ファロード、先生になる?
さあ、読み直しをしてない危険な誤字脱字意味不明の回となります。
皆さんの変換能力に頼る回ですのでよろしくお願いしま(撲殺☆)
深い緑色の屋根の左右に広がる白い翼のような外壁の屋敷がヒューイの実家だった。
門から正面にある屋敷はまっすぐに通る石畳の中央には水路があり所々橋がかかっている。
その両脇を馬車が通るほどの道があり、両脇を美しい幾何学模様の描かれた生垣の庭が広がっていた。
学校から歩いて三十分ほどでこのような大きな屋敷が広がる貴族の屋敷が点在していた。
隣り合ってるはずなのに敷地面積が大きすぎて田舎の点在している家のような距離感にここって王都だっけと頭を悩ませながらも門を潜って5分ほど歩いて辿り着いた。
「遠いんだけど……」
「門番から屋敷に連絡行く間にこうやって出迎えがそろうまでの時間稼ぎが必要だからねぇ」
玄関に辿り着いた時には執事らしいスワローテールの執事服を着た男と数名のメイドさんが立っていた。
「ヒュアラン坊ちゃまおかえりなさいませ」
「「「おかえりなさいませ」」」
執事が頭を下げたのを合図にメイドさんも一斉に頭を下げた。
というか……
「坊ちゃま?」
「こう見えてもシュヴァインフルト家の二男ですので」
「って言うか、坊ちゃまって言うのは何歳まで有効なんだ?」
「さあ?兄貴が家継いで俺が家を出るぐらいか?」
「何をおっしゃいます坊ちゃま。
私が坊ちゃまのお世話が出来なくなってもそう呼ばせて頂きますよ」
濃い茶色の髪と瞳の背の高い、レイよりは若い年齢だろう男は気さくにも俺の質問に答えてくれる。
「これは俺の執事でダミアン・バルト。
バルトって呼んでくれ」
「名前を憶えれたら呼ぶけどとりあえずこれ俺の養父から手土産にって、なんかの肉」
二つの大きな塊をメイド達に渡し、そのうち一つのさらしを捲ってバルトはポケットからソムリエナイフを取り出して一切れ切り取って口へと放り込み……
「おやおや、これはブレードバードの肉ではありませんか。
このような希少な物をこんなに、ありがとうございます。
旦那様にもお伝えしましょう。
では早速お昼に食べれるように料理長に相談してきます」
深々と頭を下げればメイド達に早速運ぶように指示を出していた。
早速食べれるんだ、どんな料理になるのかとヒューイとしゃべりながらも家の中に入るではなく大きなお屋敷をぐるりと回った裏側に連れていかれればそこにずらりと並んだ二種類の騎士服の人達が俺を睨みつけた。
いや、二種類だけじゃない。
だけど何で俺そこまで睨まれなくちゃいけないんだ?!と思ったらあの時の二人がひそひそと周囲の騎士達に聞こえる様に俺の事を話していた。
原因はおまえらかと半眼で睨んでしまえば、そのどこか剣呑な空気をぶった切る様な明るい声が響いた。
「ようやく来たか!」
「兄上、そして皆様もお待たせしました」
「ヒューイ待ってたぞ!そしてファロード君もようこそ!
今日は楽しみにしていて昨夜はなかなか寝付けれなかった!」
言いながら肩をバンバンと叩くお兄さんの目元は薄っすらとしたくまさんが待機していた。
じょーだんじゃないんだと思わずヒューイを見てしまうもこいつの目元にも熊さんがしっかりと張り付いていたのに気付いて似た者兄弟だなーと逆に感心してしまった。
「それでだ。今日は我が家の護衛騎士と私の騎士団の休暇の者と友人達に声を掛けて先日約束した詠唱破棄したシュトルムカイザーの実演を是非見せてほしい」
「約束したから別にいいけど……」
「おいお前!前回と言い今回と言いウィスタリア王国騎士団第五師団フィーラルーゼ・シュヴァインフルト隊長に向かってなんて言う口のきき方をする!」
「無礼すぎるぞ!」
「ヒューイとおにーさん、済みません心折れたので帰りますー」
思わず学園長室で出会った連れの書記官二人の言葉にこっちは正式に招待されてやってきたというのにやってらんねーと俺はさっさと帰ろうとすればヒューイが背中に飛びついて来て
「折角来たのにいきなり帰るな!」
同時におニーさんも
「お前ら二人我が家に出禁だ!俺の書記官からも外す!出て行け!」
展開が唐突かつ簡潔すぎて思わずえ?とおにーさんを見てしまう。
「まってください!私はあの学生の態度に問題があると言いたくて!」
「シュヴァインフルト家の次期当主に対しての態度に問題があると!」
あまりの高速展開に二人もさすがにあんまりではとぎゃんぎゃん喚くも二人とは全く違う温度差を醸し出す酷く冷めた眼をする他の騎士様達の視線はまたあいつ等かと言う物。
って言うかそう言う事故物件を側近にしていい物だろうかと思ってしまう。
「なぁヒューイ、お前のおにーさんってひょっとして魔法バカ?」
「俺はどっちかと剣派だけど兄貴は魔法の方かな?」
「ふーん」
俺はその三人をほっぽって退屈している他の人と向き合って
「とりあえず改めまして自己紹介を、ファロード・アズリルです。
先日は学園でシュトルムカイザーをぶっ放してご迷惑おかけしました」
ぺこりと頭を下げて三人を無視して進めようとする俺に目の前にずらりと並ぶ騎士さんは苦笑を隠しきれないようだ。
既にリラックスした姿勢でどこからか「きにするなー!」という声まで飛んできた。
「ではまず先にシュトルムカイザーの実演です」
そう言って空に向かって手を付き上げてシュトルムカイザーを空へと向かって解き放った。
ギュオン……ドンッ!!!
