表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

128/186

125話 決闘終了。





   ──レイ──



 レイは渾身の右拳を、クルニアの腹部に叩き込む。

 クルニアが装着している鎧は、軽装タイプ。よって腹部のガードはないので、じかに拳が入った。


 とはいえ、クルニアの高い防御力を考えれば、大ダメージとはいかないだろう。

 だが、レイも生身ではなく、闇黒騎士での殴打だ。大岩をも粉砕する破壊力がある。少しはダメージがあるはず。


(さらに、連続パンチで畳みかけて──)


 瞬間、レイは後方へと吹き飛ばされる。

 クルニアに蹴り飛ばされたのだ。


 レイは再度、〈竜殺し〉を呼んだ。飛んで来た〈竜殺し〉の柄を、右手で握る。

 それから体勢を立て直しつつ、クルニアを観察する。


 腹部への一撃でダメージを負っていたとしても、顔には出していない。

 クルニアならば、たとえ死にそうなダメージだとしても、表情に出すことはないだろうが。


 クルニアが動く。


「小細工を弄してくれたな、レイ──〈魔月壊叩〉!」


 レイはハッとした。


(ベルグの闘技場で見せた、あの技か)


 クルニアの眼前に、球体が出現した。この球体を、クルニアが戦闘槌で破壊することにより、衝撃波が発生するのだ。


 レイは素早く考える。

 衝撃波の威力は、距離さえ取っていれば、さほど恐ろしいものではない。


(おれのいる位置ならば、問題ないな)


 クルニアの戦闘槌〈殲叩き〉が、球体を叩く。

 

 刹那、球体は衝撃波を発生するかわりに、消滅した。


 レイは驚く。


(なんだと、球体が消え──)


 瞬間、レイの間合いに、球体が出現した。


(しまった! この球体は、空間転移させることも可能なのか──)


 球体が、破裂。

 至近距離からの衝撃波が、レイに襲いかかる。


「ぐっ!」


 吹き飛ばされたレイは、持ちこたえられず地面を転がった。

 そのさい、〈竜殺し〉の柄を離してしまう。

 通常の剣ならともかく、〈竜殺し〉は巨大だ。衝撃波を食らいながら把持し続けるのは、難しかった。


 レイは立ち上がるなり、何とか体勢を立て直そうとする。


(まず、〈竜殺し〉を装備し直さねば──)


〈竜殺し〉を呼ぼうとしたが、クルニアが許さない。

 すでにクルニアは飛びかかって来ており、レイの眼前まで迫っている。


 レイが衝撃波で吹き飛ばされたと同時に、クルニアは突撃に入ったのだろう。

 すべてクルニアの作戦通りということだ。


(まずい──)


〈竜殺し〉も〈プリンセス〉もない。いまのレイに、クルニアの攻撃を防御する手段はないのだ。


 当然ながら、クルニアも承知していることだろう。


「これで終わりだ、レイ! 〈崇爆斬〉!」


 超高密度エネルギーを纏った〈殲叩き〉が、レイめがけて、振り下ろされる。


 瞬間、レイは脳内で検索した。

〈崇爆斬〉に対抗できる、技はないのか、と。 


 素質がないため、魔法は使えない。だから、可能性があるとしたら、必殺技スキルだけだ。

 武器がない以上は、拳を使った必殺技スキルとなる。


 そして、レイがこれまで目撃してきた中で、最も強力と思えるもの。

 それは──


「〈魔轍〉!」


 レイの右拳が、真っ赤に輝きだす。

〈魔轍〉が発動したためだ。


 かつて竜人オルが、ラプソディへと放とうとしたのが、この〈魔轍〉。

 レイは記憶の中から、〈魔轍〉を見出し、瞬時に会得したのだ。


〈魔轍〉の右拳を振り上げ、迫り来る〈崇爆斬〉へと激突させる。


 刹那、二つのことが起きた。


〈崇爆斬〉発動の戦闘槌を、弾き返すことに成功。


 その代償として、レイの右拳が砕け散った。


「うがぁ!」


〈崇爆斬〉の一撃を弾き返せたとはいえ、やはり〈崇爆斬〉のほうが、格は上だった。


(だが、まだ左手が残っている──)


 瞬間、レイの視界は天を向いた。

 クルニアの足払いを食らい、仰向けに倒れたのだ。


(防御が、間に合わない──)


