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ロストソング  作者: 雪那 由多
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足してその数で割れば平凡になるらしい

測定も終わり、雑然とした空気に代わって行く中で


「次は魔武器の錬成だ。

 みんなも知っての通りこの学園の先輩方が開発した魔力を流した人の希望に沿って武器を作る魔方陣を組み込んだものだ。

 希少な魔武器を誰でも手軽に作れるが従来の物よりも脆い分取扱いには気を付ける様に。

 今から配る魔鉄を巻きつけた魔法石に魔力を流し、ある程度使い勝手の良い武器を思い描くと使い勝手の良い武器が出来上がる」


 フレイ先生が掲げる様にして見せてくれた白く濁った魔法石が入った箱が前から配られてきた。

 拳大の石はを一つ取り上げて眺めていれば早速作り出した者がいた。

 長い剣に弓や槍もいる。ダガーやショートソードといろいろバラエティもある中


「やっぱり武器って言えばこれでしょう」


 エクルが細身の剣を作り上げていた。


「おおー」


 朝の剣の訓練を思い出せばレイピアを構えるその姿はどこか様になっていて拍手を送る。


「おや?エクルーラ様はロッドではないので?」


 ヒューイがどこか意地悪に言えば


「ロッドは神殿から良い物で作らせてもらったから別に二つもいらないし。

 それよりもエクルーラ様はなんか居心地悪いからファロと同じくエクルでいいわよ。

 ただし私もヒューイって呼ばせてもらうけど?」


 自分の新たな魔武器にご機嫌なのかエクルの言葉にヒューイはどこか驚いた顔で、でも嬉しそうに


「了解」


 言って何やら二人は額を寄せ合い意味不明なガッツポーズを繰り出していた。

 何だ?なんて思っている間にもヒューイは魔武器で一本の剣を作り出していた。


「サーベルですな」

「ま、俺も家で作った奴の方が魔石がいいものだから。

 それに学院生活だけと考えれば軽い方が有利だろう」


明日からのオリエンテーリングの事を考えての事だと言えばなるほどと納得。


「で、ファロは?」


 言われて未だに手の中にある魔法石に視線を落とせばちょっと考えて魔力を流す。

 淡く輝きそして魔法石が伸びるように姿を変えていくのを不思議に感じながら眺めていれば出来上がったのは一本の


「ロングソードだね」

「うん。ロングソードだよ」


 何の変哲もない一本の剣が出来上がっていた。

 ただし不思議な事に刀身に謎の文字が刻み込まれている。


「なんか落書きがしてある」


 落書きってないでしょと苦笑するヒューイにエクルは剣に視線を寄せて


「良き風の祝福を……って書いてあるように見えるんだけど」


 小さな声だったのにその言葉に教室中が静まり返った。

 何だ?と言うように周囲を見渡していれば突如シエル先生とフレイ先生がやってきて出来たばかりの俺の剣を取り上げる。


「な、何だ?」


 その剣に書いてあるミミズののたくったような文字を二人は眺めていたかと思えば


「この剣は少し借りるわ。フレイ先生はその間班決めを。武器を錬成した者からリストを作って」


 言いながら難しい顔を隠さず剣を持ったまま教室を出て行ってしまった。


「俺の剣が…」


 いきなり取り上げられてしまった事に軽くショックを覚える中、フレイ先生は紙を配り始めてそこにオリエンテーリングのグループのメンバーを書くように言う。


「今から10分以内にメンバーを決めろ。そして紙を提出と一緒に魔武器のリストを作る」


 早く決めろと言う言葉に従ってヒューイは何の疑問もなく班長の所に自分の名前を書いて副班長にエクルの名前を書く。そしてその他の所に俺の名前を書いて……


「悪いがこれが無難な構成だ。

 エクルを班長にして失敗はさせれないし、ましてやファロを班長にするのはもっといろいろ問題があると思うから」


 言えばエクルが何故か力強く頷いていた。解せない。


「ま、俺も王都の事なんて全くわからないから詳しそうな二人の方がいろいろ都合もいいだろうし別に問題はないと思うんだけど……」


 言いながら語尾を濁した言葉に二人は怪訝に目を細める。


「もう一人加えたい奴がいるんだけど」


 良いかな?と言えば返事を待たずに席を立つ。

 ヒューイの隣に座る少女の前に立ちその紙を差し出して


「悪いけどスペル判らないから書いて」


 俺の名前の下に書けと言うように指示をすれば俯いたままの少女の顔が驚きの色を乗せて俺を見上げる。


