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ロストソング  作者: 雪那 由多
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問う 、なぜ精霊は人と契約するのか?

キーボードを叩く指がかじかむ季節になりました。

お約束のように風邪をひきました。

関係ないけど20歳の人と話をする機会があり、今時の20歳は「ドナドナ」を知らない事を知りました。

ネタとして知ってるけど歌があるとは知らなかったと……

ジェネレーションギャップにショックを受けております。

 学園長の部屋の扉の前に立った。

 ノックをすると思いきや失礼しますとの言葉だけで入って行くシエル先生の後姿にヒューイ達はちょっと待ってと言う様に手を伸ばすもすでに遅く大きく広げられた扉の向こうでは学園長と秘書リマ、そして……


「昨日見たおっさんだ。

 確かミストのオヤジさんだっけか」


 確認するようにヒューイを見れば俺に聞かないでくれと言う様に片手で顔を隠して項垂れていた。


「何だよ……

 間違っちゃいないだろ?」


 エクルに問うも違うと首を横に振り


「昨日お会いしたミストローゼ様のお父様でしょうかとお訊ねするのです。

 その前に目下の者から声をかけてはいけなくて、お声をかけて戴くまでお待ちするのがマナーです」


 突如マナー講座が始まるも


「悪いな。そんなマナーなんて知りもしない平民だから無礼は諦めてくれ」


 本当は知らないわけではないがどこまで許されるのかとニカリと笑みを浮かべればミストのオヤジさんは少しだけ不快な顔を見せるも


「ふぉっふぉっふぉ。

 学園内では生徒は総て平等に扱われる。

 だが、人としてのマナーはレイ殿に学ばなかったか?

 目上、もしくは年上に対して尊敬の念を抱くようにと」


 学園長が窘めるも


「さらに悪いな。

 家の付近には人間はいなかったし、レイも無駄に生きた年月の違いだけで頭を下げる必要はないっていう教育方針だし。

 誰に対して頭を下げるかはその人となりを見てから尊敬の念を抱いて敬えばいいって言う育て方だから、魔盲ってだけで姉妹を平等に扱わなかった父親と言う男に下げる頭は持ち合わしてないんだ」


 胸を張って言えば隣で何か言いたげに俺の制服を引っ張るミストがいたが


「確かにそれは耳の痛い話だ」


 ミストのオヤジさんは少しだけ目を伏せたあたりこの一件に対しては何か思う所があるのだろう。

 室内が静かになった所でリマが俺達に椅子を勧めてお茶を用意してくれた。


「さて、授業中に呼びだしたのはシャトルーズ嬢の魔力の解放の一件だが、大体の話しはシエル先生より聞かせてもらった」


 思わずいつの間にと言うも、何やら魔法陣の刻まれた石をひらりと見せてくれて、学園長も手のひらから同じ色の石を机の上に置いた。


「先ほど、ここに来る途中の話しはすべて私とシャトルーズ侯と聞かせてもらった」

「うわっ、せんせー仕事早すぎ!」

「言ったでしょ?先生は学園長の味方だって」

「だからと言ってこれはないでしょ……」


 さすがのヒューイもありえんと恨みがましくシエル先生を睨み上げていたが

 

「所でレイ殿と言ったか、ミストローゼの魔力を使えるようにしてくれたのは?」

「レイに何かしたらあいつの下僕が何しでかすか判らないから手は出すなよ」

「ほう?」

「ディヴィール村の山奥の魔物がこぞって逃げ出す相手だ。

 たかだか人間如きがどうこうできる相手じゃないぞ」

「なるほど。侯爵家を敵にするわけか」

「あんた阿保か?

