13話 新妻さん、吸血鬼をボコる気満々。
アドコンナ村の村長の息子が、レイたちを出迎えた。
彼が、冒険者ギルドに依頼したのだ。
なぜ村長自身が出迎えに来なかったかといえば、もういないためだ。吸血鬼による犠牲者の中に、村長もいたのだ。
そのことを、レイは村長の息子から聞いた。
「そうでしたか。ご愁傷様です」
それから、事件について詳細を尋ねた。
村長の息子は、目撃者の証言を集めていた。
事件が起きたのは、3日前の夜のことだ。アドコンナ村に、巡回の祭司が来た。祭司は、毎月、決まった日にやって来るという。
村人が、首を捻ったのは、その祭司だ。アドコンナ村を担当する巡回祭司とは、別人だったのだ。
新しく来た祭司は、リークと名乗った。
いつもの巡回祭司は、体調を崩したのだという。それで代理として、リークが神殿より送られた。
この話で、村人たちは納得した。
リーク祭司は、ミサを執り行った。それは夜に行われたのだが、祭司の属する神殿には、月の神も奉ってある。
つまり、わざわざ夜に執り行うことは、おかしくはなかったのだ。
「……そして、気づいたときには、大勢の人が犠牲になっていました。祭司は悠然と歩き、夜の闇へと消えて行ったのです」
と、村長の息子は話し終えた。
「血を吸う行為は、それほど早く行われるものなのか? 人間の血液量は、体重の13分の1という話だぞ。それを、ほとんど吸い取るわけだろ?」
ラプソディが、レイの疑問に答える。
「噛みつけば、一秒もかからないわね」
「吸血行為は、特殊スキルなのだろうか?」
「うーん。特殊スキルというより、生物が、生まれながらに持っている力ね。人魚が、地上と水中の両方で呼吸できるのと、同じことよ」
「なるほど。しかし、噛まれたら、ほぼ即死というわけか。スキルでもないのに、かなり強力な『攻撃』だ」
「そうでもないわよ。それなりに防御力があれば、噛まれても、簡単に牙は通らないもの。牙が通らなければ、血も吸われない」
「まぁ、村人は防御力など無いだろうからな……おれもだが」
「レイのことは、あたしが守ってあげるから、心配しないで」
「奥さんに守ってもらうのか。戦士として、情けないような気がする」
「バカね、レイ。戦闘力が、圧倒的に違うのよ。それほどの違いがあるのだから、守られることを恥じることないわ」
「うーむ。まぁ、その話は置いておこう。とにかく、リーク祭司の正体が、吸血鬼だったんだな。おそらく本物の祭司は、アドコンナ村に至る途中で殺したのだろう。そして祭司服をいただいて、成りすました。わざわざ、夜にミサを執り行ったのも、リークが吸血鬼なら納得だ」
吸血鬼は、強力な種族だ。
しかし、弱点もある。銀と日光だ。
よって、銀の剣などが手元にあれば、心強かった。しかし、そこらの武器屋で売っているものではないので、レイは諦めた。
こうなると、もう一つの弱点である日光が、頼みの綱か。日光のもとでは、吸血鬼の戦闘力は、かなり下がるのだ。ようは冒険者でいうところの、毒状態のようなもの。
「吸血鬼リーク。奴は、太陽があるうちは、暗闇に潜んでいるのだろうな。問題は、アドコンナ村の近くに、今もいるかどうかだ」
村に到着したときは、吸血鬼は近くに潜んでいるものと、レイは考えた。
だが、村長の息子の話を聞き終えた今は、何ともいえない。
吸血鬼リークは、祭司に成りすまして、この村で食事をした。食事とは、もちろん、血のことだ。
もう目的は果たしたのだから、すでに遠くへと移動してしまったのではないか? しかし、ラプソディは別意見のようだ。
「その心配はないと思うわよ。吸血鬼は、いったん餌場を決めると、食べ尽くすまで執着するから」
村長の息子の話では、アドコンナ村にはまだ、62名の村人がいる。
「村人を殺し尽くす気なのか」
「間に合って良かったわよね。3日前の食事の量から、リークがお腹を空かすのは、そろそろよ。もしかすると、今晩にも、この村に現れるかもね」
「だとしたら、間一髪だったな」
