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ロストソング  作者: 雪那 由多
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美少女とおっさん

 まったりとお茶を飲みながら満たされた腹をさすりながら食事の感想を言いあって


「それよりもこれから買い物だけど何が必要か今のうちにまとめておかないか?」


 ヒューイの提案に本来の目的を思い出してどこかぎこちなくもあるけど、二人の意識も切り替わる。


「じゃあ、教室の続きで言うぞ?

 持ち物は学校支給のキットに応急処置の出来る解毒薬。それはミストに選んでもらうが?」

「去年作ったマップを持ってきたから。

 出会ったモンスターと毒性のある植物のリストもあるよ」


 何処か遠慮がちに手渡された小さなノートには几帳面な文字で丁寧に綴られていた。


「すごい」


 思わずと言うようにこぼれたエクルの呟きにミストは体を小さく縮こませ


「ほとんど部屋に閉じこもってたから、こういう事ばかりしてたんだ」


 きっと友達もできず、他人の目にも触れないようにひっそりと生きてきた彼女の長いと言えない今までの人生の縮図のようだとその几帳面なまでに丁寧に書き綴られたノートをぱらぱら見ながら


「これだけ詳しく調べてあれば不必要な薬を持つ必要もないな。

 さすがです」


 ヒューイはミストの告白にも似た言葉の深い意味を探ろうともしない軽い口調のまま丁寧にまとめあげたノートを褒め称える。


「今回はミストの勧めに則って、マップの完成を目標とする。

 服装は学校指定の訓練服になるけど……」


 ちらりとミストを見れば


「靴は自由だから。できたら足首をしっかりと固定できるタイプがいいよ。

 崖やぬかるみやすべりやすい所たくさん歩くから」


「じゃあ、私、新しく買わないと」


 運動靴はあるんだけどそれじゃあ駄目だねと言うエクルは後で靴を一緒に選んでねとミストに頼る姿は親友を超えて姉妹のようだ。


「美少女二人仲が良いのは目の保養だねぇ」

「だからおっさん発言止めろって」


 ヒューイの脂下がった顔に呆れるも


「後は食料と水の確保が問題かも」


 ミストの言葉にみんなで小首をかしげる。


「支給のキットの中には簡単な食糧が入ってるんだけど、量は少ないし、美味しくもないの。

 そのままかじる事は出来るんだけど、パサパサしてて、とてもじゃないけど飲み物がないと食べれない物だよ」

「え?じゃあ、どうするの?」


 エクルの信じらんないと言う顔に


「ゲイブリーンの森にはちゃんと池とか小さいけど川が流れてるんだけど、とてもじゃないけどそのまま口にできる物じゃないの」


 少し眉間を細めて言う彼女にじゃあどうすればと、どこか絶望感漂うエクルの言葉に


「私達で濾過したり、煮沸消毒したりして確保するの。

 冒険者用に簡易濾過セットとかあるから一つ持っておくのもいいかも」


 一瞬の沈黙の後


「それってこういうのも駄目なのか?」


 思わず沈黙の意味が分からなくて俺は掌の上に水球を作り上げてみんなに見せる。

 は?

 何て意味わからず三人分の視線が注目するのをよそに、その水球に唇を当ててその水をちゅ……と吸い上げた。


「大気中の水分を魔力で操って集めただけだけどな」


 言えばトリアの苦笑。


「見事な水球だ」


 言って同じようにトリアも水球を作り出し、


「上手に綺麗な球体を作れてるが一つ苦言をしよう。

 君達の年齢だとそんなふうに不純物のない透明で綺麗な球体を作れるのはよほど小さい頃から訓練してきた一握り居るか居ないかのレベルだ。

 このギルドの中でもこのレベルまで作れるのは情けない事に半数もいない。

 それに水属性が無ければ水球は作れないし、魔盲の彼女では周囲のリスクが高くなる」


 トリアの言葉にファロは睨みつけるように


「それは俺達がカバーすればいいだけだ。その為のチームなんだろ?」


 言い返された言葉にトリアは口の端に笑みを浮かべ満足げな顔で


「だったね。これは私とした事がとんだ失言だ」


 悪かったねとミストの頭を慣れでばお詫びだとガーリンが小さなケーキの切れ端を持ってきた。

 一瞬にして何処か顔を上に持ち上げたミストがまた下げてしまいかけた頭をガーリンが差し出した物にほんのちょっと上向きにする。

 それからエクルと視線を少し交わせれば一つのデザートを二人でつつきだした。というか、あれだけ食べて苦しいって言ってたのにもう食べれるらしい。別腹とは良く言った物だが


