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ロストソング  作者: 雪那 由多
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他所から見たひきこもり国の話。

 二時限目の授業は歴史の授業だった。

 そこそこ若いはずなのに分厚い眼鏡のせいで年齢不詳なバルバナ・ベラルディと言う教師は最初に自分の名前だけ紹介していきなり授業を始めた。

 俺達の方も戸惑いを受けながらも静かに授業が始まろうとした所で


「皆も知っているようにここ数年過去三百年ほど変化がなかった大陸地図が変化していた事を記憶にとどめているだろう」


 去年在籍していた学校での授業と言うか、あの辺境の地の陰湿な村でさえこの話題で盛り上がるほどだったのだ。

 話題に乗り損ねた俺でさえ話題に追いつけるほど溢れた話題はそれだけ凄い出来事なようで、レイにも聞けば




「まさか今頃精霊地図を正しく書き直す事が出来るなんて、ひょっとしてこの一件は精霊がらみかしら?

 だとしたらどの子が手を貸したのかしら?」


 首をひねるレイの下僕のエィンシャンも柳眉な眉を寄せて


「フリューゲルとブリューグラードは古い顔なじみだが、リンヴェル、セラファザードは知らんな。

 地図に名前を書くぐらいだからそこそこ力のある精霊のはずなのだが……

 やはり覚えはないな」

「エィンシャンも?

 俺様も覚えがないのよ。

 なんか聞いた事あるような無いような名前だけど、他の奴らも知ってるかどうか顔を合わせた時にでも聞いといて」

「承知」




 山小屋での生活での一コマを思い出しながら黒板に大陸地図を書いて中央にウィスタリアと言う国の形と名前を描く。

 そしてその南西にロンサール、西にハウオルティア、北西にブルトラン、東南のフリュゲール、他省略。

 慣れた様に国境を描く様にあまり興味のなかったこの授業に少し興味を持った。


「昨年の春を迎えた頃に異変はあった。

 東南のフリュゲールと言う国がフリューゲルと言う国名に変わった。

 これは六つの宮からの報告でウィスタリア王に確認してもらった所、大陸地図に変更があった事が認められた。

 フリューゲルに名前が変わった事にフリュゲール国に問い合わせている合間に騎士団から連絡があった。

 当時ハウオルティアをブルトランが武力制圧中だったのはみんなの記憶にもまだ留めているだろう。

 フリューゲルに名前の変わった日にフリューゲル王が保護していたハウオルティアの王子を連れてブルトランとの戦争に持ち込んだのは今更話すまでもないと思う」


 フリューゲル王の一日戦争と後に名づけられた戦争の話題はあんな山奥にまで届くぐらいの出来事だから誰もがこの話題に夢中になり、無謀な冒険者はその話題を直接見て聞く為に乗り込もうとしてたった一日で元ハウオルティアを制圧したフリューゲル軍によって拘束されたギルドはは10や20じゃ足りない数だと聞く。


「それからすぐにロンサール国がセラファザード国と名前が変わって止まらない砂漠化がぴたりと止まった。

 更に日にちも置かずその夜にハウオルティアとブルトランが一つの国にまとまり、リンヴェル国へと変った。

 このような変化は歴史の紐を解いてもどこにもなく、ただ同じ年の夏至の日。

 あまり公の場に顔を出さないフリューゲル国王自らフリューゲル国の精霊、聖獣、そして四公八家と言う独自の政治形態の長を総て連れてリンヴェル国王の戴冠式を執り行った。

 運よく私は家柄の恩恵でその戴冠式の場に参加する事が出来たのだが、数月ほど前までの荒れ果てていた街の様子はなく、所々戦争の名残もまだ見えたが逆に言えば良くこの短期間でここまで修復したと褒め称える所だろう。

 長期休暇のさい、どこか旅行へ行くならば入国税は復興の資金代として金貨一枚と高いがリンヴェルに一度足を延ばすのをお薦めするよ」


 そう言った所で大陸地図は新しい今の状態に書き直されていた。


「歴史とは常に変動する時代の足跡だ。

 今後も変わるかもしれないし、我々の誰もいない未来でどう変動するか判らない。

 こんなにも歴史が変動するのは大変珍しい事なので、もし時間が取れるようなら体感する事をお勧めしよう」


そうくくって黒板に描いた地図を消す中


「先生に質問です!」


アネメニだったか赤毛のクラスメイトが席を立って発言した。

真面目だなーなんて感心していれば


「フリュゲールじゃなかった。

 フリューゲル人って魔法が使えないって本当ですか?!」


ざわりとクラス中の空気が暗くなり、ひそひそと誰もがミストをちらちら見ながら囁き合っていた。

だけどベラルディ先生は


「フリューゲル人は確かに魔法が使えない。

 ただ代わりに妖精と契約すると言う契約魔法が使える。

 君はまだ一度もフリューゲルに行った事がないだろう?

