学校始まったばかりなのに呼び出されました……
呼び出しってどきっとくるよね。
たとえそれがどんなしょうもない理由だとしてもさ……
オリエンテーリングの翌日の教室の空気は微妙だった。
寮の前で俺達チーム四人+ハイネが集まって教室に行く事になったのだが、昨日のオリエンテーリングの成功チームが学年で俺達一組が唯一と言う事実に視線は針のむしろ状態だった。
そして昨日まではミスト妹の護衛だったハイネがミストについている。
今までシャトルーズ家ではミストは居ない存在だったのにここに来てミスト妹の護衛が移動していると言う事実にヒューイ曰く貴族間の権力バランスに何かあるのではと言う視線が鬱陶しいらしい。
更に、ハイネがミスト妹に無視されていると言う状況と、そんなミスト妹に気遣う同僚の申し訳ないと言う態度が輪を掛けて鬱陶しいと思うのは俺だけではないはずだ。
「なんか凄く注目浴びてない?」
巫女候補として嫉妬にまみれた視線に麻痺しているエクルでもこの視線には辟易してか俺を挟んだヒューイと小声で呟けばヒューイの隣のミストの更に隣のハイネが小声で
「申し訳ありません。私の配属の変更に気を遣わせてしまっているようで……」
「ハイネは悪くないよ。
お父様の命令だもの……」
命令を受ける事に慣れ過ぎているミストは従者にすらごめんねと言う始末。
ヒューイが主人なら従者に簡単に謝ってはいけませんと小言を言うも、ミストも負けじと非があれば従者と言えども謝罪は口にしなくてはいけないと言い返す。
「シャトルーズ侯に認められてミスト随分変わったよね?」
「まぁ、あんなおどおどした態度が好きって言う奴が居たらぶっ飛ばさないといけないぐらいだからちょうどいいんじゃないか?」
寧ろ正論を言えるようになったミストの成長に素直に驚きは隠せなく、思わずミストの言葉に拍手すらしてしまう。
「ま、あれだよな。
お貴族様って生き物は窮屈で自由のない生き物だったいう事だろ?」
周囲の貴族からじろりと睨まれるも、爵位や力関係で何も言い返せない奴らに呆れてしまう。
因みに俺達のチームの中ではエクルが最上位らしい。
お家的にはミストの家が圧倒的に格式が高いのだけど、当人が魔力がないと周知に認知されていると言うか、魔法が使えるようになった事を報告してない為に居ない子同然のミストに価値は誰も付けていないようだった。
ついでに言えば親子で騎士団の隊長を務めているシュヴァインフルト家は高潔な騎士の家系として有名らしく、歴代お婿さんにしたいナンバー5に入るくらいのイケメンぞろいだと言う。
男の俺からイケメンって何ぞやと言う所だが、悲しい事にレイの下僕の奴らが俺の美醜の感覚を狂わせるほど美しい顔ぶれなのでこの点に関しては俺は麻痺していると言ってもいいのでこの手の話題には関らないようにしている。
ちなみにあいつらの性格は最悪だが、それでもレイの命令は聞いてくれるので俺達の関係はおおむね良好という所だろう。
そう言う生き物だから諦めてくれってレイに言われる始末だから付き合い方はもう近寄らず近寄らせず程よい緊張を保つ距離感をキープするのがベターだとの攻略済みだ。
貴族の相手もこれぐらいの距離で良いだろうと思うようにしている。
「全員席に着け!」
いきなり扉が開いたかと思えばフレイ先生とシエル先生がそろってやってきた。
教壇に立つフレイ先生と扉の前で待機のシエル先生は俺達の顔を見て
「昨日は突然の雨で大変だったがとりあえずお疲れ様と言っておこう。
シュヴァインフルトチーム以外は全員脱落の為今週末補習を受けてもらう事になった。
余裕持ってシュヴァインフルトチームが到着できて、他が到着もしないと言うふがいなさに学校側の特別処置だ。
なお欠席の場合は留年を取るか取らないかの二択になる。
そこの所をよく考える様に」
えーっ?!
