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ロストソング  作者: 雪那 由多
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田舎に都会の情報が伝わってこないのは仕方がないじゃないか

「さて、みんなに簡単に自己紹介してもらいましょうか」


 言いながら窓側に移ってフレイ先生を壇上に戻せば順に名前を呼び上げる。


「じゃあ、一番はアズリル、お前からだ」


ぶっきらぼうなご指名に席を立てば最初だからか誰ともなく視線を集める。


「あー、ディヴィール村って言うプリスティア国の国境に近い山岳地帯から養父に学校に行けってツテとコネでいつの間にか入学する事になって、昨日着いたばかりで右も左も判らないんで助けてもらえるとすごく助かるファロード・アズリルだ」


 よろしくと言えばあまりの内容にクラス中かフレイ先生はもちろんシエル先生まで目が点だ。


「ちょっと待って、ディヴィール村って、ほんと国境ギリギリじゃないの。

 って言うか、そこSクラスモンスターの多発地帯じゃない。よく生き残って来たわね……」


 思わぬ情報に食いついたシエル先生に


「あー、育ての親の方の知人の方がおっかなくってモンスターなんて近寄ってこなかったから」


 思い出すレイの下僕達。

 俺のお守りと言ってレイが居ない時は常に誰かが居てくれたが、そいつらの一睨みで大体のモンスターは逃げて行く。

 近寄ってもこない。

 と言うか、俺の生活圏には絶対入ってこなかった。


「ま、歩けば魔物に遭遇はしたけど向こうも賢いから。

 共存するにあたって戦うような事はめったにならなかったぞ」 


 それが日常だと言えば数回深呼吸を繰り返した後「なるほど」と小さくつぶやいて


「昨日少しだけお話ししたけどアズリル君の養父さんが言いたい事納得したわ。じゃあ次行きましょうか」


 え?それだけ?って言う疑問を無視して次に使命されたクラスメイトは名前と学園での希望を語っていく。


「ヒュアラン・シュヴァインフルトです。

 目標は兄を目指して騎士団への入隊の後に隊長になりたいと思ってます。

 学校生活では友人を増やしてかけがえのない三年間にしたいと思ってます」

「エクルーラ・タラズマンです。

 みんなも知っての通り風精の巫女の候補ですが、巫女に上がるまでの自由な時間を全力で楽しみにこの学校へ入学しました。よろしくお願いします」


 ちょこんと頭を下げればヒューイの時もだったが、盛大な拍手がエクルを応援する。

 それにならって俺も拍手を送ればどこか少しだけ目元を赤らめた顔がからかわないでと笑っていた。

 それからつつがなく自己紹介を終えたクラスはどこか緊張気味に黒板に予定を書くフレイ先生の背中を眺める。


「さて、毎年恒例だがお互いの親睦と自己紹介を含めてオリエンテーリングを行う。

 場所は学校裏のゲイブリーンの森に一泊二日のサバイバル訓練を始める。

 とはいっても学校管轄の森なので、出没するモンスターはDクラス以下。

 この学園に入学できるくらいの実力をみんな持っていれば問題はないレベルだ。

 さらにギルドの協力を得て警備にあたってもらう。

 六カ所に作ったポイントに教員が待機しているので全カ所の通過スタンプを貰うように。

 二日目の正午までを期限として、効率よく早く回りきったグループから終了とする。

 なお、一応授業なので単位に加算されるので早く終了出来た者達の方が高得点が貰える」


 一通りの簡単な説明に


「あとは、サバイバルキットは学校で用意します。

 オリエンテーリングに向かうにあたって、今日中に貴方達の当面の相棒となる魔武器形成と自己紹介代わりにグループを作るにあたって判断材料になる得意属性と魔力を測ります。