空に向かって俺の周囲に落ちていた枯葉や草、砂埃も巻き上げて空を切り裂く音と共にシュトルムカイザーが解き放たれた。
あまりの突然の事とトリガーの呪文さえ破棄したシュトルムカイザーに誰もが俺みたいなガキが使えるわけないと言う目から前のめりになって目の前で起きた現象を理解できないようでいた。
「と、まあ、これがシュトルムカイザーの無詠唱です」
「ちょーッと待てファロード君!
俺肝心の魔法放つ最初の所見てないんだけど!!!」
「兄上!皆さんが見てるのに俺の友人に泣きつかないでください!」
「あー、隊長の弟さん見慣れてるから俺達に気を使わなくてもいいですよ」
「気を使わなくてもいいなわけないでしょう!」
「隊長も何平民に媚び売ってるんですか!」
書記官のねーちゃん達の発言になるほどと理解した。
学生云々ではなく要は貴族至上主義の考えなんだとたぶん表情に出ていたのだろうか、さっきまで多分弟のヒューイと同じように俺を扱ってくれていたヒューイ兄は俺からついと距離を取り
「お前達は何時までここにいるつもりだ?
我が家に出入り禁止と申し渡したはずだ。
更に我が客に対しての発言は聞き捨てならん」
さっきまでの人のよさそうなおにーさんな態度はなりを潜め、次期侯爵になるにふさわしい毅然とした態度だった。
ヒューイ兄の言葉を理解してか顔を真っ青にして涙目になってる二人は何処か震えていて、書記官の二人に背中を向けた合間にシュヴァインフルト家の護衛騎士が二人をそっとこの場から抜け出すように別の場所へと案内していた。
「さて、今日はシュトルムカイザーに限らず詠唱破棄のコツを学びにと言う勉強会と言う場をもうけさせてもらい、忙しくも体を休めるべき休日に半ば強制のように呼び寄せてしまったにもかかわらず不快な物を見せてすまなかった」
謝罪から入る挨拶にどこからか気にしないでくれと言う様にぱらぱらと拍手が聞こえてきた。
ヒューイがこっそりと「兄上の謝罪を受け取ったと言う意味だよ」と教えてくれた。
「さて、俺としては最初を発動の瞬間が見れなくって残念だったがこのように学生の身分にもかかわらず彼は上位の魔法を詠唱破棄して使う事が出来る。
呪文の詠唱は実戦の場において非常に扱いが難しい。
特に我ら第五師団魔導騎士部隊は剣を扱いながら魔法を同時にこなさなくてはいけない。
接近戦に置いては剣を振りつつ呪文を唱えながらの魔術を扱う事はまずよほどの実力差がないと無理な場合が多い」
確かにと無言で頷く顔ぶれを眺め
「そこで、シュトルムカイザーまでとは言わない。
シュトルムカイザーの詠唱破棄を目標に何としてもこの勉強会に参加した者達には詠唱破棄のコツを、もしくは何かきっかけを見付けてもらえばと思う。
西方、南方と世の中きな臭い話が今も続いている。
だいぶ落ち着いたとはいえそれらは何れ我らの致死率にも関係するだろう事から是非ともみなには生き延びる為の方法の一つとして学んでほしいと願っている」
賛同すると言う様にさっきよりも高らかな拍手が溢れる中で俺へとバトンタッチしてくれるが……
「シュトルムカイザーの詠唱破棄の実演って事で呼ばれたけど、そう言った事ならまず水魔法で鍛えて行こう。
水なら風と違って視覚的に見えるから理解しやすい。
炎と違って被害もそこまで広がらないし、土より脆いから訓練するにはうってつけだ。
シュトルムカイザーの同列の魔法としてワーテゥルカイザーにしよう。
俺も風より先に水の魔法を学んだんだ」
風の魔法から水の魔法への変更に一瞬ざわめくも、ちゃんと理由があっての事だと言えば反論はないようだ。
「呪文自体は忘れちまったけど、多分調べりゃすぐわかるだろうからそれはいいよな?」
聞けばヒューイ兄はそこは大丈夫だと苦笑していた。
「そんなわけでどれだけの実力を持っているかまず知りたい。
だから水球を作って欲しい。
水属性扱えなくてもそこは何とか水のイメージで無理やり作ってくれ。
その内そこまで苦にならなくなるから」
