筋肉の量と料理の腕は全く関係ないけど疑ってしまうのは何故だろう
週一更新でのんびり書いております。
どうぞお付き合いください。
スタート地点でもあった拠点のはずれで待っててくれたエクルとヒューイと合流しながらミストの一件を話した。
とりあえずミストにも同じクラスのハイネって奴が護衛に付いた事と、ミストの魔力が今回の探索の合間に具現した事を伝えておいた。
ヒューイもエクルもあちゃーと言う様にしていたが、精霊の事は黙っていた事だけはちゃんと説明した。
訳知りの先生方もその話の方向で合わせてくれたし、細かい所までは後で決めようかと今はほかっておく。
「まぁ、ミスト様もやっとシャトルーズ家の一員になれて良かったって言うのか」
「水特化って言う特異性にシャトルーズ侯は何て言うのか」
「そもそも一番重要なのは魔力量だろ?
妹を越えたら妹の存在ってどうなるんだ?」
俺の一言にヒューイもエクルも俺をじーっと見つめて
「まぁ、いきなり魔力が開通してそこまで期待できる保持量にはならんだろ」
「魔力を上げるのには魔力の消費と回復を繰り返す事で身体の成長と共に大きくなるの。
ミストは悪いけど年齢的にこれ以上肉体的な成長は見込めないから、親から受け継いだ才能だけがミストも魔力の保持量になるわ。
別に意地悪して言ってるんじゃないの。
私たち人間の魔力量の育て方はそういう事で大きくなるようにできてるのだからどうしようもないの」
「どのみちシャトルーズ家ではミスト妹が大きい顔をするのは変りはない、と」
「そもそもこの年齢まであの性格で来たんだ。早々変わる事はないだろ」
「性格はどうあっても変わらないのかあの汚嬢様は」
「汚嬢……って、それ一体何……」
エクルが口元を抑えて目を丸くする顔に向かって
「あまりにも馬鹿でかい声と田舎の人間もびっくりな酷い言葉遣いと男から見てもどんびきな態度とギルドの人間ですら怯えさせるような性格を一言で纏めたつもりだけど、結構ぴったりだと思ったんだけどな」
「当てはまりすぎて逆に言わないのが貴族と言う社会だ。
頼むから本人に向かって言うなよ」
「いや、もう言ったし」
「……」
「……」
「何だよ……」
「いや、お前やっぱり勇者だ」
「はあ?」
「そうね、さすが田舎者怖いもの知らずね」
「悪うございましたね」
へっ、とそっぽを向きながらも寮への道を辿る。
既に借りていたサバイバルキットは返却してもらってるので、本来ならありがたい言葉を聞いてからの解散らしいが、今日はこんな事もあったので明日の朝改めて時間を作る事になったと言うらしい。
「それよりも腹減った。
何か食いてえ……」
「今日は街まで行く体力ないから寮の食堂を試してみましょう?」
「だったらシャワーを浴びて着替えたら食堂の入り口で集合だ。
来ないとは思うがミストにも食堂にいるってメモをお願いしても?」
「ええ、ありがたい事に同じ階の住人なの。お安い御用よ」
じゃあねと言ってロビーで別れてまっすぐ自室へと向かう。
至る所でオリエンテーリングで起きた事を女子寮のラウンジで話に花を咲かせる光景を横に階段を上がって5階の自室へと向かう。
最奥から三つ目の部屋。
そこが三年間使う事になった私の部屋。
最奥の一番静かな部屋はモリエール、それから別のクラスの人、そして私。
階段に近い一番人通りが多く、階段から階下の声が聞こえるこの階の入り口の所にミストの部屋がある。
一度部屋に戻ってメモに「シャワー浴びたら食堂に行くけど後で呼びに行ってもいい?」と書き認めてネームプレートの下の郵便受けみたいな場所に入れておく。
寮の管理人さんが手紙などを入れてくれるシステムだ。
本人しか開ける事の出来ない箱なので誰かに捨てられる心配はない。
ちなみに私の所には男子生徒からのお誘いの手紙が何通か入っていた。
有力な巫女候補なので是非ともお近づきなりたいのだろうが、名前を見ても思い出せない名前にいちいち返事をする暇はない。
まっすぐ風呂場に向かいながら服を脱いでシャワーを浴びる。
少し熱めのお湯を浴びながら冷えた体を温める。
同時にバスタブに水を魔法で満たして、火の魔石に少し魔力を通して水の中へと放り込んだ。
石鹸で身体を綺麗にしている間に水を張ったバスタブから淡い湯気が立ち上って来た。
そっと手を入れて少しかき混ぜる。
まだ気持ち温めだけどまあいいかと、シャワーを止めてバスタブへと身体をそっと沈めた。
その温もりの心地よさにふるりと身体が喜びの悲鳴を上げる。
「ああー、気持ちいいー……」
『お嬢様、まるで私の父のような言葉はおやめになさってください』