 人が人に与えた爵位何て意味がないって言ってるんだ。

 それにあいつらの尺度はレイの意志なんて全く関係ないんだ。

 レイの敵がいる。だったらすべて殲滅する。その際山の一つや二つ、村も街も国も全く持ってただの石ころ程度の存在になる。

 だからレイには手を出すなって言ってるんだよ」


 静寂に包まれる室内に


「昨日のあの何とかって羽の生えた奴みたいなのがごろごろしてるって事か?」


 さすがのヒューイも事態を重く見てか俺に問いただしてくるも


「ウェルキィはレイのただの友達みたいだから下僕じゃないけど、それでも声を掛けたら寄って来るって事は……レイの人望?」


 そんな物があるのかと言う様に頭を捻ってしまうも答えを出してくれる人は誰もいない。


「まぁ、ミストがレイに忠誠を誓ったとか何かあったけど、どうせレイはギルドの仕事でいつもの通りどこかうろうろしてるからほっとけばいいんじゃね?」


 良い年したおっさんなんだしと言えばミストのオヤジさんはどうしたものかとただ考えるだけの様子に


「かかわらない方が良い相手もいるって言うの、お貴族様の世界でもあるんじゃね?」


 この一言にそうだなとミストのオヤジさんは頷くも


「では、なぜミストローゼが水属性一種類しかなく、すでに魔力が90万を超えている理由を聞くには誰に問えばいいか判るか?」

「使えなかった間に訓練したミストの努力のせいじゃないか?」


 爆弾と言うような言葉に俺が何か言葉を出せたのは奇跡だろう。

 誰ともなく、当の本人も口をつぐんでしまった様子。

 そして水属性一種類でもこれだけの高い魔力に父親が今までの所業を改める必要性に迫られたのはこのせいかとこの場に集められた事に納得が出来た。


「すごい、私まだ50万に届かないって言うのに……」

「ミストローゼは今日はこの後水の神殿へと赴く事になる」

「候補と言うかもう確定でしょう。

 一つ上の学年に本命の方が見えたと思いましたがまだ40万そこそこ。

 倍以上ある上に……」

「90万もあれば筆頭巫女確定じゃないですか……」


 エクルも絶句するその数値にミストローゼはただ狼狽えるばかり。

 先日までこの国ではつまはじき者だったのに六大神殿の筆頭巫女候補になってしまったのだ。

 全く変わってしまった世界についにぼろぼろと涙を流し始め


「この力は私だけの力ではないのですお父様!

