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ロストソング  作者: 雪那 由多
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本日のランチは羊の煮込み料理か平目のムニエルになります。

雨が降ると気温が下がるので温かい料理が食べたい季節になってきました。

作中の季節は全く関係ないけど、メニューはその時その時の季節がかなり影響すると思います。

 グラナート寮の前に待つこと10分。

 ファロとヒューイは既に明日の日程の話題に花を咲かせていた。

 何せ初めての授業で実戦訓練だというのだから。

 ヒューイが言う事にはギルド規定で16歳までは登録は出来ず、高等部上がるまでは実戦戦闘は国の法で禁じられている。

 家族に連れられての狩りまでは許可が下りているものの、狩りが出来る区域も国で指定されている。


「それを踏まえて言えばファロは禁猟区の出身で、普通に魔物と出会ってたから羨ましい限りだよ」


 禁猟区とは言えども魔物に出会ったら戦うのはOKだ。

 禁猟区の主な理由は危険だから立ち入り禁止の意味が99%以上を含めていて、立ち入るのなら何かあっても二次被害の大きさに助けにはいかない、回収に行かないと言う天を仰ぎたくなる理由に直結してる。


「羨ましいか……学校通うにも毎日が魔物との戦いだぜ?」


 放任主義の養父とその下僕達の加護は絶対だったが、その加護がない時は常に命がけだった毎日を思い出す。


「ま、いつの間にか慣れたけど」


 必死に逃げ回った思い出を言えばヒューイは爆笑する。

 そんな会話の中やっと現れた二人は何処か恥ずかしそうに立っていた。


「おや?ひょっとして俺達の為におしゃれしてきてくれたのか?」


 実はタラズマン家とお近づきしてくるようにと家の方から言いくるめられていたヒューイは二人にも判るようなあからさまな態度で二人を褒め称える。


「エクルの巫女見習い装束は何度か見た事があったが私服姿は初めてだな。ミストローゼ様も可憐です」


 ミストローゼは水色のワンピースにカーディガン、編み上げブーツというやはり一つ年上なせいかお姉さん風な服装で、エクルはピンクのチュニックに膝丈のパンツ、そしてチュニックと同じ色のショートブーツ姿は健康で可愛らしいイメージを振りまいていた。


「自分で服を選ぶの初めてだから時間が掛かってしまって」


 言う割にはどこか嬉しそうに笑っていて


「これ、ミストが合わせてくれたんだ」


 何時の間に仲良くなったのかミストローゼと言う名前からミストと言う呼び名に変っていた。


「ミストか、それいいな」


 何気にヒューイも賛同すればお互いを愛称で呼ぶ事に決めた。

 ミストは何処か慌てたように目を白黒としていたが、それで止まるヒューイとエクルではない。


「ま、諦めなって」


 あの二人のマイペースさに付き合ってたら疲れるぞと注意事項を加えればミストは小さくだが控えめな笑みを浮かべた。

 その貴重さを知らないファロードはその可憐さにつられるように笑みを浮かべる。

 ちゃんと笑えるじゃないかと安心すれば


「じゃあまずはレイに会いに行く。

 昼食を兼ねてガーリンの店だ」


 一度だけ入った店へと案内するように学校から10分程度の距離をしゃべりながらあっという間に進み、一同辿り着いた店先でその看板をそろって見上げる。


「ここってさ……」

「なんか見ちゃいけない文字を見たような気がするんだけど……」

「ギルド黎明の月って言えば……ウィスタリア国一位のギルドの……ですよね?」


 そろってぽかんと見上げる三人をよそに、建物は一つだけど入口は別になっている『食堂ゴルドニア』と看板がかかるドアへとファロは気にせず入って行く後姿を三人は眺めていた。


