疾風の……
お互い間合いを取り両手で剣を構えながら様子を見るも、何の動作もないので甘えて先に攻撃させてもらう。
横に構えて直して一瞬で間合いを詰めれば最初の一撃は胸の前で剣を受け止める反射速度も、そして一歩下がって力をいなす程度の最低限で理想的な初手だった。
「意外にも早くて重いな。
だけどまだ様子見だろ?」
「そりゃ当然。初めての相手に全力で行くのは魔物ぐらいさ」
「怖い怖い」
と、笑みを浮かべながらお互い離れて俺はスピードを上げて今度は斜め上へと切りかかる。
「うん。相手の実力を計りながらスピードを上げて行くのは練習としては中々行儀がいいが、こう見えてもウィスタリア王国騎士団第五師団隊長だ。
もうちょっと冒険しても良いぞ」
ニカリと笑う笑みに俺も笑みを返して駆け出して
「だったらディヴィール山育ちって言うのを披露しないといけないか?」
ニヤリと笑った瞬間おにーさんは目を瞠る。
その瞬間には頬には赤い一筋と数本の髪が宙を舞っていた。
「おいおい……」
「悪いな。
レイにはディヴィール山で一人でお留守番できる程度には鍛えられたんだ」
「ああ、今度はゆっくりとディヴィール山に狩に行きたいな」
「だったら俺程度の魔物なんてごろごろしてるから今ここで腕試しにどうぞ?」
「ははは、言うなっ!」
「当然!」
そこからはおにーさんの攻撃が変わった。
魔法が使えないと言う縛りの中振る剣は一撃一撃は確かに重い。
左右から打ち付けられる攻撃に何度かに一度は剣を持っていかれる。
だけど一歩引く事で次の間合いをずらして何とか間に合わせ次の攻撃までには防御を間に合わせる。
十手、十一手と重ねるうちに目はおにーさんのスピードに慣れる。
一度大きく離れて剣を構え直して剣を重ねる。
「ははっ、このスピードについて来るか?!」
「余裕!」
余裕ついでにさらにスピードを上げる。
もう本気で切り付ける様に剣を重ねれば火花が飛ぶ。
最初聞こえた周囲の驚きの声何て相手の出方に集中して声はもう聞こえない。
そんな相手の動きと剣のぶつかり合う音だけの高揚して行き気分に世界の中で感覚が研ぎ澄まされていく。
こうなると相手の一挙一動も手に取る様に判り、次の攻撃の場所も間合いも呼吸をするようにわかる。
こう言った感覚に陥った時勝負は俺の手の平に転がって来たも同然で、俺は仕上げに入るという様に地面を蹴って仕留める為の攻撃に移る。
不意に腰を低くして全身の無駄な力を抜いて、剣を握る手だけに集中する。
鞭のようにしなるような感覚の手の先のその先まで神経を集中すれば決定的な一撃を決めれる個所が目に飛び込む。
これで終わらせるっ!
止めを刺すように、貫くように剣を付き出せば不意に剣先が反れた……
俺の感覚の外からの突然の乱入を許してしまった恐怖に体中の毛穴から汗が噴き出して一気に血の気を失う。
そんな存在すら今の俺に気づかせない相手がいるなんてと距離を取ろうとするよりも早く体が想定外の方に吹っ飛んだ。
「がっ!!!」
背中に強烈な痛みが走って体中の空気が抜けだした。
転がった勢いを殺さず逆に利用して立ち上がり慌てて敵を探すように視線を走らされるよりも早くそれは俺に襲い掛かりまた吹っ飛ぶハメになり
「なーにやってんのよ……」
呆れたような声と肩を剣で貫かれた痛みに意識が一瞬飛ぶ。
ふーっ、ふーっ、と落ち着くように呼吸を繰り返して相手を見れば
「レ、レイ……」
「ようやく落ち着いたわねこの馬鹿タレは」
見慣れた顔が目の前にあり、それから一瞬意識を吹き飛ばした剣で貫かれて地面に縫いとめられた肩をゆっくりと見る。
「久しぶりにやられたなぁ」
「こうでもしないとお前さん剣を手放さないだろ。
はい、手から剣を離して……剣抜くぞ」
強張る手から剣を手放せば確認して剣を抜いてくれた。
「うっ、く……」
「はーい、痛いのは自分の責任。
ちゃっちゃと肩直すから大人しくしてろよー」
寝転がったまま治療を受け終わってようやく周囲を見回す余裕が出来た。
と言うかだ……
全身剣で切り付けられて傷だらけの血まみれで唖然呆然としているヒューイのお兄さんと、ヒューイはもちろん周囲の皆様も当然と言う様に厳しい目で俺を睨みつけていて……
「お友達作り失敗はファルの責任よー」
呆れたような援護の声は俺に強烈なダメージを与える。
ディヴィール村で魔物相手とはいえ何度かやってしまった為にキ印を与えられた俺は村人達と最低限の交流しかなくなった一因なのだから、俺が俺をコントロールできないのが原因なのは理解している。村人を恨むのも筋違いなのも今は判ってる。
だけどそれをここで繰り返すとは予想してなく、そっと目頭に力を入れて視線を反らすのがやっとだった。
そんな俺を察してか、レイがあかるい声で
「折角誘ってくれたのに皆さんうちの馬鹿が失礼しましたー。
なんせ人と訓練する経験って言うのを教えてあげれなかったから加減を知らなくて申し訳ない」
ぽかんと青醒めるような周囲の顔色とやっと命の危険性を理解してか血の気を引いたのか真っ白になって行くヒューイ兄。
レイは無数に太刀筋を刻み込まれた体を跡形もなく服事直せば、ヒューイ兄はゆっくりと立ち上がり俺達へと近付いて来て
「ええと、貴方がうわさのファロード君の養い親さんでよろしいでしょうか?」
「ええ、まあなんて噂かは知らないけどこれの養い親をしてます。
ファルが何か訓練でとか聞いたので嫌な予感がして土産の肉に手紙を入れてお邪魔させてもらうように取り計らってもらいましたが……
すんません、いろいろやらかして。
大切なお家の後継者様に怪我を負わせ命の危険性までって事になりまして……」
へこへこと頭を下げる様子に改めて自分がしでかした事の意味を知るが
「いえ!こちら頃稽古をつけると言った手前、ファロード君の実力も読み取れず騎士団の隊長と言う浅はかな考えにお詫びするのはこちらの方です!」
何故かキラキラとした目でレイを見つめていた。
「むしろ、乱入してからのあの動き、そしてこの治癒魔法、尊敬いたします」
おっさんの手を目の高さで握りしめて、何故か顔を真っ赤にして心なしか鼻息も荒い。
ナニコレ……
思わずヒューイを見てしまうも、さっきとは違う様子と言うか何かを察して青醒めていて……
レイもどこか怯えるように逃げ腰になっていたけどがっちりと掴んだ手が何故か離れなくって少し涙目になって俺に必死に助けを求めていた……