 全員計り終わったら三人以上六人以下のグループを作ってください。

 まだみんな知り合ったばかりだからグループを作るには難しいと思うのでなかなか作れない場合は先生達が魔力測定と基本属性で独断と偏見で作らせてもらいます。

 さ、さ、挨拶順にアズリル君から測りますよー」

「なぜにその順番?」

「そこは気にしないで」


 おいでおいでと手招きすれば、あとは記憶を頼りに並んでねーと指示が飛ぶ。


「さて、何も難しい事はないんだよー。

 この魔法石の上に手を置いて魔力をすこーし流すだけでオッケー☆」


 何とも気の抜ける説明だが、その説明の通りに手を乗せて、体内を巡る魔力を少しだけ魔法石に流す。

 魔力に反応をしたかのように魔法石は淡く色とりどりに輝きだしてその中に数字が浮かび上がる。

初めて見るその魔法石の反応に少し感動を覚えてみれば


「これは凄いと言うか、属性は火水風土闇光の六属性使えるのね。

 だけど何で魔力がたった二万?六属性使えるのにありえない低数値だわ。

 ひょっとして魔力制御装置かなんか使ってる?」


 シエル先生の言葉に教室中はどよめき、そして魔力値の低さにざわつき始めれば


「センセー、ファロの奴魔力使いすぎて単純に魔力不足状態でーす」


 後ろの方からヒューイの援護が聞こえた。


「あらら。なるほどね。それじゃあ、正確な数値判らないけど仕方ないか。

 まあ、魔力値は保健室でいつでも測れるから回復したら自分で測りに行って確認してねー。

 はい。次」

「え?それでいいんですか?」


 思わぬ声は俺から数人後ろからの声。

 見事なまでの赤毛を背中になびかせた少女がどこか不満げな顔で居た。

 その質問に


「まぁ、回復しないとどうしようもないから仕方がねぇんじゃね?」


 そう返せば不愉快気な視線を隠しもせず


「希少な六属性の使い手と言う自覚はあって?」


 尚もびしりと言う指摘に


「6属性使える事に疑問を覚えた事はないがそれが希少だという事は初めて聞いたな」


 そうなのか?とヒューイに問えば何故か頭痛そうに頭に手を当てながらも苦笑を零しながらそうだと答えてくれた。


「ふーん。ま、そんな珍しいもんじゃないだろ?

 俺なんかが6属性使えるくらいで希少であって全くないってわけじゃないんなら」


 そう言葉を残してどこかおっかない名前をまだ憶えてない少女から逃げるように自分の席に戻って行った。

 それからほどなくしてあの赤毛の順番が回ってきた。


「アネメニ・オーベルジーヌどうぞ」


 魔法石の上に手を置いて魔力を流せば


「さすが火精の巫女候補、火と土と光の三属性に魔力値28万。

 15歳にしては高い魔力値だわ」


 シエル先生のどこかのんびりとした、でも驚いてみせた言葉にアネメニはふふんと鼻で笑い


「去年に比べて8万程度しか伸びてないですわ」


 納得いかないと言うように言うも何処か自慢げ。

 何だ?と思って眺めていれば列からはみ出してきたヒューイが肩をすくめる。


「一般的には魔力って言うのは成長と共に伸びるんだが、今ぐらいの年になると伸びが悪くなるんだけど、アイツ何気にそれを自慢してるんだよ」


 むかつくと言うような口調にへーそうなのかと言うように聞いていればどこか呆れたような視線。


「ちなみにだが、成人年齢で魔力値10万前後が一般的だ。

 ウィスタリアのギルドの規定の目安で言えば~5万がFクラス、~10万がEクラス~20万がDクラス、~30万がCクラス、~50万がBクラス、~100万がAクラス、~500万がSクラス、~1000万がSSクラス、それ以上がSSSクラス」

