反省会はこれからだ!
評価ありがとうございます!
週一更新なのでごゆっくりお付き合いください。
シレスティアルの言動と学園長の器の広さと正真正銘の高位の貴族とのやり取りに誰もがぐったりとする中で
「他にまだ言ってない事があれば聞くぞ?」
疲れ切って何処かぞんざいな言動になっている学園長の長い溜息を零す横でシエル先生は紅茶に二つ目の砂糖を落していた。
緊張からか甘い物が欲しいのかミルクとバターまで淹れてこってりとした甘さの紅茶をすすっていた。
視線を彷徨わせる俺達はどうしようかと悩むが
「レイが言っていた事なんだけど、ミストは水属性一つじゃなく水特化とかいう属性だとさ」
「ファロ!」
ヒューイが力強い声で俺を窘めるも
「悪いな。学園長の秘書のリマが精霊である以上ばれるのも時間の問題って言うかばれてるだろうしな」
学園長はさすがに顔を歪めもせずに紅茶を飲み、シエル先生も啜る様にあつあつの紅茶をすする当たりこの一件も既にばれていたと言う事だろう。
そしてリマが精霊だと言う事を知らなかった面々は驚きの眼差しで言葉無くリマを眺めるばかりだった。
「見ての通り学園長もリマもシエル先生も俺達がこの事を知っているかどうかの確認であって、しいて言えば俺があっさりとリマの事を皆にゲロった事をどうするかぐらいしか考えてない顔だ」
とまで言った所で学園長が少し口元を緩めた。
「まぁ、儂らの確認もそんなもんだが、この事はどこまで知ってるかの?」
「黎明の月の食堂での話しだからあのギルドにはミストの事は知れ渡っていると思った方が良い。
トリアが箝口令を敷いてくれたが、人の口に戸は建てられん。
魔法で制限掛けたわけでもないからたぶん広まってるだろうな?」
「ロンサールの炎の女帝ガーネット以来の傑物になると良いのう。
さしずめ清き泉の乙女ミストローゼと言った所かの?」
「お、乙女……」
ミスト本人の引きざまに学園長はそっぽを向いて笑いだす。
自分で行って恥ずかしかった口だなと誰ともなく生暖かい目で見守るも
「そこまで判っているのなら改めて説明する必要もないだろう。
まさか特化属性の事を知っていたとは、いやはやいつかレイ殿とはゆっくり飲み明かしたいものだな。
さて、ミストローゼ・シャトルーズ。
国の税金と言うお金で設立されたこの学園の長をを務める儂はお前の存在を国に報告する義務がある。
たとえ一属性と言えども精霊持ち、特化属性と言う貴重な使い手を国は無視する事は出来ないだろう。
水の巫女、そして筆頭巫女の座は確実だろう」
思わずチラリとヒューイが視線を投げた先を追いかければそれはエクルで、今まで散々筆頭巫女だとか言われていた彼女は悔しげに唇を噛みしめていた。
今まで散々努力して来たのに、魔力が開通したミストに総てその座を奪われてしまったのだ。
少し沈痛な雰囲気の中でも学園長のミストへの会話は変らずに淡々と進む。
「もし、何か望む事があれば取り計らう事が出来るよう連絡するが?」
「でしたら……」
そう言ったミストは少しだけ何か考える様に唇を閉ざし
「本年度末の最後の測定の時までただの候補者の一人で居させてください」
「ほう?」
どういった意図かと尋ねるように目を細めた学園長に
「私の力は精霊様の力に頼る所が大きいです。
何時精霊様の気まぐれで見放されるかもわからない力です。
もし、最後の測定の時に精霊様に捨てられてなければ、その時に改めてレイ様にお願いして巫女のお勤めをするようにと精霊様の目の前で命じて戴ければ巫女のお勤めの間に精霊様に見放されると言う最悪の事態は防げましょう」
震える手は制服の裾が皺が寄るくらい握りしめていて、それを見ていたエクルははっとしたように目を見開き、その手にそっと自分の手を添えて、握りしめていた。
忘れていたわけじゃない。
ミストの力は精霊の思いたった一つでまた失われる脆い物だと言う事を。
それがどういった物か誰よりも理解している当の本人は突如湧いた話と大きな役目に今にも押しつぶされそうな顔で俯いていた。
「確かにそれは大きな問題だ。
ならそれを踏まえて国には進言する事になる。
なに、そんな泣きそうなくらい不安になる事はない。
シャトルーズ侯も儂もミストローゼの味方なのだから、大船に乗ったつもりで次の測定の時まで健やかに過ごすと良い」
皺の深い大きな手で優しくミストの肩ポンポンと叩きながら俺達の顔を見て
「エクルーラ・タラズマンは巫女候補として新しいこの候補に舞や歌を教えてあげなさい。
巫女として務めが始まれば孤独との戦いじゃ。
手を取り合って絆を深め、孤独に打ち勝つには今が絶好の機会。
仲良くこの不安を乗り越える為に、ましてや邪なる迷い事をはねのける力となるじゃろう。
巫女同士仲良うするのも巫女としての務めの1つじゃ」