「天然だと思ったけど、無知って怖い!」

「ああ!天然って本当に怖いな!これだけの事をみんな無計画でやるんだからほんと怖い!!!」

「ひょっとしてまさか黎明の月を知らないとか?」

「絶対食堂ゴルドニアが黎明の月のマスターの旦那が趣味で開いてる店って絶対知らないと思うと言うか知らないって言うはずだ!」


 恐る恐ると言うように着いて行き、ドアを潜ればファロは豪快なまでの美貌を誇る美人と何やら話をしていた。

 その光景に思わず三人で項垂れる。

 孤高のあの方にお前どれだけフランクなんだよと。

 それから席を案内されれば俺達を探す。

 こっちだと手招きするファロに頭痛を覚えれば諦めと覚悟を決意した三人は呼ばれるままに席に着いた。


「ファルの友達だって聞いたけどすごいメンツじゃないか」


 有名人と知り合ったんだなーなんて笑う彼女に三人は心の中であなたほどではありませんと絶叫する。


「なんか巫女とか、名家とか、有名人の弟とか……やっぱり有名なのか?」


 小難しい顔で目の前の友人の経歴を一生懸命思い出そうとするファロにみんなの憧れ豪快美人トリアドールは小さく噴き出す。


「ま、知る人は知るって奴じゃないかな?」


 言えば、何故か周囲の人達は知っていますというように食堂に居る客の視線を集めていた。


「ふーん。ま、いいや。それより昨日と同じでおすすめランチで」


 だからと言ってそれがなんだと言うファロにトリアは控えめながらも苦笑を零しながら


「昨日は鳥だったけど今日は羊のラムか魚はヒラメだけどいいかい?」

「肉なら歓迎ってね」

「他の子はどうする?」


 トリアが差し出すメニューを見ながら


「俺はファロと同じで」

「私はお昼だし魚の方がいいかな?」

「じゃ、じゃあ私も魚で」

「りょーかい」

「あ、あとレイも」


 ついでのように言えばトリアは苦笑する。


「レイは今ギルド審査試験受けてる所。ま、難しい試験じゃないからぼちぼち帰っ……」

「来た」


 ファロがにやりと笑うのをトリアは少し眉間を狭めて眺めればドアから「たっだいまー」と大きな声が響き渡った。


「なるほど、噂をすればなんとやら。

 レイ、隣の受付で試験の認定しておいで」

「んー、そうだけどね」


 などと言いながらも厨房にいるガーリンの方へと足を運ぶ姿を追うように少しだけ遅れて追いかけてやってきた試験官が顔を真っ青にしてトリアへと泣きつく。


「俺、アイツの試験管なんて無理だあああぁぁぁ……」


 わけがわからず小首かしげているトリアを他所に


「ガーリン悪いけどこいつ捌けるかな?ちょー美味い肉捕まえてきた」


 にっこにっことしながら空間から一匹の獣を取り出せば食堂には沈黙が広がった。


「俺、アイツの採取試験と討伐試験の監督ちゃんとやったよ!いつもの通りやったよ!!こっちは全く問題なかったよ!

 だけど、帰りにSS級モンスターのアースバードに遭遇してよ、アイツ逃げるどころか捕まえに行ってよ!!!」


 すげえ怖かったーとガチ泣きのギルド員の頭を撫でてあやすも、足を掴んで手を高く持ち上げても首は根元で90度に曲がる空を飛べない鳥の代表の肉食鳥に食堂内は沈黙のままだ。


「すぐには食べれんぞ?血抜きはしてあるようだが、羽も捥がないといかん。それに腑分けもきちんとしないともったいないしな……

 捕獲からどれだけたってる?レバーはイけそうか?」


ガーリンはそれを素材ときちんと認識し、うまく食べる方法を模索しているようだが


「えー?手っ取り早くこのまま丸焼きにしようぜ?」

「待て待て、貴重なアースバードだ。せっかくならもっとうまく食べたいだろ?