「どうして……私じゃ足手まといになるから……」


 ちらりとエクルの方を見る。

 輝かしい未来の待ち受けてる彼女に泥はつけられないと言うように視線を反らせる。


「だけど、あんた去年もこれ参加してるんだろ?森の案内ぐらいはできるだろ」


 言えば知ってるけど無理だと頭を振る。

 完全に一人の世界にこもってるなと溜息を零せば


「あんたの魔力ぐらいエクルと足して二で割れば一般的だし、騎士団入りを目指す戦力だってある。

 それにこれが一番大事な事なんだけどな、俺達のチームは今の所男二人に女一人。

 エクルが何かあった時俺達じゃや具合が悪い時だってあるはずだろ?

 だから女のあんたにどうしても入ってもらいたいんだけど」


 そう丁寧に説明すればヒューイとエクルが手をポンと打つ。


「なるほどなるほど。そうなると女性は必須のメンバーだね」


 頷くエクルに紙を取り上げてミストローゼ・シャトルーズと名前を書くヒューイは書いた側からその紙を提出してしまい、それを見たミストローゼは初めてそこに存在するかのように声を上げる。


「だ、駄目だって!」


 言うもヒューイは無視をして朗らかな表情でフレイ先生の目の前で魔武器のリストを記入していく。


「エクルがレイピアに俺がサーベル、ファロが落書き入りの剣と……」


 言いながらいまだ魔法石の姿のままの石を持つミストローゼの手を見て


「魔法石」


 見たままの名前を書いた。


「あのな、それは武器じゃないだろ」


 フレイ先生のツッコミに対して


「いやいや、それが思いっきり投げられてぶつけられるとマジ痛いんですわ」


 ついこの間兄貴にやられて目の前に星が浮かぶ体験をしましてなんて会話を笑いながらしてるあたりヒューイの日常が気にかかる。

 クラス中の驚きの視線を集めているミストローゼは居心地悪そうにまた自分の席に戻り俯くも

 ヒューイはフレイ先生から一枚の紙を貰って座るミストローゼを囲むように俺達は並ぶ。

 いちだんと頭を下げてしまっているミストローゼの頭の上で


「明日のオリエンテーリングの持ち物だが携帯食料と地図とコンパス、簡単な薬品は支給されるが、その他の持ち物が必要なら各自で用意するんだが何か必要なものはあるか?」


 ヒューイの疑問に


「着替えとかは?」


 エクルの女の子らしい質問に


「荷物になるからいらない。

 気になるのなら生活魔法で何とかするくらい程度にした方がいいから……」


 小さな声はミストローゼの物。

 ちゃんとアドバイスくれる事に彼女から見える事のない頭上の上で俺達三人は思わず微笑んでしまう。


「ハブラシとかは」

「一日ぐらい我慢して、それよりもタオルとか、包帯の代わりになる物の方が必要だから。

 魔力は大切だから出来る限りの事は応急手当で済ませれるように準備したほうがいいから」


 なるほどと聞いてる横でヒューイがメモを取る。


「二日間移動しっぱなしになるから可能な限り軽装備で、寝袋もテントもいらないから。

 できれば支給品以外の荷物は持たないくらいに最小限にした方がいいから」


「そ、そんなにも少なく……」

「夜も何もなしで寝るなんて……」

「荷物を抱えながら魔物から逃げると言う場面も出てくると思うから。

 そこで荷物捨てないといけない状況で必要な荷物まで捨てる間違いは起こしたくないから」


 経験者の言葉は重要だ。


「このサバイバル訓練は年に4回、学年上がる時にも行われるから、地図に描き切られていない地形を書き込むのが今回の最大の目標にした方がいいから」


 ちょこんと小首かしげるエクルは何故と疑問を口にし


「今回は1泊2日だけど、次からは夜出発だったり突然行くぞってなったりするから。

 荷物にない事に慣れておいた方がいいから。

 単位の加算は大切かもしれないけど、このチャンスを逃して2回目3回目にリタイアして単位貰えなくなて、来年からのクラス編成の時下の方のクラスになると補修ばかり増えるけど授業もどんどん進んでいくからそっちの方がもっと問題だから」


 俯き加減の小さな声に思わず戦慄。


「そんな恐ろしい仕組みになってたとわ」

「経験者の助言ってありがたいです」


 ヒューイとエクルは真剣にアドバイスを聞く中


「じゃあ、必要な荷物は要らなくね?」


 そんな俺の疑問にミストローゼはフルフルと頭を振る。


「学校支給のキットには簡単な応急キットがあるのだけど、あの森にも一応毒を持つ魔物や植物がいるから。と言ってもしびれたりする程度だけど、応急キットにはそういったものの解毒薬はないので、それは調達した方がいいと思うから……」