 あの国では街中を飛び交う妖精達が契約してなくても丁寧にお願いすれば力を貸してくれる。

 ただし使い魔ではないので酷い扱いをすると最悪極刑と言う罰を受けねばならないのでそこの所は勘違いはしないように。

 数年ほど前だがフリューゲル国に留学していた時、フリューゲル王を街中で遠くから見た事があったが、あの方は普段から妖精達に取り囲まれてそれは幸せそうな顔をしてらした。

 あの国は魔物が居ない為に独特な文化が発展したおかげで魔法は必要のない国だ。

 ウィスタリア国のように魔法が使えない人間は人ではないという勘違いを知る為にも、もしそう言った概念を持っているのならば一度訪れると良い。

 魔法が使えてもいかに自慢の一つにならない事を知るには十分な国だから」


 その一言にアネニメは愚弄されたと想い顔を真っ赤にするも


「因みにあの国では魔法使いの基準が随分とおかしい。

 かつてハウオルティア国に居た紅蓮の魔女ぐらい君達も魔法に携わるのなら知っているだろう。

 幾つもの戦場を一人で渡り歩いたという伝説の魔女だ。

 まぁ、多少話が盛られてはいるが、一時期その姿をフリューゲルで見かけたが……

 あの国では魔法使いの基準が彼女のレベルになっている。

 ロンサール国ではSSランクと言う高位のギルドランカーだと言う事だった事もこのウィスタリアのギルド連盟から話は聞いている。

 つまり、あの国では彼女以下の魔法使いはただただがっかりさせるしかない魔法使いだ。

 間違っても私魔法使えるんだ凄いだろ?

 なんて自己紹介すると鼻で笑われることになるぞ」


 妙な説得方法に誰かが


「センセーも魔法使いって名乗った口ですかー?」


 何て聞けば、少しだけ口を閉ざし


「ああ、そしてこの程度でも魔法使いって名乗れるんだってすごく残念な眼差しで見られたな」


 失笑するベラルディ先生を見て室内が静まり返る。

 この学園に赴任する教師となれば知力は勿論人柄そして何より魔力の高さも要求される。

 一番弱いとされる用務員でさえ30万ほどの魔力値があるのだ。

 因みに最高学年の平均値が30万辺り。学生達に最低限舐められない程度だと言う。

 軽く見積もっても50万ぐらいはありそうな魔力値のベラルディ先生を鼻で笑うなんて……


「なんかすごく基準値がおかしくね?」


 ここ数日の学校生活で俺も大体の基準値なる物を理解したけど、さすがに違和感を覚える。

 先生ぐらいあれば十分なんじゃないか思わずヒューイに聞けば彼は真面目な顔で頷いた。


「ものすごくおかしいわよね?」


 エクルでさえ真顔で言うのだからたぶん俺の判断は間違ってない証拠だろう。


「何はともあれフリューゲル国とは外交はあれど3000エール級の山脈で簡単に遊びに行ける国ではないし、一度アズライン国を通り海に出ないとなかなかたどり着けない近くて遠い国だからそこまで交流の深い国ではないからそこまで係る必要はないぞ」

「でも先生行ってるじゃん」

「あの国は知の国とも言われるからな。

 学園の教師となるならそこそこの学術を修めなくてはいけない。

 ここ数年フリューゲル国の学術が急に発展しているから内政を目指す者は一度は留学する方が良いと思うし、この国とは違う学術が山ほどありそれを学びに行く研究者が今も後を絶えない。

