(巨人も、この空間転移で送り込んできたようだね)


 新手は、男と女だった。

 男のほうは、一番に目を引くのが、その髪型だ。寸分の狂いもない、マッシュルームカットなので。


 ハニは思う。

 この男が、キノコ侵食の魔法の使い手でなかったら、それはもう詐欺だよ、と。


 女のほうは、20代後半。長身で、金髪は後ろできつく束ねており、眼鏡を着用。

 この女が、リボルザーグに話しかける。


「閣下、ご報告いたします。ムジャルが、イーゼルに『荷物』を届けたようです。現在、深度1階層の収容エリアに監禁している模様」


 数秒の間があった。

 リボルザーグが〈テレパス〉で、眼鏡の女だけに話しかけているのだろう。


 やがて女の返答が、ハニの耳にも聞こえた。


「キャリバンとの関わりは、まだ確認できてはいません」


 数秒の間の後、女が答える。


「はっ。閣下のペットを痛めつけた不届き者どもは、我々が排除いたします。閣下の手を煩わせるまでもありません」


 またも空間が裂けて、リボルザーグがそこに入って、消えた。

 ひとまず、ハニはホッとした。

 リボルザーグという女児は、手に負えなかっただろう。そこいくと、新手の2人ならば、何とかなるかもしれない。


 眼鏡の女と、キノコ頭の男が、こちらに歩いてきた。女が言う。


「どうも、旅人さんたち。私はポリーヌ、彼はカエンタケ。残念ながら、閣下のペットを害した咎で、罰せねばならないわ」


 ハニは拳を振り上げた。


「大人しく、やられると思うのかな!」


 サラが一歩前に出た。


「この一帯の村々を襲い、人々を誘拐しているのは、あなた達ですか? こんな卑劣なことをする目的を、教えていただけますか?」


 ポリーヌが、小ばかにしたように言う。


「質問されたからって、答えると思うの? けれど、私たちを卑劣と言うのは、聞き捨てならないわね。私たちは、イーゼルという変態と取引関係にあるだけ。さらった村人たちは、イーゼルに送っている。イーゼルがどんな実験に使っているかは、私たちの──なにより、閣下が認知されぬことよ」


 カエンタケのほうが呆れた様子で言った。


「おい、ポリーヌ。何だかんだと、喋りすぎだ」


「お喋りが好きなのよ」


 ハニが、サラの肩をつかむ。


「サラ、こいつらと話し合うのは無理だからね」


 サラはうなずいた。


「はい。ただ断片的ながらも、人攫い組織のことが分かりましたね。少なくとも、組織名までは」


「【螺界】だね。リボルザーグという女児が、ご丁寧に名乗ってくれたからね」


 さらに、ハニは考える。


 さらわれた村人たちは、リボルザーグを経由して、イーゼルという者に渡されているようだ。

 またポリーヌの言い方からして、リボルザーグとイーゼルは、必ずしも友好関係ではない。


 ほかに名前が出てきたのは、キャリバンとムジャル。双方とも、ハニは聞いたことがない。そもそも、【螺界】という組織も初耳だ。


(まぁ、レーベ国にある組織を、ボクが知っているはずもないんだけどね)