「やっぱり目の保養だ」

「だから、それはやめろって」


 苦笑せずにはいられないヒューイの言葉にトリアもつられるように笑う。


「ファルーお待たせー」


 現われたレイは近くから空いた椅子を持ってきて適当な所に座る。


「で、聞きたい事って何?」


 何故か一つのデザートを二人でつついている少女たちの詳細を知らないレイは静かに興奮している二人を不思議そうに眺めながら


「ん?いや、ギルドやるって昨日聞いたんだけど、どこのギルドやるのかなーなんて言う疑問?」

「とりあえずガーリンに相談してトリアちゃんがマスターしている所でお世話になる事にしたのは……」

「うん。さっきのでわかったから」

「じゃあ、他には?」

「なんかもういろいろ面倒だからいいやって気分になったんだけど、一つ」

「なに?」

「俺小さい頃魔力を持たない人はいないって聞いたんだけど」


 言えばケーキを突くフォークの手が止まったのが見えた。

 が、レイは気づかずこの言葉に答えを言う。


「まぁ、居ないな。だけどこうも教えただろ?

 長い年月、東のガーランドやフリューゲルみたいに何代にもかけて魔法を使わない人達は魔力回路が退化して使えなくなる者もいれば、魔力値が高くて体が耐え切れなくて本能的に魔力回路をシャットダウンする体質の人も稀にいると。

 そうすると魔力は発生したと同時に消滅されて、世に言う魔盲はこういう症状だと」


 それがなんだ?と言うレイの言葉にファロは指をパチンと鳴らして


「それだ」

「それはどういう事だい?聞いた事ないよ」


 思わぬ返答と言うようにトリアが身をのり出して話に参加してきた。

 と言うか、当の魔盲と呼ばれてきた少女の視線がずっとレイを食い入るように見ている。

 レイはとりあえずと言うようにトリアから少しだけ距離を置いて俺達をぐるりと見渡し


「なるほど、そこのお嬢ちゃんが魔盲みたいだからそんな話になったのね?」


 その言葉に頷けばレイはミストにぐっと顔を寄せて瞳を覗き込み、それからゆっくりと視線を下に下げた胸の辺りを食い入るように見る。


「あ、あの……」

「お前はなに人様の胸をガン見してんだよ!」

「失礼だろ!!!」


 思わずと言うように誰もが頭を力いっぱい叩けばレイはそのままテーブルに顔を埋め込んでいて、ミストはエクルによって頭をだきしめてレイから離れた方に引き寄せられていた。


「あのね、いくら俺様でもお子様の絶壁の胸に興味がわくと思ってるのか」


 さらに凄い音で再び机にのめり込む事になった額をさすりながらファロに抗議すれば


「失礼かと言う前に問題発言するな」


 何故か全員で頷く光景をエクルはミストの頭を抱え込んで見えないようにしていた。


「あのな……

 大体お前はエィンシャンに何を学んだ」


 イテテといまだ額をさすりながら睨みながら言う言葉に


「……。

 昔過ぎて朧げだからもう一度お願い?」


 可能な限りファロはかわいいそぶりをして言うもレイは呆れたような視線だけの返答でしばらく睨み合えばわざとらしくため息を吐く。


「ま、いいわ。他にも聞きたがってる人が居るみたいだからおさらいするわよー。

 はい、俺様にちゅーもーく。

 魔物に魔核があるのはみんな知ってると思うけど、人にも魔核に該当する臓器があるのは知ってるよな?