言って手のひらにちょうど乗るくらいの水球を作って見せた。
「まずはこのような濁りのない完全な球体を作ってほしい」
「なるほど。物質として形のある方が理解しやすいと言う事か」
「そゆこと。
それに純粋な水を集める事は水の魔法に置いて大切だ」
というものの、ここで苦戦しているのはヒューイと護衛騎士の新人っぽい人、そして水属性の魔法が不得意な人達だけだ。
「とりあえずここで出来ない奴は隅っこで練習だ」
「ヒューイ悪いな、水のイメージを掴むにはここがポイントなんだ」
「ああ、その為に俺は学園に入学したんだ。俺達の方は置いて先行ってくれ」
俺はヒューイ兄達に向き合って
「今度はそれを複数作る」
ポコポコと俺の周囲に水球を浮かべる。
「この時の課題は作りだした水球が隣り合った水球と合体しないように完全に個々をコントロールする事。とりあえず10個作ってくれ」
「お、これはなかなか難しいな」
と言いつつもヒューイ兄は余裕の顔で水球を俺と同じように周囲に浮かしながら完全コントロール下に置いていた。
だけどそこで大体三分の一ほどの人が脱落した。
「できなかった奴らはヒューイ達の隣で練習だ」
ヒューイ兄の指示に脱落者達はいくつかはコントロールするも合体したり形が崩れてしまったりズボンの裾が濡れている可哀想な姿になっていた。
「なるほど。水の魔法ならこう言う地味に嫌な状況になって行く事になるのか……」
若くして隊長にまで上り詰めたヒューイ兄はそう言う訓練方法はあまり考えた事なかったなーとのんきに言うも、こんなの嫌がらせにもなってませんと心の中で突っ込んでおく。
だって次の段階は……
「今度は浮かべた水球を体の周りでぐるぐると回す。
この時も水球が合体したりどっかに飛ばしたりしない事。
余裕があれば水球の数をどんどん増やして欲しい、こんな風に……」
そう言って俺の周囲の水球をぐるぐると高速に回転させてその数を増やし、それはいつの間にか柱のように、屋敷よりも背の高い水球の柱となっていた。
「とりあえずここまでが最初の訓練だ」
「ここまでって……」
ヒューイがあんぐりと土色交じりの水球を片手に水柱を見上げていた。
「この先にはこの水球を動かしたり離れた所で操ったり、合体させたり分解させたりしてコントロールを身につけるんだ。
水が出来れば風も火も土も同じ。
被害は本当に水がましなんだ。だからここで完全にコントロールを学んでくれ」
はははと笑いながら霧状にして総ての水球を消した。
「くうっ!実力差があるとは判っていたけどここまでとは!」
「悪いな。しくじると命にもかかわるから順番通り学んでくれ」
そうして笑いあってる間に水柱が一つ二つと出来上がっていた。
振り向けばそこにはヒューイ兄と……
「兄上の副官のベルリオーズ様だ。
ベルリオーズ伯爵当主になられる」
「ふーん、聞いてはいたけどやっぱり貴族の方が魔力高いって言うのは本当なんだな」
「そりゃ、親から受け継いできた魔力を子へと渡すのも貴族の務めだ。
魔力を高めて強力な魔力を維持して行かなくては守るべき時に守る力が無くては貴族とは言えん。
その為の特権階級なんだ」
凛とした顔で貴族の義務を語るヒューイの横顔にそう言う物かなと思うも、ちゃんと立派な目標を持ってそれに向かって励むヒューイを尊敬する。
「いいか、コツはこの水球をイメージするんだ。
濁りのない、そして形を保てない水の為に与えられた姿はただの球体。
イメージするのはどぶ川の水でもなければコップからこぼれた水でもない。
美しい泉の澄んだ水、そしてただの丸い物体」
「澄んだ水、澄んだ水……」
周囲からも同じように呪文を呟く一同に苦笑を零しつつも、水のイメージが固まってきたのか段々濁りのない水が出来て来て
「いいか、この水球が濁り気のない水になった時、いつでもどこでも水の飲み放題だ」
「ああ、それは便利だ!この間の登山の時さすがに羨ましかったからな!」
