128話 ぶらり旅③~ハニが巨人をボコって、自信を取り戻す話。
──ハニ──
その夜。
ハニは、考えていた。
これで3度目だ。どこかの村で、襲撃者たちを待ち構えるのは、と。
1度目は、エルフの村を、リザードマン盗賊団から守ったとき。
2度目は、アドコンナ村で、吸血鬼たちを撃退したとき。
そして、3度目は、今だ。報復の虐殺に来る人さらい組織を、これから迎撃する。
ハニとしては、こんなところで寄り道している場合ではないのだ。
ラプソディを見つけねばならないし、アデリナも倒さねばならない。やることは多いのに、さらに増えてしまった。
どこで間違えたのか。
振り返ってみると、雑木林の空地で朝食を食べたことだ。
助けを求めてきた子供と遭遇しなければ、こんなことにはならなかった。
さらに、ハニは考える。
強大な敵に、サラと2人だけで挑むのも、これが3度目だ、と。
1度目は、〈純白の塔〉で黒龍と戦ったとき。
2度目は、リウ国の王城で、ルティと戦ったとき。
腹立たしいことに、両方ともハニは敗北している。黒龍には殺されたし、【第二形態】のルティからも敗走した。
ハニは、ここのところ敗北が多いような、と考えを進める。
先ほども、危うくキノコ如きに殺されかけたし。
実のところ、ハニは自信を無くしかけている。
どうも、自分はあまり強くないのではないか、と。
リウ国で冒険者になったころは、無双していたものだ。
闘技大会では、かのバジリスクも倒した(幼体だったが)。
事態が狂ってきたのは、〈地獄梟〉に倒されかけたときか。
あれ以来、これという勝利がない。せいぜい倒したのは、討伐パーティの三流の呪術師くらいか。
そこまで考えて、ハニはげんなりした。
三流の呪術師だって、ハニは負けるところだったのだ。呪いによって、ほとんどゴーレムにされてしまったのだから。
そこをサラが通りかかり、回復魔法で救出してくれたわけだ。
(おかしいなぁ。ボクは、強いはずだよ。少なくとも、雑魚ではないはずだ。それなのに、これはどういうことだろう?)
単純な話ではある。
とにかく、戦う敵が片端から、強すぎなのだ。
〈地獄梟〉、黒龍ムシャムシャ、ヴァンパイア王女。
どいつも、強敵ばかりではないか。
(強敵とは、もう戦いたくないなぁ)
かといって、敵が雑魚すぎるのも考えものだ。
集団誘拐の実行犯だった男どもは、弱すぎて、倒したうちに入らない。
(ふむ。ちょうど良い強さが欲しいよねぇ。かつて倒した、吸血鬼リークなんかは良かったなぁ。苦戦しつつも、倒せたし……いや、リークを倒したときも、レイとリガロンが協力はしたけども)
ハニは溜息をついた。
レイは、魔王ブート・キャプでレベルを上げ、帰ってきた。
(ボクも、あれかな、修行とかするべきかなぁ?)
そんなハニも、(ローペンなら、余裕で勝てるけどなぁ)とは、思うのだった。
現在──ハニがいるのは、無人となったヒゴ村の中心だ。
ヒゴ村とは、ホンスの暮らす村。村人は、すでに全員退避している。
ハニはヒゴ村の全域に対して、探索魔法を発動していた。
いま、この探索魔法に引っかかる者があった。
すなわち、侵入者だ。
だが、ハニは首を傾げる。
どうも、おかしいのだ。
侵入者たちは、唐突に村の中に現れた。まるでワープして来たかのように。
さらに、そのサイズだ。
探索魔法では、対象の姿形までは掴めない。
それでも、大まかなサイズくらいなら分かる。ただ普通は、『大人』か『子供』かくらいの見極めにしか使えないわけだ。
ところが──。
そばで待機しているサラが、ハニに問いかける。
「どうしましたか、ハニさん?」
「大きすぎる」
「お月さまがですね」
「寝ぼけている場合じゃないよ、サラ」
ハニとサラが待機している場所は、市庁舎の屋上。市庁舎は、ヒゴ村の中心にあり、最も高い建物でもある。
村への襲撃者を待ち伏せするには、ちょうど良い建物だ。
ハニは、侵入者を探知したほうを見た。
(あ。探知魔法のミスじゃなかったんだね)
月明りの中、30メートル・クラスの影が、3体、近づいて来るのだ。
(本物の巨人じゃないか。というか、なんで生きているんだろ)
巨人族は滅ぼされたはずだ。
だが、現に目の前を歩いている。
巨人のサイズからして、そうそう長いあいだ、身を隠してはいられないはず。
つまり、絶滅せずに生き延びていたのなら、目撃されていなければおかしい。
(ヒゴ村の中に、ワープするようにして、いきなり現れたよね。だけど巨人族は、魔法は使えないはず。……何者かが、送り込んできたのかな?)