 こいつは焼くのもいいが、骨から一昼夜かけてだしをとったスープでとろっとろになるまで煮込むのも美味いんだ」


 周囲のドン引きとは正反対に話に男二人の花が咲き誇る内容に耳を傾けて


「とりあえず、レイの入隊は合格ね」


 トリアの静かな声に周囲は何も言えない顔になった。


「黎明の月に入隊って数年ぶりになるんじゃないか?すごいな」

「ファロの養父も色々な意味ですごい人だね」

「養父……なんだ」


 呆然とした中で調理場越しに見える光景を眺めていればトリアがその中に加わり注文をメモしたペンで俺達を指す。


「おんや?ファルどうした?なんかあった?と言うかさっそくお友達が出来たの?」


 ふらりふらりとした足取りだけど、まっすぐ俺達へと向かって来れば、同席しているみんなを見回す。


「まぁ、そんなとこ。同じクラスのチームで明日からオリエンテーリングで学校の裏の山にサバイバルキャンプに行くから買い出しの前の腹ごしらえ」

「あー、もう昼時だからね」


 言いながらもトリアちゃーん俺もおすすめランチひとつねーなどとのんきな声を上げればさっさと隣に行って試験の認定に行ってきなさいと檄が飛ぶ。

 怖い怖いと肩をすくめながら店を出ようとした所で


「とりあえずいろいろ話聞きたいから終わったらちょっといいか?」

「わかった。隣で手続きしてくるから待っててくれ」


 言えば半泣きの試験官を引き連れて出て行ってしまった。

 そんな光景を眺めながら


「いつもあんな感じなの?」


 豪快としか言えないそんな行動に首をかしげながら


「普段はもっとだらしなくてもっとテキトーだな」


 それはどこにでもいる父親像だが、育ちのいい三人には想像が追いつかなくて難しい顔をしている。


「それよりもあったかいうちにお食べ」


 いつの間にかトリアが戻ってきて料理を並べて行く。

 昨日と同じバスケットに盛られた焼きたてのほんのり塩味が効いたパンとしゃきしゃきとしただけのサラダに柑橘系のさわやかなドレッシングで口の中りがさっぱりとする。


「これとパンだけでサンドイッチでもいいぐらいかも」


 エクルはそう言ってパンを二つに割り、ドレッシングをたっぷりと絡めたサラダを挟んでかぶりつけば足で床をパタパタとはたく。


「おいしい!シンプルだけど、なにこれ美味しい!」


 大きな口を開けてかぶりつく姿にミストも驚きながらも同じようにパンを割ってサラダを挟んでいく。

 小さな口をこれでもかというくらい頑張って広げて頬張れば何度も瞬きしてその美味しさに無言で感動している。


「なんだろ。このチーズってあんまり味がなくて苦手だったんだけど、ドレッシングがあってるのかな?

 こうやって食べるとすごくコクがあってクリーミーでおいしい!」

「ちょっと臭いがするけどドレッシングなんだよね。臭みが消えてあっさりしているはずなのにこのチーズがあるから軽くなりすぎなくてすごく美味しい!」


 小さな感動と言うようにエクルとミストの評論会をする光景に


「かわいい女の子のはしゃぐ姿って目の保養だな」

「ヒューイ、それおっさん発言だよ」


 つっこんでみるも、ヒューイはまだ手を付けてないからサラダをどうぞと贈呈すれば二人は……エクルは遠慮する事なく譲り受けてミストとわけあってパンにはさんで食べて行く。


「実は野菜苦手だろ」

「まぁ得意とは言わないが、喜ばれるべき所で食されるべきだ」


 ほー……と、視線を投げれば素知らぬ顔をして骨付き肉の塊が鎮座する羊の煮込み料理と、見るからにカラッと揚げられた魚のフライがテーブルに並べられた。


「ヤベ、今日もうまそう」


 ファロはそう言ってフォークを構えていただきますと早速食べ始めればエクル達も同じようにフォークとナイフを構えて口へと運ぶ。


「ふふふ、学生って言うのはほんと見ててかわいいねぇ」


 トリアが今日もお替りするかい?と言う言葉に頷いて答えれば、昨日もいた連中だろうかどこからか朗らかな笑い声が聞こえてくる。


「敷居が高くって入った事なかったけど、やだ、病み付きになっちゃう」

「うちのコックも美味いとは思っていたけど、羊を煮込んだこのソース絶品だな」

「このお魚も新鮮。衣がぺしゃっとしてなくって、脂っこくないよ」


 評価を下しながら食べていればお替りが来た煮込み料理に目の前に座る二人の視線が注視している。


「やらねーぞ。食べたいならお前らも頼めばいいだろ」

「うーん。だけど一口だけでいいんだよな」


 言うもスープ皿には骨付きの羊の肉。かぶりついて食べている姿を凝視されれば


「半分こすりゃいいだろ」


 煮込んだソースをパンにはしたなくもたっぷりと絡めて食べれば、それを真似してヒューイもパンに絡みつける。

 そして二人は意を決したかのように見つめあって頷き


「すみません!私達にもお替りください!」

「あ、俺も」


 ついでと言うようにヒューイも手を上げればトリアが苦笑を隠さず注文を受ける。

 それからはもう黙々と食べ続けて、食後のお茶を堪能する。


「おかしいな、こんなにも食べるつもりじゃなかったのに」


 あれからパンまでお替りしてもう動けないと言う二人にファロは何とも言えない視線を投げる。


「俺と同じ量を食べといてこんなつもりもないだろ」


 二人は恥ずかしげにそっぽを向いて、ヒューイは何も見てないと言うように、ここにも満腹で動けない奴がいるのを誤魔化すように窓の外に視線を投げていた。








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