レイたちが到着していなかったら、今度こそ、アドコンナ村は全滅していただろう。
ここで、ハニが口を開いた。
「ですが、ラプソディ様。吸血鬼は、バカではありません。アドコンナ村を襲えば、村人が外部に助けを求めることは、分かっていたはずでは? 実際、冒険者ギルドに討伐の依頼が、いったわけですから」
ふいにラプソディは微笑んだ。
しかし、その目は笑っていない。獰猛な光がある。
「読めたわ。吸血鬼リークは、あたしたちを待っていたのよ」
「ラプソディ様を、ですか?」
「違うわ。さすがに、魔族が来るとは夢にも思っていないでしょう。けれど、冒険者パーティが来てくれたら、と考えているのではないかしらね」
レイは首を捻った。
「吸血鬼は、まさか討伐して欲しいわけではないよな? すると、なにが目的だ?」
ラプソディの答えは、簡潔だった。
「冒険者の血よ」
「どういうことだ?」
レイの疑問に答えたのは、リガロンだった。
ちなみにリガロンは、王都の武器屋で、馬をも両断できそうな戦斧を購入し、装備していた。
「そういや、聞いたことがあるぜ。吸血鬼は、血を吸うことで、生命の力を得る。上等な血を飲めば、その分、力も強くなるってな。家畜よりも、人間がいい。人間なら人間で、能力値の高いほうがいいんだろ」
「なるほど。農民よりも、冒険者の血のほうが美味いわけか。戦闘訓練を受け、ステータス数値の高い人間の血だから、な」
(すると、おれたちは誘い込まれたのか?)
だが、この考えは不毛だ。
仮に罠だとしても、クエストを受けた以上は、アドコンナ村に来ない、という選択肢はなかった。
それに村民を見捨てるわけにはいかない。
(考えようによっては、好都合か。敵の狙いが分かっているのなら、対策も立てやすい)
ハニが、リガロンを指さす。
「けど、キミを見たら、吸血鬼もガッカリするよ。リザードマンの血は不味い、という話だからね」
リガロンが言い返す。
「魔族の血も、不味いと聞いたぜ」
リガロンは、ラプソディとハニが魔族であることを知っている。
このクエストを受ける前に、レイが明かしたのだ。
パーティの仲間なのだから、隠し事はしないほうがいい。リガロンは、「どうりで、オメーの奥さんは強いわけだ」と、納得していた。
レイは、村長の息子をチラッと見た。リガロンの『魔族』発言は、聞こえなかったようだ。
「ハニ、リガロン。2人とも仲間なんだから、仲良くしろ」
レイが説教すると、今度はハニがレイを睨む。
「生意気だよ、人間の分際で」
そんなハニを、ラプソディが叱りつける。
「こら、ハニちゃん。レイの言うことを聞きなさい」
レイは腕組みして、考えた。
このパーティには、まだ団結の精神が欠けている。今回の吸血鬼討伐クエストで、仲間意識を持つことが出来たらいいのだが。
レイは悩むのを切り上げて、言った。
「吸血鬼の狙いは、おれたちだ。なら、今夜にでも襲撃してくるだろう。ところで、ラプソディ。吸血鬼と戦ったことはあるのか?」
「ないわね。だから、このクエストをやってみたかったのよ」
ラプソディは、半ばローラを脅すようにして、クエストの撤回を阻止した。それは吸血鬼と戦ってみたい、という好奇心があったからのようだ。
「ラプソディ様。バルバさんを呼んでみたら、どうでしょう?」
ハニが、そう提案する。
レイは尋ねた。
「バルバって、誰だ?」
ラプソディが答える。
「あたしの親衛隊員の一人よ。狼男なのよ。彼の一族は、吸血鬼と抗争している。吸血鬼を狩れるチャンスは、逃したくないでしょうね」
「なら、仲間に加えてもいいぞ」
「無理ね。いま、どこにいるか分からないもの」
ラプソディの親衛隊員は、けっこう自由に動き回っているようだ。
その証拠に、すぐに呼び寄せることのできた親衛隊員は、ハニだけだった。
レイは、方針を決めた。
「おれとハニが、囮になろう。村の宿に泊まり、吸血鬼リークが襲来するのを待つ。ラプソディとリガロンは、宿の近くで待ち伏せてくれ」
こうしてレイたちは、夜を待った。