「ははは!それなら綺麗な球体を作る前に濁りのない綺麗な水を作る事から始めるか」
「了解!」
言えば楽しそうな雰囲気で透明な自ら作る事を始める初心者達の水もほとんど透明に近づいていた。
「さてファロード君、我々の次のステップはどうするのかな?」
ヒューイ兄が副官のベルリオー……何とかさんと俺の指示を待っていた。
「じゃあそれに動きを与えようか」
言いながら同じものを俺は別の場所に作り上げてこの訓練場の角から角へと移動させてみせる。
「水球を崩さないように、柱の状態を維持しながら行ったり来たりさせたり、そのまま上昇させるんだ」
動かして見せればなるほどと副官さんは納得して見よう見まねで真似をする。
「なるほど。ちゃんと個々を管理できれば特に難しいと言う事はないですね」
「ああ、だがその個々の管理って言うのが難しいんだよ」
ヒューイ兄は額に玉粒のような汗を浮かべてると思ったとたんコントロールを間違えて一気に水球が形を失ってヒューイ兄の頭上に降り注いでいた。
「うわぁっ!」
「兄上!」
「やっちまったな」
そう、レベルアップすればそれだけ水の量を扱う事になるのでズボンの裾を濡らす程度では済まされない姿に誰もが唖然とその姿を眺めていた。
「まぁ、水の良い所はいくら被害が出ても術者とその周囲が水浸しになる程度だから、一度水浸しになれば関係ないだろう……」
「いや、さすがに水浸しは……」
魔力を使い過ぎたのか肩で息をするヒューイ兄に向かって手を伸ばして服が吸い込んだ水分を抜く。
「まぁ、ここまで出来れば服から水分を奪うコントロールも簡単だろうから次は自分でやってくれ」
「ああ、だけどその前に少し休憩させてくれ……」
「ははは、隊長頑張って下され」
「お前は水の魔法が一番得意だから楽しそうだな」
「ええ、さすがにこんな訓練の方法はした事がないので楽しいですよ」
余裕の顔を浮かべて副官は俺が言った事を、そして勝手に好きなように水球の柱を動かして遊んでいた。
「だったら副官さんに先にワーテゥルカイザーを教えるよ」
言いながら魔法を解除してもらって隅へと寄ってもらう。
周囲にいた人達にもどいてもらって被害の少ない空へと手を向けて
「今から見せるのはワーテゥルカイザーの特性だ。
呪文で覚えるよりも俺の真似がここまでできていればそれであんたならものにするだろう。
だからこの特徴とも言うべきトリガーだけ教えておく」
握り拳を突きだした内から人差し指を伸ばした先にとぷんと言う様に水が集まる様子を見せる。
「これはシュトルムカイザーにも言える事だから分かりやすく見せておく」
指先に魔方陣が現れる。
魔法を使う前に詠唱破棄しても現れる現象は高度になればなるほど複雑で美しい。
『貫き、穿て、ワーテゥルカイザー!』
キュオン……
金属音のような音が響いたと思ったとたん指先ほどの水の柱が空に向かって解き放たれた。
ぼんやりと見上げてそれだけ?というような視線を俺に向ける一同に
「一見地味のように見えるかもしれないが」
俺は誰もいない稽古場の床に向かってもう一度トリガーを唱えながらワーテゥルカイザーを解き放ち、操る。
厚い煉瓦の稽古場の床は紙のように容易く切れ、床から壁の、金属の門すらも同じように切り裂き、壁を大きく斜めに切ってその崩れて行く壁を見る頃には誰もが黙りこくっていた。
「シュトルムカイザーとは違う方向性にこいつは危険なんだ。
人に向ければ魔力防御何て全く関係ない。
水という物質でワーテゥルカイザー以下の物質防御も一瞬に何もかも真っ二つだ。
どれもこれも凶悪だけど、ワーテゥルカイザーは濁流で押し流すって言うよりも鞭のように操る事が出来て、それは被害を最小に何もかも切り裂く凶悪な鞭だ。
だから思うにワーテゥルカイザーの方が性質が悪いと俺は思ってる」
もう一度ワーテゥルカイザーを発動させて鞭のように操り壊れた壁を更に切り刻んでいく。