ここにはいないけど、屋敷で私の身の回しの世話をする侍女の言葉が脳裏に響く。
「一人でお風呂に入るのなんて別に難しくないのに、何で一人で入れないのかなー?」
お風呂はもちろんその後のローブを着る所から寝るまでの合間のナイトドレスに着替えたりそれから寝間着に着替えたりと貴族の衣類へのこだわりは病気と言っていいほど一日に何度も着替える。
朝起きて寝間着から身支度する間までに着替え、それから朝食の為に着替え、朝食の後に部屋着に着替え、それから家庭教師と勉強するために着替えて、昼食の為に着替えて、食後に着替えて、それから午後の勉強のために着替えて、勉強を終えたら休憩時間の為に着替えて、ディナーの為に着替えて、その後着替えて、お風呂に入って着替えてと言う、我が家は侯爵家と言えども他所の家と比べたらこれでも少ない方だ。
かつて王家に嫁いだ伯爵家の娘がこの回数ほど着替えても王家の侍女にあの娘は着替える服を持ってないみっともない娘だとからかわれて部屋に閉じこもってしまったと言う逸話があるくらい上流階級では服装に気を遣う。外に出かけたら必ず着替えるのは当たり前だし、人と会ったら必ず着替えるのはもちろん、何か食事した後は必ず着替えなくてはいけない。
うっかり見えない所にソースがついていたのを気付かないで居たら笑いものになったと言う数百年前の公女の逸話にそれ以降の世の淑女は食事の後は必ず着替えると言う嗜みを持つようになった。
ほんと馬鹿な話だけど、ここに来るまでのそれが日常だったのだ。
尤も昨日今日と同じ服を着ていたと言うこと自体が驚き体験で、今日は一日自分の匂いが気になっていた。
ミストに浄化魔法が使えれば使ってもいいんだよと気遣われた辺り私の生活も可笑しな貴族の生活にどっぷりと馴染んでいる事に気づいて、苦笑いと意地で浄化魔法を使わずにここに戻るまで耐えきったけど……
「やっぱり幸せ~」
ちゃぽんとバスタブからはみ出た足をお湯の中に引きこみながら指先で魔石を転がして遊ぶ。
「それにしてもミストをチームに入れて正解だったな。
こんなにもあっさりと今回のオリエンテーリングをクリアできたし次に向けての下準備も出来た。
ファロもすごいよね。
ファロが居なかったら絶対飢え死にしちゃうところだったし……」
山道をひょいひょいと軽快に登る姿、マナーに気を取られずに美味しそうに食事をしたり、それよりも初めて会った時の早朝のどこか霧を纏う林の中で薄日が射した場所にたたずむ絵に描いたような美しい立ち姿に頬が染まっていく。
風に揺らめく美しい漆黒の癖のない髪と黒曜石のような鋭利な瞳。
美しいと言うのは恐ろしいと言う物だとその美に囚われてしまいそうになるも、その後の散々な言葉の数々で彼の魅惑の魔法は既に私の中では消え去ってしまった。
ちょっとほっとした分、既に出来上がってしまった彼への淡い恋心はモヤモヤとしながらでも心の内に潜んでいる。
いやいや、彼はダメだ。
非常事態レベルの我が家の財政難の為に私は巫女になって金持ちの人と結婚しなくてはいけないと言う使命を帯びているのだ。
その為に私も無理してこの学校に入ったんだしと涙ぐましい努力を思い浮かべて自分によく頑張ったと涙をこぼす。
優良物件的にはヒューイだけど、ファロと出会わなかったらヒューイなんだろうけど、向こうもそのつもりで私の所に来たはずだしと悶々とする。
ヒューイが最優良物件と言うのは判ってるけど瞼の裏に浮かぶ顔はファロなのだ。
多分ヒューイにも感づかれているはずだし、我が家の財政事情を知られたら……知っているだろうからその選択は出来ない事ぐらいも理解しているだろう。
私だけが幸せになってここまで育ててくれた父と母に苦しい生活なんてさせられない。
ヒューイの家は代々騎士団の隊長になれるぐらいの優秀な家系で、伯爵家と言えども金銭的には侯爵家と何ら変わらない収入、我が家以上位あるのは私の感だけどね。
家より圧倒的に収入の多いのは持ち物一つ見ていればわかる。
是非とも我が家の借金を清算してほしいとまでは言わないけどね。
そして次男と言う立場は女児にしか恵まれなかった我が家には垂涎の物件。
同じ年で、知り合って日は浅い以前のまだ三日目で性癖はちょっと引くけど、まあ、お互い大人になればクリアできる問題だろう。
わたしに耐性ができるって言う事で。
だけど、それでも心をときめかせるのはファロの存在。
向こうは私の事をクラスの仲間の一人ぐらいにしか思ってないのは嫌でも判っちゃうけどね。
でももっと顔を合わせてお話ししたいよー、街ももっと案内したいし、美味しいお菓子屋さんでお茶もいいしーなんかデートっぽくていいよね……
って言うか、私なんか忘れてない?
