99話 総力戦。
──クルニア──
【AM 1:15】
クルニアは〈天落〉を発動。さらに〈天落〉の消滅の闇を、戦闘槌に纏う。
GODランクのバラスも倒した〈天落槌〉だ。
クルニアの狙いは、マラヴィータに絞られた。敵の中で、最も手ごわいのが、この大魔導士だろうからだ。
それにクルニアは、マラヴィータのことが、ずっと気に食わなかった。これまでは魔王の腹心であったため、従順に振舞っていたのだ。
しかし、いまや敵に回った以上は、遠慮することはない。
(殺してくれよう)
マラヴィータへ突進し、〈天落槌〉を振り下ろす。
「姫殿下を裏切った愚か者め、死ぬが良い!」
刹那、魔雲が生み出され、マラヴィータを守護する盾となる。
〈天落槌〉は、魔雲の盾に弾かれてしまう。
魔雲盾の陰から、マラヴィータが言った。
「愚か者はどちらだろうな、クルニア? 儂だったら、まずは〈魔劣斬〉を放つところだったがなぁ」
クルニアは舌打ちした。
すべての物体を消滅させる〈天落槌〉に、唯一、対抗できるのが魔法だ。
一方、〈魔劣斬〉は、すべての魔法を破壊する。
癪ではあるが、マラヴィータの指摘は正しい。
まずは〈魔劣斬〉で、マラヴィータを守護する魔雲盾を、破壊。そこからのコンボ発動で、〈天落槌〉へと移るべきだった。
「ならば、今から──」
「そう何度もチャンスがあると思うな、小娘が!」
刹那、魔雲盾から稲妻が放たれてくる。
クルニアは戦闘槌で稲妻を弾きながら、チャンスをうかがう。
──ハニ──
【AM 1:15】
ハニは、サラとタッグを組むことにした。
サラとは相性が良いし、敵は4人。対して、こちらは5人。1人余る。
「サラ。ボクたちで、オル・ゾンビを倒そう」
「了解しました!」
ハニが、オル・ゾンビを選んだのには、2つの理由がある。
1つ目の理由は、やはりゾンビの天敵は、ヒーラーだからだ。しかも、サラはただのヒーラーではない。〈聖なる乙女〉だ。
それに、もう1つの理由も大きい。
マラヴィータは、ルーファ国で最強の魔導士。
エトセラは、チート・クラスに強い犬。
ルティには、恐怖の第二形態がある。
そこいくと、オル・ゾンビは、一度はラプソディに敗北した竜人だ。一番、勝ちやすそうだ。こちらの戦力の配分としても、正解だろう。
さらに、隠された3つ目の理由もあった。
オル・ゾンビに移植されている、〈虚無手〉だ。
かつては〈地獄梟〉の右腕であり、ハニの右足を消失させた、憎き〈虚無手〉。これは、〈虚無手〉へのリベンジでもあるのだ。
「いくよ、〈ゴッド・フレイム〉!」
塔のような火柱が、オル・ゾンビを飲み込む。
しかし、オル・ゾンビは火柱から、自力で脱出。ゾンビになっても、高い防御力は、相変わらずのようだ。
(だけど、生きていたころより、敏捷性は劣ったね。これなら、いける!)
──ローラ──
【AM 1:15】
ローラは、ルティの前に立った。
ルティが持つ刀は、間違いない。
かつてローラが、エリカに贈った刀だ。
ローラとエリカは幼馴染だった。2人とも、同じ師のもとで剣術を学んだのだ。
ローラが冒険者となったとき、エリカは王国騎士団への道を選んだ。
しかし、エリカは行方不明となってしまった。騎士団による極秘任務中に、連絡が付かなくなったという。
だが、ローラが詳細を知ることはなかった。
冒険者ギルドと王国騎士団は、犬猿の仲。冒険者のローラが、詳しい情報を得ることは不可能だったのだ。
そして月日は流れ──いま、吸血鬼ルティが、エリカの刀を使っている。ローラが贈った、妖刀〈鬼月〉を。
ローラは〈竜殺し〉から、〈神刃剣〉へと剣を切り替えた。純粋な攻撃力なら〈竜殺し〉だが、総合的に最強なのは、この刃のない剣、〈神刃剣〉なのだ。
そして、ルティに言う。
「ヴァンパイア王女。その刀をどこで手に入れたのか、必ず聞き出します。手段は選びませんよ」
ルティが嘲笑う。
「ふん。刀身のない剣で、わらわを斬ろうというのか? 愚かにも程があるのじゃ、劣等種族よ」
「愚かかどうか、その身で試してもらいましょうか」
──ルーシー──
【AM 1:15】
戦闘が開始されて、たった数十秒のうちに、自然と組み合わせが決まっていた。
クルニアvsマラヴィータ。
ハニとサラvsオル・ゾンビ。
ローラvsルティ。
ルーシーは、敵側で余ったエトセラと対峙することになった。
しかし、エトセラをスキャンするなり、ルーシーは絶望する。
(うわぁ。あたしが勝てる相手ではないのだけど、このワンちゃん)
魔王討伐パーティに参加し、魔王城の攻略に乗り出した、あのクエスト。望まずも、レイを追放してしまったクエストのことだ。
魔王討伐パーティは結局、邪神官ハーンによって、倒されてしまった。
ルーシーとルードリッヒだけが、命辛々、逃げることができたわけだ。
いま思い返しても、仲間たちの死に心が痛む。
そして、このエトセラだ。
(あのときの邪神官ハーンよりも、強そうなのだけど? なんなの、このワンちゃんは?)