クラス中が一斉に不満の声を上げるも
「シエル先生から追加の補足だよー。
この補習は個人参加になるよー。
さぼりたい子はさぼってもいいよー、どうなるかはもう伝えてあるからねー。
実技と筆記の補修の二科目二時間ずつになるから運動する服装と筆記用具を忘れないようにね」
いくつかの不満げな視線が俺達に向けられるも
「あとシュヴァインフルトチームは少し聞きたい事があるのでこの後すぐシエル先生と一度学園長室に来るように。
他の子はフレイ先生の授業だよー」
補習も嫌だが学園長室に呼び出しも嫌だと言う何故か憐れむような視線に代わる中なんだろうなんて考えるまでもない。
「ミストの事だよなぁ?」
何て少し背中を反らしてヒューイに聞けば
「それ以外有るか?」
判りきっている事を確認したくなるのは仕方ないだろうと言っておく。
「とりあえず行きましょうか」
「なんか、その、ごめんなさい」
しゅんとしたミストの様子に
「何も悪い事したわけじゃない。
とりあえず学園長に話聞こうぜ」
なんて会話している間に朝の朝礼は終わってしまった。
「シュヴァインフルト達はシエル先生と一緒に学園長室に行くように。
他の者は実技魔法の教科書を用意しろ。
まずはじめに実技魔法は六大元素の中から基本の四大元素から始める……」
フレイ先生の授業の始まりの様子を横目に俺達はシエル先生に案内されて教室を後にしたのだった。
「それにしてもミストちゃん良かったねぇ。
魔法使えるようになって、お父様とも仲良くなれて」
「ええと、ありがとうございまさす……かな?」
少し恥ずかしげに、でもまだ自信が持てなくて不安な顔を隠しきれず俯いてしまうも直ぐにエルクが隣に寄り添って良かったねと励ましてくれる。
「だけど何でかなぁ?
オリエンテーリング始まった時にはすでに魔力があったのに何でオリエンテーリング中に魔力が覚醒したって事になってるのかなぁ?
ほら、先生だから話のつじつま合わせなくちゃいけないでしょ?」
その理由ぐらい教えてくれてもいいよねぇ?
何てどこか拗ねたようなまなざしのシエル先生に誰ともなく俺へと視線を集めた。
その視線の先を見てシエル先生は俺を仲間外れにされた子供のような瞳で睨み上げて来るからどうしたものかと考えながら
「詳しく話すと長くなるんだが、簡単に言うとオリエンテーリングの前日に買い出しに行った時に俺の養父のレイを紹介がてら魔力を使えるようにしてもらいました。
だけど代償にミストはレイに忠誠を誓った。
見物人は黎明の月のトリア以下ギルドの一部のメンバー。
お貴族様って言うのはたかだか平民と関わるのが死ぬほど嫌いらしいからさてどうするかって言うのが多分今のミストの現状。
とりあえず偶然を装ってオリエンテーリング中に魔力が使えるようになったって言うのが俺達の苦肉の作って言う所」
「なんか聞かなかった方が良かったって言う内容ね。
それよりもだ」
シエル先生は俺達の前に立ちはだかり、エクルやミストよりも小さい身体で懸命に胸を張って俺達を見上げ
「よくこんな重大な事を大雑把にだけど先生に話してくれた。
先生も出来るだけみんなの期待に応えるよ」
「できるだけかよ……」
「そこはしがない雇われの身分なので」
眉毛を八の字にしての情けない姿に
「でもシエル先生ってヴィスタ伯爵家の長女でしたよね?」
「やっぱり先生までお貴族様なんだ」
ヒューイの脳内貴族図鑑に思わずさすがお貴族様の通う学校と口笛を吹けば
「いやいや、こちらのシエル様はなかなかの曲者で、貴族にはあるまじき快挙を連ねる豪快なお嬢様で、ついにこの国中の貴族の男性は婿に名乗り上げる事を止めた逸話有名だけど聞く?」
「ありゃー、君達にも伝わる伝説になってしまったかー」
「デビュタントの日に初めて顔を合わせた酔っ払いのフィアンセの手癖の悪さにきれてぷちっとやった事件はこの国の貴族の男性には生命線を絶たれるも同意語なので」
「「「………」」」
俺はもちろんエクルもミストもだんまりを決めてシエル先生を眺めてしまう。
あんたなんてことを……
無言で訴え続ければ
「だってぇー、この日初顔合わせっていう事でそれなりに一生懸命おしゃれしてさ、身長差を誤魔化す為に12ゼールのピンヒール履いてダンス踊れるように頑張って来た16才だったのに、いきなり人を見てチビだのガキだの言う割には人の胸を見ていきなり鷲掴みするような人には相応の罰があってもいいと思わない?」
「確かに相応の罰があってもいいとは思うけど……」
「相手は生涯子供の作れない身の上に、そして私は生涯夫を望めない身の上に。
家に帰ったら速攻勘当されちゃったから学園長に泣きついてギルド紹介してもらってそれなりに修行してから学園で教員として雇用してもらったのよ」
「っていう事はさっきの話は学園長に筒抜けになりますね?」
エクルが少しだけ厳しい声で言うも
「ま、どのみち学園長は避けて通れない道かもしれないから先に話してもらえるって事で俺達の面倒も減っていいじゃんっていう事でまとまらないか?」
一々何度も説明するよりもシエル先生に説明をお願いすれば総て解決になるじゃないかと言うも其れはどうだろうかとヒューイは腕を組んで唸るだけ。
「悪いわねー。
そんな身の上だから、先生は圧倒的に学園長の味方なの」
勘当当初の生活費も面倒見てもらったしと言う恩人以外どう評価すればいいのか判らない仏のような学園長に相手が悪かったとしか俺達は言うしかない。