……
………
…………
「ご飯の約束してたんだ!!!」
ざばりとバスタブから立ち上がって一瞬で魔法で身体と髪を乾かす。
一糸まとわぬ姿のままクローゼットへと飛び込んで……
「あーん!
どの服着て行けばいいのよー!!!」
財政難の癖に侯爵家の見栄ばかりは大切にしていた父と母の下で育て上げられた私は常日頃から舞踏会にでも参加するのと言う服を着せられていた。
学校生活では一人で脱ぎ着するのが大変だろうから執事が王都で一般的に良家子女が纏う服を用意してくれたからいい物だけど……
ミストもクローゼットを見て絶句してたけど、うん。一昨日の街の散策で理解したよ。
我が家が使用人含めて世間知らずだったって事を。
途方にくれたミストがそれでも私の為に、正にこういう時の為にと何着か組み合わせてくれた物がいくつかそのまま掛けられていたから、それを着て適当に髪を纏めて髪飾りを飾る。
うん。
多分一昨日と同じレベルだと思う格好だよねとそのまま部屋を飛び出して待ち合わせの食堂へと向かった。
そこにはファロとヒューイが既に着席していて、私もお待たせーとファロの隣に座る。
一瞬ヒューイが笑ったのが私がファロを好きな事が完全にばれてると心の中で苦笑いをしてしまうが
「今さ、女の子の準備には時間がかかるって言う話をヒューイとしてたんだ」
「ごめんね!お風呂に入ったらついうとうとしちゃって」
えへへと笑って誤魔化しながら何食べようかなーなんて二人に振るも
「どれだけ遅くなるかヒューイの奴が先に食べながら待っていようかって事になって……」
「え?うそ?!
ひょっとして先に食べちゃったの?!」
「悪いな。こんな良い匂いのする場所で待ってられなかったから軽く食べたつもりだったけど、しっかりと二人分とデザートも食べた後なんだ」
「うそー!ちょっと待ってて!
急いで食べるから!!!」
慌てて席を立とうとすれば爆笑するヒューイと顔を背けて笑うファロに私は顔を青くすればいいのか赤くすればいいのか判らなくて突っ立っていれば
「エクル、とりあえず食事を取ってくるといいさ。
待ってる間に個室を予約して来たからそこでゆっくりと食べよう。
そしてミストが居ないけど、この二日間の反省会をしたい。
紙やペンはファロが用意してくれたから、俺達もお茶ぐらいは飲みたいからお詫びに適当にミストが選んでくれ」
「ま、これで恨みこなしさ。
腹ペコを待たされた恨みと、先に食事をされた恨み、これでおあいこってな」
「ヒューイ、ファロ~……」
ありがとう!待ってて―!