 そしてみんな私のようにフリューゲル国の実態を知って己の未熟さを知って意気消沈として帰ってくるのだよ」


 更なる失笑に先生の目は虚ろになっていた。

 これ以上聞いてはいけないとあまりまだお互いよくわかってないクラスでも誰もが同じ意見に辿り着き、それから始まった授業に書き綴られる黒板の文字を全員黙ったまま書き写し、カツカツと黒板に書かれる文字の音に神経は磨り減らされ、朗々と語るこの国の始まりの紀元となる出来事を語る口調は生命力を削り取るような何かの精神に左右する魔法のようだった。




 どっと疲れた二時限目が終わり、気が付けば昼食の時間になっていた。

 三時限目の数学の時間と四時間目の国語の時間を何やったか覚えてなかったのでエクルに聞けば二時限目の歴史の授業で精神をゴリゴリとすりきらせてあまり頭に入ってないと言うのはヒューイもミストも同じで、周囲を見渡す限りでは他の奴らもそのような様子だった。


 とりあえずあまり食欲がわかないまま学食へと向かえばちゃんと体は空腹であることを訴えていて、気が付けば俺達は二人前を平らげていた。

 ヒューイはもちろんエクルもミストもと言う意味で。


「どうして食べ過ぎちゃうんだろー」

「私一人前がやっとだったのに……」


 エクルもミストも背中を椅子の背もたれに押し付けてながら苦しそうにしているも


「大食い女子の食事光景って良いよな。

 たかが学食で美味しそうに幸せそうに食べるのを見てると、食後のコーヒーが美味いな」

「変態発言は本人達の目の前で言うのはやめてやれ」


苦しそうな顔で二人はヒューイの視線から避ける様に顔を背けるも


「次の時間は魔法言語学だっけ」

「うーん。お腹いっぱいだと眠くなりそう……」

「最初は魔法言語のスペルを何度も書いて覚えるだけだから……」

「ダメ。悪いけどマスターしてるから寝るかも」

「去年一年やったから私も……

 ヒューイとファロは?」

「俺ん家も兄貴にガッツリしごかれてきた後」

「同じく。エィンシャンに発音も総て叩きこまれたんだけど、これって学校で習う物なのか?」


 貴族でもない俺でもマスターできる物だと言えば


「案外それは苦労して覚える事なんだよ。

 まず魔法言語を覚えている人って意外と少ないって事から覚えようね」


 エクルの言葉にふーんと聞き流しておく。

 なんせ、うちには俺への嫌がらせとして魔法言語でしか話さない奴らばかりだったから意地でも理解できるようになたのはなるようになったと言う物だろう。

 それでよくグレなかったなとヒューイに言われたがグレても何もできないあの山奥ではグレようがない事を説明すればさすが田舎と言われた。

 もう好きなように言ってくれと食後の運動を兼ねて教室に戻る事にして、所々で居眠りが発生すると言う五時限目を終える直前に魔法言語学の先生が大層ご立腹で


「この教室は一体栄えあるウィスタリア学園の授業を何だと思ってる!」


 と声たかだかに叫んでいたが


「文句は二限目のベラルディ先生にいってください!

 あの先生の履歴を聞いて私達この国の行く末を憂いているのです!!」


 声高らかにアネメニが言い返した所で先生は口をつぐんだ。


「そうか。

 ベラルディ先生の経歴に触れてしまったか。

 なら仕方がない……」


 そう言って授業終了まで数分を残して教室を後にしたのだ。


「ちょっとまて。何でそれで納得するんだよ」


 別のクラスメイトの発言にミストが追加情報をきかせてくれた。


「ベラルディ先生どこだっ方の公爵家の傍系で、その公爵家の娘さんをお嫁に迎える為にお家再興を目指す両親の下でかなりスパルタ気味で育てられたらしいの。

 スパルタが功をなして逆に公爵家に婿入りする事になって教師をしながら目ぼしい人材を探しているって噂聞いた事があるんだけど、スパルタ具合が気になるよねって去年結構噂話になったけど、去年は担当の先生じゃなかったから詳しくは知らなかったけどね……

 そのスパルタ具合がこういう内容だったのは初めて聞いたかも」


 当然新一年生には知らない話だ。

 ミスト周辺に居た人達から教室内にあっという間に広がってとりあえずヒューイだけが


「じゃああの人がベラルディ次期公爵になるんだ」


 などとどうでもいい事をぼんやりと呟いていた。





















国交はあっても交流がないとこんな事故が起きると言う案件その1

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