同じようにエクルの肩もポンポンと叩く。
「巫女になった先にある宮と言う場所は国の設立と同時に始まった王制とは全く別の組織形態じゃ。
この国の中にある別の国と思った方が良い位特殊で国からの関与は勿論外部から隔絶された場所じゃ。
精霊王のお膝元と言われる位じゃから別の世界と思っても構わんじゃろ。
そこで務める間外部とは一切かかわる事は出来ず、国の式典礼典ぐらいしか外を見る機会がない位閉鎖された場所じゃ。
そんな寂しい所じゃから、今の二人の思いは何であれ支え合えるような仲になると良い」
その独特な世界を欠片でも知るエクルははっとした顔で学園長を見つめ、それからゆっくりとミストを見つめる。
独特な孤独の世界にすでに孤独を知るミストには今さらだろうとも思うもそこは女の世界。
陰湿で歪な影を知るエクルは正直一人では怖いと思っていた。
巫女様巫女様と呼ばれる裏では何か線を引いたような距離を感じていて、当代の巫女は心労と言う様にやつれている様子すら見られる。
だけどどの巫女も
『これは大切なお勤め。
国の総ての民に平穏を約束する大切なお勤めなの。
誰かが必ずやらなくてはいけなくて、だったら私が責任を持ってやりたいと思いでここにいるの。
もちろんここに務めている職員は巫女の職務の重要性をちゃんと理解してるわ。
ただ、巫女の在籍は決められた年数だけど彼女達は退職するまでずっと宮の中で過ごすの。
当然世間と隔絶された場所だから、長く務めている方は今更外に出るのが怖いとおっしゃる方もいるわ。
閉ざされた空間で閉ざされた情報で外から来る巫女は羨ましい反面時が来れば出て行くのだから妬ましくも思うの。
この訓練期間はそう言った場所を理解するための期間だから、理解できないのなら巫女を降りなさい』
そこまでの覚悟を持ってのお勤めを誇らしく勤め上げようとする彼女達にこそ私は憧れたのだ。
この試練を乗り越えれば湯水のように金を使う親達に立ち向かい、正しく家計や教育を施す事が出来ると挑むつもりなのだ。
勿論それで赤字の家計が何とかなるわけでもないので、箔をつけての婿探しとなるのだが、そこはちょうどいい物件が転がって来たから掴んでおくとしよう。
たとえ、初めての初恋に別れを告げる事になろうとも……借金の形に娼館に売り飛ばされる位ならそれぐらい涙を呑んでも仕方がないと諦めるしかない。
私の覚悟は既にもう10年近く前から決まっているのだ。
「ミスト、良かったら学校の休みの日に呼ばれている候補者達の研修に今度参加して見ない?
沢山の不安があると思うけど、まず見て考えてほしいの」
きっと宮の中を知っているだろう学園長のほんの一言に私は得難い仲間を見付けていた事に改めて気が付いて積極的に誘ってみれば、まだ宮の中を知らないミストは
「だったら今度どんな所か案内してくれる?」
照れたような笑みに後ろめたさを覚えるも約束と言って抱きしめてしまった。
「美少女の抱き合わせって目の保養だよな」
「学校でそれはやめろ」
ヒューイの寝言に律儀に突っ込むファロード。
お互い良い相棒を見付けたわとくすぐったそうにもじもじしているミストのに思いっきり甘えながら今日の放課後の予定の約束をするのだった。
「って言うか、みんな二限目から授業だよー。
ちゃーんとわかってるよね?
ちゃんと授業でるのよ?
お願いだから出席率悪いなんて言われないでよ?
フレイ先生はどうでもいいけどさぼる時はシエル先生まで怒られない程度にほどほどでサボるんだよ!」
シエル先生がもうサボるつもりでいるんじゃないのと言う謎のお叱りにそう言えば学園だったなと思い出して席を立てばちょうど一限目の終わったベルが鳴る。
「濃密な一時間だったな」
ヒューイの一言に頷きながら
「でもフレイ先生の寝たくなるような授業よりはましだな」
ファロードの一言にうっかり頷く私に苦笑する学園長と難しい顔をするシエル先生はブツブツと何やら言っていたが良くは聞こえなかったが……
「シエル、今から少し話があるからお前はここに残りなさい」
「や、ヤダなぁ。学園長お顔は笑ってるのに目が笑ってないよ?」
「なーに、今の発言をちょっと詳しく聞きたいだけじゃよ」
「あはは~☆少しは回り道をする事も大切だと言う事を教えてみただけですよぉ」
「だったらまず儂も聞いてみたいのう……」
「やだなぁ、今から回り道したら残りの人生ないじゃないですか」
「……」
俺達はリマによって学園長室から出された後ピシリとドアが閉まっていた。
しっかりと鍵までかかる音を聞いて……何やらシエル先生の鳴き声が聞こえた。
きっと今から反省会でもするのだろうと思いながらもこの二人どういった関係だろうかと邪推してしまうのは仕方がないと言う物だ。
無言のまま今日はまっすぐ教室へ向かうのに誰も反対はしなかった。