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ロストソング  作者: 雪那 由多
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水の神殿

今回はミストとエクルのターンです。

はしゃぎ過ぎてお疲れのファロとヒューイはお休みです。

 ファルとヒューイとレイさんの家で別れて私とミストは水の神殿へとやってきていた。

 前回は私が巫女としての仕事を見てもらう為の風の神殿での訓練だったので、今度は水の神殿で訓練をしてみようと水と風の神殿長の話し合いでそういう事になっていた。

 ミストは初めて臨む水精の巫女としての訪問に水の神殿長は補佐を連れて私達を温かく迎え入れてくれた。

背後の人達はまだミストを魔盲の少女として胡散臭げに見ているも、それは神殿長の背後の景色なので神殿長達は誰も気付いてない。

 ずらりと並ぶ補佐達への恐怖心はさすがに侯爵家の令嬢は何とも思わなかったようだが、初めて足を踏み入れる水の神殿の重厚な作りに息を飲んでからゆっくりと足を進めるのだった。


「緊張してる?」


 緊張を誤魔化すようにと話しかければ


「もちろんよ。

 千年続く神殿の中心部に足を入れるのよ。

 緊張しない方がおかしいしよね?」


 私を見て小首かしげる仕種はいつもの感じなのだが、キラキラとした瞳と言い、さっきからきょろきょろと定まらない視線にこれは緊張ではなく興奮の間違いだと理解した。


「ミストローゼ様は神殿の建築様式に興味がおありですか?」


 ミストの反応に気をよくした神殿長にミストは胸も前で両手の指を絡めながら


「我が家に残された記述には総て真っ白な大理石でできていると聞いております。

 石と石の継ぎ目はほぼ隙間なく、そして千年の経年劣化もなく、この装飾は精霊王の為に精霊達が精霊界の景色を模して描いた物だと伝え聞いております。

 それをこの目で直に見れるなんて幸せすぎて……」

「そうでしょ、そうでしょう!

 何度も水精の巫女を務めたシャトルーズ家のご令嬢ならこの水の神殿の事はよく御存じでしょう。

 この神殿は……」


「「精霊王の水と氷の精霊ガブリール様が作りし水の神殿!!」」


 神殿長とミストはその手を取り合って黄色い声を上げながらこの装飾はガブリール様がどんな方かよく表れている素晴らしい装飾ですわと周囲いいる私と補佐達を置いてきぼりにこの模様が何を表しているのか語りだそうとする神殿長を補佐達が全力で御止していた……


「神殿長、その話は休憩の合間にしていただきとうございます。

 本日は祈りの場をまずは見ていただき、一度祈りの歌を供に捧げたく存じます」


 神殿長のすぐ後ろを歩いていた補佐の巫女が何とかして二人の暴走(?)を止めれば、ミストは顔を真っ赤にしてしおらしくなり、神殿長もその歴史を感じさせる風格がちょっと浮ついているものの、ミストの背中を押しながら


「そうですね。

 まずは祈りの場で風の神殿で学んで頂いた通りに歌を、そうですね、まずは一人でお願いしましょう」


 そのまま足を進めた正面の扉の先が祈りを捧げる場であった。




 清潔なまでに真っ白とした空間は屋根がないだけの非現実的な場所だった。

 作りはどの神殿もほぼ同じで、装飾などに多少違いがあるだけだった。

 一番質素なのは炎と風の精霊フリューゲル様がつくりし風の神殿だった。

 装飾は全くなく、ただ入れ物を作っただけの神殿で、風の巫女達は他の神殿を訪れるとそろってがっくりとするまでがお約束だと言う。

 エクルも最初はそんな物だと思っていたのだけど、こういった他の神殿を見る限り何でと不満を思わずにはいられなかった。

 故に風精の巫女の倍率が少ないと言うのもあるのだが……

 それでもこの美しい装飾を見ると恨まずにはいられない。


「巫女エクルそのような顔はおやめなさい。

 風と炎のフリューゲル様は東の地にてお守りしたい国を頂いた精霊様です。

 その精霊様が精霊王の為とは言え他国の繁栄の為に神殿をお作りになられたのです。

 最低限の義理でもありましょうが、あの方の愛はかの地へと注がれる物です。

 不満を持たれるのは筋違いです」

「はい。他の神殿の方にもそう窘められておりますが、それでも不満を思うのはいけませんか?」

「そうですね、それは私達ではなくフリューゲル様にお伝えするものです。

 巫女を勤め上げた後に我らからフリューゲル様に面会を申し立ててもよろしいのですよ?

 運が良い事にかの方は今はフリューゲル国においでになるのですから」

「さすがにそれは図々しいので遠慮させていただきます」


 しょぼんとするエクルをみてミストはようやく自分がはしゃぎすぎている事に気づいて半生をするのだった。

 そして神殿長に案内されるままミストは祈りの場へと連れて来られて


「では、まずは我らの指導方針も決める為に祈りの歌をお願いします」


 広い祈りの場にポツンと一人取り残されて、わたし達は壁際まで下がる。

 離れた距離に心細そうに周囲へと視線を向けるも、すぐに目を閉じてゆっくりと深く呼吸を吸い込み、ゆっくりと吐き出してから目を開いてつんとした顎を上げてゆっくりと口を開いて……


 低音と高音を行き来する歌い始めはミストの透明感ある声が美しく響き渡る。

 透き通る心地用声が広がり、そしてぐるりと囲む壁に反射して更に響く。

 あまり大きな声は聞いた事はないが、声量はそれなりに大きい。

 ミスト曰く家で楽器を練習したからかな?なんて言ってたけど、貧乏な我が家では楽器の練習までは出来なかったのでぜひ私もミストに楽器演奏を教えてもらいたい。

 

 歌はこの国ではない言葉で歌われる。

 正直意味は分からない。

 長い事解明しようと巫女達が年月を重ねてきたが、何を意味するのか全くヒントのない言葉は記憶にとどめた音を歌い上げる。

 くりかえし、くりかえし、くりかえして千年。

 その意味を探しながら音を間違えずに伝え続ける。

 同じフレーズを繰り返しながら歌は進む。

 幻想的な、そして声を楽器として奏でる祈りの歌は、精霊の言葉と信じて違えず歌い繋いでいく千年の奇跡。


 その証拠に歌い終われば奇跡の光景が広がる。

 光り輝く魔光の神殿がそこに現れるのだ。

 その神殿が意味する事も分かっていない。

 各神殿ごとに作りの違う神殿が出現するも、その姿はあれど形のない神殿が意味する事は全く解ってない。

 美しい奇跡の神殿に誰もが呼吸を忘れて魅入ってしまう。

 風の神殿で続いてこの水の神殿での成功にホッとした顔が振り返って私に安堵の表情を無防備に見せる。

 その喜びに満ちて一つ一つ自信を学んでいくミストに私は今回も完璧と言う様に手を振って答える。


 この奇跡の神殿をたった一人で出現させてしまうミストの能力にもう誰もが魔盲の少女とは口に出さなかった。



 


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