 ポリーヌが、妖しく微笑む。


「念のため、言っておくわね。降参するのならば、楽に殺してあげるけど?」


 サラが、ハニの耳元で言う。


「ハニさん。どちらと戦いますか?」


 ハニは考える。

 カエンタケを、キノコ侵食魔法の持ち主と仮定するなら、もう二度とキノコは御免だ。


「ボクは、ポリーヌという眼鏡女を倒すよ」


「了解しました」


「じゃ、ボクから行くよ!」


 ハニは地を蹴って、ポリーヌに突撃した。


 同時にサラが、〈ホーリー・アロー〉を、カエンタケ目がけて連射。


 こうして、ハニvsポリーヌ、サラvsカエンタケの状況が出来上がった。


 ポリーヌは跳躍して、ハニから距離を取ろうとする。


 ハニは、ポリーヌを追尾した。


「逃がさないよ!」


 ポリーヌは両拳を叩き付ける。


「逃げているわけではないのよ。トラップを仕掛けていたの」


「なにを訳のわからないことを──!」


 瞬間、ハニが着地した地面が、大爆発を起こした。


「くっ!」


 爆風に吹き飛ばされたハニは、地面を転がり──

 転がる地面から、さらなる大爆発が、連続して起こった。


「うぁぁあ!」


 ポリーヌの笑声が聞こえる。


「気をつけてね、お嬢さん。ここら一帯は、トラップの散布済みよ。私の魔法〈ランド・マイン〉によってね──私は、それらを地雷と呼んでいるわ!」


 ハニは大地を蹴って、近くの建物の屋上まで跳んだ。


「この、ろくでもない魔法を──」


「そこもね」


「えっ?」


 とたんハニは、着地した建物ごと、激しい爆炎に飲み込まれた。




   ──サラ──



 カエンタケもお喋りが好きらしく、話し出す。


「オメーさん、キノコっていうのが何なのか、知ってるか?」


 サラは、腕組みした。

 改まって問われると、答えられない。

 キノコ料理なら、いける口だが。


「植物の親戚ですね」


「バカか。間抜け、阿呆、無能、クズ、つーか、死ね」


「ええ! そこまで言われなきゃいけませんか?」


「キノコっていうのは、菌類だ」


 サラは唖然とした。


(菌類ということは、カビの親戚では? カビの親戚って、食べられるのですね……キノコを最初に食べた人は、偉いと思います)


「いえ、キノコ講座とかはいらないのですが」


「まぁ、聞けよ。キノコっていうのは、胞子を飛ばすことで、子供を残していく。胞子は風などで運ばれ、新たな地で発芽するわけだ──んで、質問だが。オメーさん、オレっちの風下にいるが、大丈夫かぁ?」


 サラは、ハッとする。

 敵に指摘されるまで、風下にいることに気づかないとは、迂闊だった。


 カエンタケが、キノコの胞子を飛ばしていたとしたら、すでにサラの皮膚に付着し──


「──ぐっ!?」


 唐突にサラは、息苦しさを感じた。

 それは急速に悪化し、ついに呼吸困難に陥る。空気を求めて、口をパクパクさせても、呼吸はできない。


(い、一体、なにが──)


 カエンタケが勝ち誇って言った。


「胞子を吸ったんだよ。すでにオメーさんの肺の中で、キノコが発芽したんだ。そして、自然界では有りえぬ速度で、にょきにょきと育っているのさ。オメーさんの肺を取り出したら、キノコで埋め付くされているだろう! これが、改変胞子をまき散らす、オレっちの〈茸事変〉だ!」


 サラは素早く考える。

 このまま呼吸ができない状況が続けば、意識を失うだろう。

 その先に待つのは、窒息死だ。


 どれくらいの猶予があるのか?

 一つ確かなのは、肺からキノコを取り除かねば、事態は改善されないということ。


 だが、〈ゴッド・ヒーリング〉では、キノコは排除できない。

 なぜか? キノコだからだ。


 シンプルながら、盲点ともいえる回答。

 すなわち、〈ゴッド・ヒーリング〉は、負傷を癒すものだ。肺で生えようが、キノコは負傷とは言えない。


 たしかに〈ゴッド・ヒーリング〉の副次効果には、呪いの解除はある。ただし、〈茸事変〉というのは呪いではなく、魔法。


 よって〈ゴッド・ヒーリング〉での回復は不可能。


 否、方法はある。


 ハニの右腕がキノコで埋め尽くされたとき行ったことと、同じことをすれば良い。

 ただ、果たして可能なのだろうか。


 だが迷っている時間はない。


 サラは〈ホーリー・ブレイド〉を発動。


 聖なる刃を、自らの胸部に向ける。


(キノコに満ちた肺を取り出し、新たな肺を〈ゴッド・ヒーリング〉で作り出します!)


 聖なる刃で、自ら胸部を切り裂く。

 激しい出血の中、さらに刃を深くまで押し込み、まずは右肺の摘出を──


 刹那、サラは後方に跳んだ。


 カエンタケが短剣で斬りつけて来たためだ。


「キノコを採るには、これくらいの短剣があると、便利なんだぜぇ」


 サラは〈ゴッド・ヒーリング〉で、胸部の傷を癒した。


 もちろん、肺にはまだキノコが残ったままだ。


 もともと困難な肺の摘出である。

 それが敵に妨害されている中では、まず不可能だ。


(ほかの方法を見つけ出さなくては──)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