「ちょっと待て、なんか最後投げやりになってないか?」

「それだけ任務の難易度と魔力の保持者が少ないのが原因だよ

 しかもSSSクラス片手ほども居ないし我が国にはラルフ・ボイス隊長と言う希少なSSSクラスが居るんだよ」

「じゃあ、それに沿って言うと俺ってFクラスか」

「なに。魔力あるだけましだって」


 言いながら顎をしゃくる。

 アネメニから数人後の淡い青の髪の少女だった。

 何処か俯き加減で、儚げな存在。

 細い指先で魔法石に恐る恐ると言うように触れるも魔法石は輝きもせず沈黙を保つまま。

 それから何も言わずに手を放して逃げるように一番後ろの……ヒューイの隣の席に戻って行った。


「なんだあれ?」


 何処か重苦しい空気の中何も言わないシエル先生の反応もおかしくフレイ先生も沈黙のまま何かを記入する様子にヒューイに思わずと呟けば


「一族全員Sクラス以上を輩出する名門シャトルーズ家の問題児ミストローゼ様だ。

 実は一学年上なんだけど、あの通り魔力と属性が無い為に留年してる。

 家柄が家柄だけに王都でも有名な話だ」


 言いにくそうに溜息を零しながら小声で教えてくれるその内容に眉をひそめる。


「他の連中の顔を見ろ」


 言われて一同の顔を見回せばどこか馬鹿にしたような冷たい視線。

 あからさまに視線を送ってさざめくように冷笑を零すクラスメイトに胃の中がぐるぐると気持ち悪い何かがとぐろを巻いていた。

 この視線と空気は知っている。

 ついこの間まで俺に向けられていたものだ。


「っていうか、それってなんかおかしくね?」


 息をするのもはばかられるような重い空気の中ヒューイの説明に疑問を覚えて訪ねようとすれば


「次、モリエール・シャトルーズ」

「はい」


 同じシャトルーズと言う名前にその姿を見ればミストローゼと同じ髪の色の、自信に満ち溢れた声で、堂々としたこなれた仕種で魔法石の上に手を添える。


「魔力値37万に土火水の三属性。さすが候補生といった所だ」


その言葉にヒューイはつまらなさそうに言う。


「水精の巫女の候補生。ミストローゼの妹で、胸糞のわりー奴」


 ヒューイの乱暴な言い方に一瞬目を瞠ったものの


「うーん。思ったより低かったなー」


 何て言えば取り巻きの子達がそんな事ない、アネメニ様の上を言ってますなんて、空恐ろしい競争社会の会話が聞こえてドン引きした。


「ちょっと異常じゃねえの?」


 聞けば苦笑して


「異常なのは他にももっとあるぞー」


 何て空恐ろしげなことを何気なくも言う。

 あまり関わり合いを持たないようにしようと決意すれば


「ヒュアラン・シュヴァインフルトどこ行ったー?

 早く来ないと測定0にしちゃうぞー」


 シエル先生ののんきな声が教室に響き渡る。


「すぐ行きまーす」


 慌てて駆け足で教壇の魔法石に手をかざして


「おお、魔力値25万に火、風、光、闇。さすがと言うべきかな?」

「いやいや、目標兄貴越えだからまだまだ」


 笑いながらの受け答えにクラスの驚きの声を無視していた。

 そしてすぐ場所を開けてエクルの番。

 そっと手を乗せれば魔法石が今までよりも誰よりも強く輝く。


「さすが風精の巫女第一候補。魔力値48万に風、水、光の三属性」

「やった、去年よりも伸びてる」


 小さなガッツポーズにクラス中が湧き上がる。

 どこか興奮しながら戻って来たエクルは


「目標50万なんだ」


 と言うが


「何の目標?」


 当たり前のように聞いた言葉に二人は苦笑い。


「巫女になるには最低50万以上の魔力値が必要なの」

「当然先輩方にもこの競争に入ってるから少しでも多い方が有利なわけ」

「だけど候補生っていっぱいいるんだろ?」


 何気ない疑問に


「最終選定は次の冬だから。今回の測定でだいぶ絞られるはずだよ」


 目ぼしい人材にはすでに神殿側からチェックが入っており、その中から選抜される。

 神殿に選ばれただけでも名誉な事で、その中から選ばれたとなれば遅ればせながらの結婚でも有名な貴族や裕福な家庭から申し込まれる可能性も高くなる。

 その前に唾をつけると言うのも良くある話だ。


「それだけじゃない。城に仕えるにも高官が約束されるからな。色々有利に働くんだぜ?」

「ふーん」


 それだけの事なのにこんなに一喜一憂しているのかと呆れていればいつの間にか測定は終わっていた。





とりあえず初回なので5話まであげました。

これより週一の掲載になります。

よろしくお願いします。

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