 場所はここ。

 心臓の中に組み込まれている」


 言いながら胸をトントンと叩き


「心臓から全身を駆け巡る血流に乗せて人間は体中に魔力を駆け巡らせる生き物なの。

 その流れを意識して巡らせるのが魔力循環っていう奴ね」


 そこにヒューイが手を上げて


「呪文を唱える時とか難しい呪文を構成する時この辺になんか集中するんだけど」


 言いながら額を指して言えば


「そりゃ呪文を記憶から引き出したり、構成を考えるのも頭のお仕事だもの。

 けどね、額に魔核がある魔物も多いように頭に魔核みたいなものをつけている奴がおおいからそこにあるような錯覚するかもしれないけど、魔核、もしくは人の場合魔臓器って言えばいいの?

 魔物も人も等しく致命的な弱点になる場所に存在する」

「弱点って……なんで?」


 呟いたエクルの言葉に


「最大の弱点の場所にあれば誰もが必死になって守るでしょ?だからじゃない」


 当然のように言うレイに誰もがたぶん初めて聞く言葉に唸る物の、周囲で聞いていた黎明の月の誰かが言う。


「たくさん人の死を見てきたが、人からは魔石は見つからないのはなんでだ?」

「物騒なこと言うわね。まぁ、ついでに答えるけど。

 魔物は魔核、人は魔臓器。臓器である以上人の筋肉とか、皮とか、そういったものと変わりないから魔核みたいな核と言う石みたいな形状をしていないという事になるのは判るな?

 そして、心臓の中に組み込まれていると言う云い方が悪かったけど、心臓を構成する組織が魔臓器なんだ。

 例えは悪いが、魔物の心臓と比べても違いが判らないくらいの物なんだ」


「で、その仕組みはどういうものですか?」


 ヒューイが再度手を上げて言えば


「魔臓器には出口と入口がある。

 出口はもちろん体中に魔力を送り出すポイントで、入口は体中を巡って消費されずに残った力を蓄えるためのポイントになる。

 魔力はどこに蓄えるかと言えばその魔臓器が作り出す魔力空間……自分だけの魔力のひずみね。があって、幼い頃から作り出した物が自然と蓄えられたり消費される。勿論コップの水と同様にその空間からあふれれば人間が息を吐く様に大気中へと溶け込む。