とはいえ、『戦わない』という選択肢はない。
ルーシーが覚悟を決めたときだ。
エトセラが寝転がって、欠伸した。
「……むにゃ。アタシ、眠くなってきちゃったよ……」
ルーシーは思った。
(戦わない選択肢も、ある?)
刹那、黒く大きな影が、ルーシー達を覆った。
──サラ──
【AM 1:17】
サラは、黒い影の正体を確認するため、頭上を見上げる。
その正体は、ドラゴンだった。
マラヴィータが魔雲で造った、紛いものの龍ではない。
正真正銘の黒龍。アデリナのペットである、ムシャムシャだ。
黒龍は、その巨大さからは想像もできないが、無音で飛翔することも可能。今回も、無音飛行で、接近されてしまったようだ。
サラは素早く、〈ホーリー・アロー〉を放つ。
聖なる矢は、黒龍ムシャムシャの鱗を貫いた。
激怒したムシャムシャが、咆哮を発しようとする。
サラは、ハッとした。
(ただの咆哮ではなく、〈地獄無斬〉ですね!)
〈純白の塔〉での戦いで、ハニを半殺しにした攻撃だ。無数の真空刃を乱射するという、黒龍にとって最強の攻撃。
サラは、〈ホーリー・シールド〉を発動。だが、〈ホーリー・シールド〉の範囲で守護できるのは、サラ自身と、共にいるハニだけだ。
他のメンバーには、自力で〈地獄無斬〉から、身を守ってもらうしかない。
サラは警告を発する。
「皆さん、黒龍が〈地獄無斬〉を放ちます、防御してください! 直撃を受ければ、致命傷となります!」
ついに、黒龍ムシャムシャが咆哮を発し、無数の真空刃を乱射し出した。
まさしく、無差別に撃って来るのだ。
サラはふと思った。
(こんなに乱射しては、アデリナ配下の者たちも、ダメージを受けるのでは?)
実際、オル・ゾンビは真空刃を食らい、バラバラになってしまった。
〈ホーリー・シールド〉に守られつつ、ハニが拍子抜けした様子で言う。
「わぁ。オルの奴、死んだ」
サラは、否定した。
「元々、オルは死んでいますよ──ですから、バラバラでも復活するのでは?」
──クルニア──
【AM 1:18】
クルニアは、防御タイプの必殺技スキル〈大車輪〉を発動。戦闘槌を回転させることで、障壁を作る。
これで、〈地獄無斬〉による無数の真空刃を、防いだ。
一方、マラヴィータは魔雲に包まれることで、完全に真空刃の嵐を防いでいる。
刹那、その魔雲から、クルニアへ稲妻が放たれる。真空刃から身を守りつつ、攻撃も可能とは。
クルニアは、降り注ぐ真空刃の防御に手一杯だ。そのため、稲妻の直撃を食らってしまった。
稲妻そのものの攻撃力は、たいしたものではない。だが連続で撃たれると、厄介ではある。
「くそ。先に、黒龍を仕留めてくれる!」
クルニアは跳躍し、戦闘槌を振り上げる。
〈大車輪〉発動時も、〈天落槌〉は継続中だ。一撃当てれば、消滅が起こる。
〈天落槌〉を黒龍に叩き込もうとした、そのときだ。
邪魔が入った。
高く跳躍したエトセラが、クルニアへと突っ込んで来たのだ。
「なん、だと」
「コラぁ、女! ムシャムシャちゃんを、苛めるな!」
クルニアは呻いた。
(エトセラと戦っていた者は、何を怠けているんだ!)
──ルーシー──
【AM 1:18】
ルーシーは、怠けていたわけではないのだ。
真空刃の嵐を防御しきれず、深手を負ってしまったのだ。
真空刃の一つが、ルーシーの右肩を抉った。これによって右肩は、ほぼ切断状態だ。
ルーシーの防御魔法〈祈りの25番:灰の盾〉は、発動するまでに時間がかかる。
真空刃が到達する前に、〈祈りの25番〉を発動できず、この体たらくだ。
そして、エトセラだ。
熟睡を始めたエトセラ。当然ながら、黒龍が乱射し出した真空刃を、防御できるはずもなかった。
つまり、エトセラにも真空刃は激突したのだ。
その結果、何が起きたか。
エトセラは目を覚ました。それだけだった。真空刃さえも、エトセラには傷一つ付けることができなかったのだ。
ルーシーは戦慄する。
(可愛い見た目のくせに、このワンちゃんの防御力は──少なくとも、黒龍は超えているよ。とんだ化け物)
そんなエトセラが見上げた先では、黒龍を攻撃しようとするクルニアの姿。
とたん、エトセラは激怒。跳躍して、クルニアへと突っ込んでいった。
どうやらエトセラには、あの黒龍への庇護欲があるらしい。
(……黒竜を保護する……犬なんて……)
短時間に血を流しすぎて、ルーシーは気絶した。