 その言葉にヒューイは一つ頷いて


「よし、じゃあ授業後私服に着替えたら街に買い出しに行こう。

 ミストローゼ様も交流を兼ねてアドバイスお願いします」


 その一言に少し頭が上がったと思うも数度何か聞き間違いかというように頭がふらふらしたのちに小さくうんと頷いた。


「ええ?じゃあファロに街の案内は……」


 エクルが悲壮感漂うような声にヒューイはにやりと笑う。


「明日が……実習。実習帰って来たらいくらでもあるじゃないか。俺も付き合うぞ」

「今回食料品売ってる所を教えてもらえたら俺は当分大丈夫なんだけど……」


 その言葉にくすんと鼻をすするエクルはしぶしぶと了承する。


「じゃあ早速帰って準備しようか」


 と立ち上がる面々に向かって


「俺の剣はどうなったんだ?」


 言えばタイミングよくシエル先生が戻って来た。


「ファロードくーん。おーまたせー!

 とりあえず剣は返品しておくね。

 あ、ついでに学園長のお下がりだけど鞘をかっぱ……貰っておいたから使っちゃって」


 どうぞと言って渡された剣は分厚い光沢を放つなめし皮で出来た鞘に納められていた。


「今不穏な言葉言いかけただろ?」

「気のせいだよ」

「ふーん。で、なんか問題でもあったか?」

「そりゃないとは言わないよ。だけど希少な六属性持ちが錬成した剣だもの。

 何かあっても不思議はないとの学園長のお言葉だぁ」


 と言いながら教室中を見渡して


「どうやら今回はみんな綺麗に班別出来たみたいだね。

 よしよし、みんな明日に備えて早く帰るんだよー」


 じゃないと先生も帰れないからとどこまでも暢気な声に俺達は半分追い出されるようにして帰る事にした。

 それからグラナート寮へと4人そろって戻り


「お昼はどうする?食堂で食べてから行くか?」


 ヒューイの提案に


「私ファロの養父さんに会いたいから養父さんが居る宿の食堂に行ってみたいな」


 はいはーいと手を上げるエルクにそれならそこで食べようとヒューイも頷けば


「じゃあ着替えてからここに集合」


 グラナート寮に入れば男女別に左右に分かれる。

 そして隣同士の俺達はそろって人ごみを抜けるように5階のフロアまで行けば部屋に入る一歩手前でヒューイは俺を見る。


「正直……」


 そう一言漏らしたあと何かを考えるように天井を見上げていたヒューイはまたゆっくりと口を開け


「エクルーラ・タラズマンとお近づきしたいと家の圧力があったのは確かだが、こうもいきなり友人関係を作れるとは思ってなかった」


 何気に物騒な事を言い出したヒューイは苦笑したままどこか恥ずかしそうに足元を見る。


「ましてや名門シャトルーズ家ともお近づきになれたのは驚きだが……」


 その後にはただしミストローゼ様だけどと口に出さなくても判る言葉に思わず目を細める。


「俺は家の事もあっていろんな人間関係の縮図を見てきたつもりだったけど、君には構わないな」


 照れながら差し伸べられた手を一瞥して


「なにが?」


 遠回りな言葉に視線は手に固定する。


「ファロはそんな柵をすべて関係なく、打算する事もなく受け入れる器に俺は自分の小ささに恥じ入ったよ」


 学校初日なのにと苦笑を零して言う言葉に呆れてしまう。

 そんな事かと。


「別に大したことじゃないだろ」


 その手に向かって思いっきり、むしろ小気味良いまでに手の平をパンと叩けば見開かれた目に向かって笑う。


「エクルとミストローゼじゃないけど俺達の人間性なんて足してその数で割れば恐ろしく平凡なんだ。

 誰かが特別なんてあるわけないだろ?」


 その言葉に目を瞠るヒューイに向かって俺はにやりと笑う。


「実はこれ育ての親の言葉」


 じゃあ早く着替えろよーと手を振って部屋に入ればドア越しにどこかくすぐったそうに笑うヒューイの声を聴いた気がした。





転生したからって頑張るなんて無理!

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が、この話のアップと同時に最終話を迎えます。

無事最後まで書けたから良かったと胸をなでおろしているけど、途中で投げずに書き切るのは大変だと改めて感じています。

このロストソングも最終話まで無事書き切りたいと思っております。

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