「ワーテゥルカイザーを扱うについてさっきの練習は何だったんだろうと思うけど、あの水球を極限まで小さくして数を多くして圧縮して密にした物がワーテゥルカイザーの正体だ。
隣り合ってくっついていても水は小さな粒の集合体のまま。
それを意識して扱えばワーテゥルカイザーになる。
だから、副隊長さんはもうそこまで扱えるのならワーテゥルカイザー何て半分使えているようなもので、それに詠唱が必要ない事は理解してもらえたと思う」
確認するもそんな事がと言う様にぽかんとして居る副隊長さんの名前は忘れた人が無言のまま手のひらサイズの球体の柱を作りだして動かしはじめる。
球体の数はどんどん増え、そして小さくなって……
それはしなやかな鞭、とまでは言わないが荒縄の太さまで圧縮された物が出来上がって、一振りした所でそれはただの水へと戻って行ってしまっていた。
「はあ、はあ……」
両手両膝を付いて大量の汗を流しながら喘ぐ副隊長さんは
「これは相当魔力を喰いますね」
手ごたえを覚えたのかにこやかに笑ってびしょびしょの訓練場であおむけになって息切れの合間の言葉に
「それだけ無駄があるって事だよ。
当面の課題だな」
「手厳しい」
「あんたにはまだ他の属性も使えるようになってもらいたいから頑張ってもらわないとな」
「ははは、本当に手厳しい」
言いながら完全にごろんとしてしまった体勢にヒューイ兄は部下に命令して訓練場の角へと移動させてもらっていた。
「こんな風に魔法がどのような感じで出来ているのか判れば呪文はわざわざ必要はないんだ。
なら何で呪文はあるのか?
魔法はイメージで出来ているって言う人がいるが、俺は別に違うとは言い切れないと思っている。
副隊長さんがこんなにもスムーズに習得出来たのは得意だけだからじゃない。俺の見本があったからこういう風に仕上げればいいって言うのが判っていたからだ。
だけどそれを見る事が出来ず、他人からの口伝だけで伝えるにはどう言った物か端的に理解させなくてはいけない、それが呪文だと思っている。
実際俺は呪文何てすっきりと忘れているけどワーテゥルカイザーの本質を俺は『貫く』『穿つ』と思ったからその言葉をトリガーの呪文として使っている。
言葉を多く使ってイメージを確固たるものにすればより強力なイメージが出来上がってワートゥルカイザーになるが、ただでさえこんな凶悪な魔法にこれ以上凶暴さを銜える必要はないと思っている。
だけど目の前で見てそれをイメージして魔法をくみ上げても欠点だってある。
これ以上のイメージを描く事が出来るか?
俺のも養父達から与えられている課題だけど、視覚から得た情報はあまりに強烈なイメージとして記憶するから、なかなかそれ以上の物を作るのは難しいんだ。
そう言う意味では呪文は記憶を越えて行く事が出来るから何が何でも詠唱破棄がいいって言うのは賛成しない。
ただ、実際見ると見ないのとでは魔法の習得速度が全然違う。
一概にどっちがいいかなんては言わないが、そこは魔法。
一生かけて学べばいいって言われてるものだ。
どっちが自分にとって都合のいい物かは俺が判断する事でもないし、他人が判断する事でもない自分だけの判断する物だと思っている。
以上を持って無詠唱での上級魔法の講義を終わりにしたいと思います」
頭を下げれば、どこからともなく拍手が鳴り響く。
俺の考えが受け入れられんだと言う実感にじんわりとした温かい物を覚えたが
「なら後は実戦だ!
さあファロード君、今夜は徹夜で特訓に付き合ってくれ!」
現実はそこまで優しい物ではないらしい。
「ヒューイ、悪いけど俺帰るわ」
「ああ、さすがに止めるわけにもいかないしましてや泊まってけなんて言えない……」
「なぜ兄にそんな意地悪を言うんだー!」
「逆に聞きたいんだけど、何ではい付き合いますなんて返事が貰えると思ってんだよ」
そう言う合間にもぐったりと壁に身体を預けて居る副隊長さんは俺達を他所に部下の人に指示を出していた。
横目に俺もあっちに加わりたいと思うのは仕方がないだろう。