 だから、個人差はあれど人の持つ魔力は基本大体決まってるって言うわけ」


 なるほどとヒューイが頷き


「それがいわゆる魔力値に反映されるんですね」


 言うも


「はずれ。

 魔力を測る水晶に刻まれてる陣を読めればわかると思うけど、あの数値は魔臓器から出される密度から導き出される計算の数値なの」


 言って、そこでミストを見る。


「だから、お嬢ちゃんが魔盲って言われる所以は体中に魔力が巡ってないから計算が出来なくって数値がゼロなの」


 店内がシーンと静まり返っていた。


「でも、魔臓器の流れをよーく見れば、一応魔臓器からは微かに溢れた魔力がほんと微かーに一瞬見えるから、大丈夫。

 ちゃんとお嬢ちゃんにも魔力はあるわよ」


 言ってウインクして安心させるように言うも


「どうすれば、私も魔力を扱えるようになるのですか」


 蚊の鳴くような声だった。

 誰もが息を呑みこむも、レイはファロのグラスに魔力で操った水を集めてひと息に飲み


「まぁ、魔臓器をちょっと弄れば扱えるようにはなるかもしれないけど、それよりも自然に使えるようになるまで待った方がいいんじゃない?」

「それはいつ?」


 間髪入れずに返したミストに


「そんなの俺様が知るわけないじゃないのよー。

 明日かもしれないし、一生そのままかもしれないし」


 そんな……

 絶望なまなざしを見せた後に俯けば


「でも魔臓器を弄ればすぐにでも使えるようになるのよね?!」


 エクルが食いつくように言えば


「それは自然じゃないわよ?魔盲の状態って言うのは体がお嬢ちゃんの魔力に潰されないように守るためのシステムなんだから」

「だけど、それはどうやってやればいいのですか?」


 恐ろしく真剣な声はミストの物だった。

 出会って間もないけど、消えそうで、おぼつかない、自己主張のない声の持ち主が見せた決意にエクルが息を呑む。


「お奨めしないけど、命に危険が晒された時とか?」


 その言葉に小首をかしげるミストに


「たとえばこんな感じ」


 言ってレイは事もあろうか先ほどミスト達がケーキを突いていたフォークを彼女の心臓に突き立てていた。


「あ……あ……」


 驚き見開く瞳と吹き出す血しぶき。

 ペタンとイスからずり落ちて床に崩れ落ちたミストを支えるようにトリアが抱き留めてフォークを引き抜き


「輝け息吹、ノヴァブレス!」


 まばゆい光を傷口に手をかざしてその出血を止める。

 衣類は血に染まり、服にも小さな穴が開いたものの大丈夫か?と優しく囁けば小さく頷いたミストを見た後にレイを睨みつける。


「随分な仕打ちだな!」


 室内が震えるくらいのトリアから噴き出した魔力にレイは眉間を潜め


「随分だなんて、お嬢ちゃんが望んだんじゃない」


 言うも


「いきなりはないだろうと言ってるんだ!」

「いきなりじゃないと意味ないのよ。見てみなさい。

 いきなり死にかけたと言うのに、お嬢ちゃんは今も命の危険を全く感じてないんだから」


 相当厳重に守られてきたのね自分が死ぬなんて言う状況が思いつかないくらいに。

 呆れたようにつぶやく言葉にトリアはぐっと言葉を飲み込めばファロが口を挟む。


「他にも方法ねえのかよ。もっと安全な」

「方法ねえ、安全なんてないわよ。

 安全が欲しかったらいつかを待つ事ね」

「それじゃだめなんです!」


 興味失くしたかのようにそっぽを向くレイの服の袖を掴むミストにレイはもちろん周囲に居た人たちまで驚く。

 今自分を殺そうとした人物に向かって縋るかのように瞳を向けて


「危険は承知です。魔力が扱えるようになるならなんだってします」


 ぽろぽろと涙を流すミストにそれほどまで魔盲と指さされてきた人生はそれほどつらかったのかと誰ともなく見守っていればどこからともなく


「俺達で協力できるならなんだってするぜ?」

「こんなかわいい子を、女の子泣かす位なら俺達だって体を張ってやる」


 何て声もちらちらと聞こえ始めれば


「やっておやりよ」


 トリアがミストの肩をそっと抱き寄せてその涙を拭いてやる。


「レイ、なぁ……」

「ファルまでいう?別に構わないけど……ただ、これでだめならあきらめてちょうだい。

 それだけは約束して」


 言えばはいと頷き


「シャトルーズの名に懸けて。御恩は生涯をかけて命ある限り忠誠をつくします」


 貴族の礼で綺麗に頭を下げ、誓約まで口上すればおいおいとヒューイがそれを止めようとする。


「そんなの隷属の約束じゃないか」


 止めろと言う言葉と今すぐ取り下げてと言う懇願にミストは頭を横に振る。


「これが無理だったら、今以上の幸せって私にはないの。だったら、自分で少しでも未来を選択したいし、ここまで親切にしてくれるレイさんにだったら私……構わない……と思う」

「いやいや、おっさんが構うのよ……」


 勘弁してくれと言うレイに誰もが羨ましいと視線で訴える。

 ミストに向っては何がとは聞けない。

 聞いちゃいけない気がする。

 女の子にそんな事聞いてはダメな気がすると、もうその成り行きを見守るしかないレイとファロはお互いこのお嬢ちゃん何を言ってるのだろうと頭を痛めながら店の中もみな口を閉ざして静かながらもパニックになっている。

 年端もいかないとはいえ由緒ある家柄の娘がただのギルドになりたての男に言わば隷属するなんてと寧ろ俺と変れと口に出す者もいるが


「とりあえずだ。店を閉めろ!外部に声が零れないように遮断しろ!」


 トリアの号令に店の中がにわかに活気づいた。






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