 決闘の最後にレイが見たのは、振り下ろされる戦闘槌だった。


 暗転。




    ──リリアス── 



 リリアスは驚いていた。


 クルニアは、リリアスが知る中でも、5本の指に入る強者だ。

 そんな強敵に対し、レイは善戦したのだから。


 いまのレイ・スタンフォードは、リリアスが初めて会ったときとは、比べものにならないほど強い。


(ふーむ。レイお兄ちゃんの成長速度は、想定を超えている)


 だが、そんなレイも、最後には敗北した。


 リリアスは、決闘の場となった空地に、駆け込んだ。

 決着が付くまでは、樹林から見守っていたわけだ。


「クルニアお姉ちゃん! レイお兄ちゃんは──」


「殺してはいない。戦闘槌を顔面に振り下ろすとき、加減したからな」


「……」


 リリアスは、気絶したレイを、見下ろした。誰だか分からないほど顔が潰れている。

 とはいえ、息はあるので、〈ゴッド・ヒーリング〉で復活するだろうが。


(命は取らなかったとはいえ、さすがクルニアお姉ちゃん……容赦がない)


 ただ本当のところ、クルニアは優しいのだ。

 なぜなら、クルニアは〈天落槌〉を使わなかった。触れたものを消滅する〈天落槌〉を使われては、いまのレイのスキルでは対処できなかっただろう。


 クルニアが呆れたように笑う。


「以前から思っていたが、この男は、なにかと惜しいな。私の腹部に右拳を叩き込んだとき、〈魔轍〉を発動できていたならば──勝敗は変わっていたかもしれんのに」


 その時点では、レイは〈魔轍〉を会得していなかったのだ。

 これも、リリアスが驚いた点だ。

 極限状態が、能力を伸ばすのに役立つことはある。しかし、まさか戦闘中に、新たなスキルを身に付けるとは。


 以前にも、こういうことがあったそうだ。

 それは闘技大会でのこと。やはり戦闘中に、レイは〈風殺剣〉を会得したとか。


(死線を潜るほど強くなるのは当然。しかし、レイお兄ちゃんは、強くなる上昇率が、すごく高い……本当に人間?)


 リリアスが小首を傾げていると、クルニアが言った。


「レイに伝えておけ。魔王城の攻略を始めるときは、私にも知らせろ、と」


「では、クルニアお姉ちゃんも、パーティに参加してくれる?」


「単身突入より、パーティで挑んだほうが、姫殿下を救出できる可能性は高まる。初めから、私はパーティに参加するつもりだった」


 リリアスは納得できない。


「では、なぜレイお兄ちゃんと決闘を?」


「レイが戦力として役に立つか、改めて確認する必要があった。これまで、レイは姫殿下に守られてばかりだったからな」


「レイお兄ちゃんは、合格?」


 クルニアは笑みを浮かべた。


「ギリギリ及第点だ」


 歩き去ろうとしたクルニアだが、なにかを思い出したように、立ち止まる。


「そうだ。もう一つ、レイに言伝だ。リガロンは、殺されてしまった。仇は、私が取った。リガロンは最後まで立派に戦った。以上だ」


 クルニアは立ち去った。


 リリアスは、リガロンの死について、考える。


 リリアス個人は、あまり知らない相手だ。

 ただリガロンは、パーティの初期メンバーという話。レイは、悲しむだろう。


 しばらくして、リリアスは「あっ」と思った。

 クルニアが『卍』だったのは、確実。

 しかし、なぜクルニアは、レイが【螺界】施設に囚われていると、知っていたのか。


 そのことを尋ねるのを、忘れたのだ。


(次回に会ったとき、忘れずに聞こう)


 それからリリアスは、用意しておいた伝書鳩を、キリガ要塞へと放つ。


 レイは目覚めそうにないので、迎えを呼んだのだ。ヒーラーも頼んでおく。

 役目を終えたリリアスは、気絶しているレイのそばに、座った。


 これでパーティ・メンバーは、リリアス、レイ、クルニアまで揃った。

 リガロンは死んでしまった。よって残るは、ハニとサラ。


 とくにヒーラーのサラは、なんとしても必要な人材。


(ハニお姉ちゃんも、優しいから、必要な人材。しかし──2人は、いまどこにいる?)




    ──サラ──



 そのころ、サラは隣国レーベにいた。


 丘の上に立ち、農民軍を振り仰ぐ。

 その数、800人といったところ。


 サラは〈天使の杖〉を掲げた。


「皆さん、わたしに続いてください! いまこそ抑圧から解放されるときです!」


 農民たちが、錆びた剣や斧を振り上げて、「おー!」と声を発する。


 サラは思うのだ。


(うーん。わたしは、こんなところで何をやっているのでしょうか?)


 これから何をやるかといえば、領主館に突撃するわけだが。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