ハニが考え込んでいると、サラが感嘆の声を上げる。
「巨人ですね。はじめて見ました」
「そりゃあ、そうだよ。絶滅したはずの種族だものね」
のんきに会話していた2人だが、同時に事の重大さに気づいた。
「……まさか、見せしめに村人を虐殺しに来たのが、あの巨人たちなのでしょうか」
「どうやら、そのようだよ。見てみなよ」
巨人3体は、屈みこんでは、家屋内を覗き込んでいる。
サラが言った。
「村人を探しているようですね」
事前に村人は避難させたので、いまこの村にいるのは、ハニとサラ。さらに、巨人が3体。
ハニは、あることを思い出した。
「聞いたことがある。巨人族は雑食だったそうだよ」
「雑食は人間もですよ?」
数秒してから、サラも、ハニの言いたいことが分かったようだ。
「食べるために、村人を探しているのですか?」
「だね。ほら、誰もいないと分かった建物から、壊しだした」
ハニが指さした先では、巨人たちが家屋の破壊を始めている。蹴ったり、持ち上げて投げたりと、癇癪を起しているようでもある。
「ハニさん。このままだと、村人の住む場所がなくなってしまいます」
ハニは拳を握った。
「じゃあ、巨人退治といこうか」
ハニはサラを抱えて、市庁舎から飛び降り、巨人たちのもとへ駆けた。
巨人は、鈍感そうに見えて、なかなかに鋭いらしい。すぐさま、ハニ達に気づいたので。
ハニは、サラをおろしてから、まずは挨拶がわり。
〈ゴッド・フレイム〉を発動した。
狙いを定めた巨人を、塔のごとき火柱で飲み込む。〈ゴッド・フレイム〉が終わったときには、巨人の焼死体が出来上がっていた。
これで、残るは2体。
(ふむ。〈ゴッド・フレイム〉は、殲滅魔法なんだから、こうでないとね)
〈ゴッド・フレイム〉が一撃必殺となって、ハニは気分がいい。ここのところ、〈ゴッド・フレイム〉直撃を受けても、平然としている敵が多かったので。
サラが、注意する。
「ハニさん。無暗に命は奪わないように、お願いしますよ」
そんなサラは、まず〈ホーリー・アロー〉を連射。
2体目の巨人の膝頭に、聖なる矢が集中する。
膝を破壊された巨人は、尻餅をついて、倒れた。
瞬間、サラは巨人へと駆け出しながら、〈ホーリー・ブレイド〉を発動。
聖なる刃で武装した〈天使の杖〉が、一閃。
尻餅ついた巨人の右手首を、切断した。
その巨人は、怒りに我を忘れたか、尻餅のまま暴れ出す。
そもそも両膝を壊されたので、立ち上がれないわけだが。
対するサラは冷静に動き、もう一度、〈天使の杖〉を一閃した。
今度は、その巨人の左手首も、切り落としてしまう。
これで2体目の巨人は、両膝と両手を破壊され、戦闘続行が不可能となった。
ハニは思う。
(……命は取ってないけど、けっこうエグイ戦い方のような)
ハニは跳んで、近くの建物の屋上に着地。
そこから、さらなる大跳躍。
目指すのは、最後の巨人の頭部だ。
その巨人の脳天へと、必殺技〈ペチャンコ礫波〉の拳を叩き込む。
瞬間、頭頂部への一撃を受けて、巨人はぶっ倒れた。
ハニは、サラのそばに着地。
「ふぅ。巨人といっても、たいした敵ではなかったね」
サラは、ハニの後ろを見やる。
「──あの子は、逃げ遅れた村人でしょうか?」
「え?」
ハニも、サラの視線を追いかけ、子供を見つけた。
女児のようだが、どうにも不気味だ。
漆黒の髪は長すぎて、顔までも覆っている。
ふいにハニの頭の中で、女児の声がした。
〈テレパス〉だ。
〔その方らは、なんの恨みがあって、私の巨人たちの食事を、邪魔するのか?〕
ハニは鋭い口調で言った。
「サラ、あの女児は敵だよ!」
「ですが、まだあんなに小さいのに」
「見た目に騙されちゃダメだって。リリアスも小さいけど、クルニアさんより強いんだからね!」
ハニは、〈テレパス〉を使ってきた女児に、言った。
「キミは何者だ!」
女児の身体が浮かび上がる。
〔私の名は、リボルザーグ。【螺界】の〈管理者〉であり、巨人たちの飼い主だ〕