 私の力は精霊様の力なので、そんな大それた物じゃないのです!」


 精霊の事は内緒にして来たのにミスト自身があまりの環境の変化に怯えてついに口走ってしまった。

 まぁ、当人が言うのなら俺達が口を挟む事じゃないが、同じ精霊のリマはちょっと困ったように眉をひそめていた。


「だったらその精霊とやらに話を詳しく聞こうではないか。

 呼びなさい」


 口がポカンと開いた。

 何故にこのミストのオヤジは精霊にそんな風に言えるのかと一瞬学園長とリマでさえ耳を疑うと言うようなその隙にミストははいと言って


「シレスティアルお父様が話を聞きたいそうなの。

 出て来てください」


 あたふたと膝を折り、胸の前で手を組んで目を瞑っての居るような姿で口上を唱えれば


「いつから人間と言う物は精霊を見下すようになっておるのか」


 ぽちゃんと一滴の水滴が落ちたかと思えば、瞬く間に具現したかと思ったとたんミストのオヤジさんを水のロープで縛り上げていた。


「う、うわっ!!!」


 口元すぐ下まで、溺れる寸前と言う様に浮力で足を付かないようにしてシレスティアルと呼ばれた精霊はミストの父親を見上げてた。


「人に問う。

 なぜ精霊は人と契約するのか?」

「精霊が人の手を借りなくては人の世界に干渉できない為。

 故に選んだ契約者に力と引き換えに協力を得る為」

「なぜ精霊は人が嫌いか?」

「人は精霊よりその時は短くそして無力。

 でも世界を隔てたこの人の世界に干渉する為には人の助力が必要。

 故に精霊と契約せし人は精霊を従えた事を己の力と勘違いする」

「なぜ私は今腹を立てているのか判るか?」

「契約者が第三の者の意志によってあんたを呼び出した事が原因だ。

 選んだ契約者を力でねじ伏せる、それはあんたに対しての敵対行動と言う事に等しい」


 精霊の問いに答えた俺を見て満足げに笑い


「よろしい。

 わかったか、我が契約者の父と名乗る者よ。

 お前は我が契約者のたかだか父であって我が選んだ契約者ではない。

 我が選んだのはミストローゼただ一人。

 因って、我をお前の力と勘違いする前に我はお前を除外しようと思う」


「お待ちください精霊様!」

「お言葉ですが私からも一言おききくだされ!」


 校長の声に半分溺れかけたミストの父親を冷たい視線で眺める精霊はゆっくりと学園長と、多分隣のリマを見て少しだけ面白そうに口を歪める。


「ガキ共がどうした?」


 どちらに向けての言葉か知らないが少しだけ水量を減らして溺れない程度にして学園長へと顔を向ける。


「今の若い者達には精霊との交渉の術を知りません。

 精霊を敬う事はただの姿勢だけとなり、ましてや精霊と出会う事すらないまま生涯を終える者ばかり。

 今回の一件でシャトルーズ侯も理解できたでしょう。

 貴方様のお力はミストローゼだけの物。

 他人にとやかく指示される物ではない事を。

 たとえそれが王家であっても」


 深々と頭を下げる学園長とリマに少しは機嫌を直したシレスティアルは


「折角だから呼び出した要件を一つ聞こう」


 交渉は学園長と決めてかミストと学園長以外をすべて無視する精霊様の様子にエクルはすっかりおびえていた。

 こいつらを敬うのが巫女の仕事だったろと思うも


「ミストローゼの力の事について聞きたいのです。

 なぜこの子は今頃突如これほどの力を具現できたのかと、そしてなぜ水属性一種類しか扱えないのかを是非お尋ねもうしたい」


 その言葉に一つだと言ったのにと言う様に小言を言う精霊様だったが


「この娘の家の血は長い年月をかけてやたらと水属性と関わり深くその結果水一属性が偶然にも生まれたのじゃろう。

 まず、この娘は魔盲にしなくてはいけないほどの生まれながらの魔力の持ち主。

 成長と共に育てなくてはいけない魔力なのに生まれた体では到底耐える事が出来ない量を保持しておった。

 魔障程度の病では収まらない為に魔力そのものを断ち切らなくては自らの魔力に焼かれるだけの生。

 だが、我ら精霊にとればこれほどの持ち主は契約するに値する器でもある。

 お前が母親の腹にいるうちに偶然気が付いた我は母の内に居る時から魔力に潰されないように守って来た。

 それこそ作りだされた魔力をすぐに消費させ続けた結果、ごらんの通りの魔力になるのは当然。

 因って、その命我が守り続けた物、我が契約者に値する。

 ただし、我にとって人の成長の早さは少々予想外だった。

 何時の間に我を受け止めるほどに成長してたのか気付けなんだが、あのレイと言う者に我とミストローゼをとりなした感謝はその身を持って尽さなくてはならぬ物。

 父を名乗る男よ覚えておけ。

 ミストローゼはレイと言う男の妻にするなりしてあの男に尽くすように進言せよ」


 ゆるゆるとまた水量を増していく様子にミストのオヤジさんは答えは一つしかなく


「承りました」


 半分溺れながら言う様子にシレスティアルは嬉しそうにその喉元に指を押し付ける。


「精霊との約束破ればどうなるか判っておるな?

 ここに刻印を刻む。

 破ればここから頭と胴体が別れを告げるだけじゃ。

 簡単な約束じゃの人の子よ」


 ほほほと笑う精霊はそう言って姿を消して行き、ミストのオヤジを溺れかけさせた水も共に引き上げて行こうとする前に


「精霊様1つ質問をお許しください!

 何故に精霊様は人の世界に?!」


 エクルの叫び声にシレスティアルは嬉しそうにほほ笑む。


「こちらに渡った精霊王に尽くす為に。

 我ら精霊の最も重要な使命よ」


 コロコロと笑いながら消えて行ったシレスティアルに一同は今起きた事をゆっくりと理解する様に各々椅子に深く座って背もたれに身体を預ける。


「シャトルーズ侯、ミストローゼの力を政治に利用すれば真っ先に命を失う事になりそうよの」

「欲を掻いた。

 代々水の巫女を輩出した家として今代の水の巫女の座を他所に譲ってしまった為に焦っていたのだろうか」


 ぐったり。

 そう言った言葉がぴったりな様子にミストはすぐ隣で寄り添っていたわっていた。

 その手を握り返す父親にミストは嬉しそうな顔を浮かべるだけあって如何に父親からいままで寂しい思いをしていたかが伺える一コマだけに何とも苦い思いをする。

 あれだけ散々な目にあって、今も政治に利用されようとしたのにまだその男を父親と慕うのかと。

 呆れてミストの顔から視線を反らすも


「お父様も聞いてください。

 多い少ないは別にして何不自由なく育ててくれた事には感謝しています。

 ですが、精霊様との約束は破るわけもいけません。

 巫女様になれるかどうかは神殿の判断なので私は何とも言えませんが、巫女になれてもなれなくてもレイ様の下でお手伝いなり家政婦なり、その……お嫁さんにしてくれるならお断りするつもりもありません……」

「いや、そこは断れ。

 同級生のオフクロなんて冗談じゃない」

「ファロも複雑だなぁ」


 他人事のように何度も同情するぜと言うヒューイの横でははらはらと言う様にエクルが口元を隠して演劇を見る様に眺めていた。


「この約束を破ればシレスティアル様は私をまた元の魔盲にするとも仰ってました。

 この力も総てシレスティアル様の一存に委ねられています。

 もし、この力が水の巫女としてお父様のお役にたてるようでしたらどうかシレスティアル様のお約束を守らせてください」


 ぐったりしたままの、何所か顔色の悪いミストのオヤジさんは小さな声で


「好きなようにせよ」


 そう言って何とか膝に力を入れて扉を出て行くのだった。

 リマが深々とお辞儀をしながらミストのオヤジさんを見送れば


「それにしてもおっかない精霊じゃのう」

「はい。高位の精霊様とお見受けしました」

「なるほどのう。

 我々もミストローゼの取り扱いに気をつけねばならんの。

 でないと、先ほどのシャトルーズ侯のようにあっという間に水死する事になるのか……」

「そうなりますね。

 契約するとお力はお貸しいただけますが、その目、その耳、その口にした言葉は総て精霊様も見て聞いていると思ってもらった方が良いでしょう」

「それは自由がないと言う事かな?」


 ヒューイが眉間にこれでもかと皺を深くして悩んでいたが


「精霊はそれほど人の暮らしに興味はないわ。

 ただ好奇心は旺盛だから、その目に映る真新しい物に衝動が抑えられるかどうかは別の話しじゃよ」

「学園長精霊に詳しいのですね?」


 感心した様にエクルが溜息を落せば


「ふぉっふぉっふぉ……

 これでもこの学園の学園長だからの」



 精霊がこんなにも側にいるんだから知ってるのは当然だと言うツッコミは思わずリマを見て微笑み返された笑顔に向かって溜息と共に消えるのだった。






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