叫びながら食事をミストに教えてもらった通りトレーに乗せて行く。
朝の6時から夜の8時まで食堂は開いていて夜食用に持ち出しも許可してくれるが、それを入れる器は自分で用意しなくてはいけないし、部屋まで運ぶのはセルフサービスと言う、食堂から遠い私の部屋ではこのシステムは嫌がらせにも近い。
もっとも、ミストが料理を教えてくれると言うのでそれも楽しみだけどね。
バイキング方式と言っても既に盛り付けはしてある。
食べ過ぎないように好きな物しか食べないようにと言う処置と言うか、生まれだけはいいお馬鹿な貴族が料理をこねくり回してダメにしない為の対策に文句は一切言わせてもらえない。
と言うか、この食堂の人達は何故かやたらと筋肉質なオネエサマが幅を利かせている。
ミストが言うには食べ物を雑に扱う貴族対策で、何と野菜を作ったり、動物性たんぱくも狩って来たりするこの寮出身でギルドを引退した凄腕の自衛隊だと言う……
「あらーエクルちゃん。
男の子を二人も待たすなんて隅に置けないわ~」
「し・か・も、三人で個室何てオネエさん達心配だわ~」
「ええと、大丈夫です。
そう言った関係でもないし、一応今日の反省会が主な理由だから……」
「聞いた?!反省会ですって!」
「なんですって?!どんな反省会ですの?!」
「私の鞭が必要なら呼ぶのよ!」
「ロープの使い方なら私自信があるからぜひお呼び立てしてね!」
「あまーい顔のヒュアラン君の悶える顔も良いし!」
「ファロード君のちょっと鋭い視線がうるうるする様を想像するだけで!!!」
「キャー!!!」
可愛らしいフリルの袖から見えるこんもりと盛り上がる筋肉の腕と、本来ならはしたないと言わなくてはいけないぐらいの短い丈のスコートから見える筋肉の標本のような見事な足を見せつけながらドスの効いた悲鳴のおニイ……もとい、オネエサマ方の迫力から速攻で逃げた。
考える前に足が勝手に動くって初めての体験をこんな所でするとは思わなかった……
道理で食堂の受け取り付近には誰もいないと思ったらそれが理由かと納得しつつ、苦笑まみれの二人は私を案内する様に個室へと案内してくれた。
柔らかなクリーム色の部屋に大きな窓にはゆったりとしたドレープのカーテン。
そして大きなダイニングテーブルは椅子の数から最大8人までが収納できるスペースとなっていた。
但し食堂から出入りする扉には大きなガラス窓が付いている。
一応男女共有の場での個室なので安全を兼ねて中が丸見えのガラスの窓と言うよりほとんどガラスの扉と言う対策に私達を一体何なんだと思ってしまう。
そんな予想よりも大きかった個室けど、他は埋まっているからという理由でここになったらしい。
「ちょっと大きすぎるよね」
ぽつんと言う表現が合うようにテーブルの一角に固まってご飯を食べる食器の音だけがまるでマナーの行き届いてない子のように響き渡るも、そのすぐそばでファルがばさばさとテーブルに紙や地図を広げて行く音に私はちょっと救われていた。
苦笑いしながらもヒューイは私が持ってきた紅茶を口へと運びながら
「まずは地図を確認しようか」
ヒューイが印した目印を私達も自分の地図に書き込んでいく。
因みに目印の丸印は去年ミストが付けた目印で、今年私達が見つけた目印は三角になっている。
「植物の成長によって目印は意味をなさなくなる可能性もあるが、ありがたい事に岩や川べりの特徴的な崖だったり、一本だけいかにも目印にするように植えられた木もあるから、それをちゃんとマークできているかも今後のポイントだと思う」
「ポイントになりそうなものは去年のミストがあらかた攻略してくれているけど、実際歩いてみないと判らんぞ。
結構高低差もあるし、俺は気にならない程度だけどヒューイやエクルには結構きつかったんじゃないか?」
「もぐもぐもぐもぐ……ごっくん。
そりゃ、高低差何て庭のスロープか家の階段ぐらいしか知らないしね。
学園入学を目指す事を執事に相談した時にこっそりと抜け出して裏の森で歩いたのが初めてだったわ。
安心して。ちゃんと屋敷の敷地内の庭だから危ない魔物なんていないから」
「いや、屋敷の敷地内に森があるとか変だろ」
「そうか?普通家の裏は森だろ?」
「森の中に住んでいた奴は黙ってろ」
ヒューイの目が半分死んでいるけど気にせずにチキンのソテーを頂く。
ガーリンさんの料理が絶品すぎて物足りないけど、これはこれで美味しいけどね。
何て言うか、見た目はワイルドな料理だけど味付けが繊細なのがくやしい。
あの筋肉マッチョなおニイ……オネエサマ方がこの料理を作ったとなると、庶民の料理の腕は筋肉量に関係があるのかしら……
マッシュポテトを口の中でもごもごと食べている間に考えている合間にファロはヒューイに言われて植物図鑑を作らされていた。
興味があるのかヒューイがあれやこれやと質問するのを丁寧にファロが答えると言う姿は世間知らずの坊っちゃんがやんちゃなおにーさんに悪い事を教えてもらっているようにも見えるが、世間知らずはやんちゃなおにーさんの方で
「なるほど。このモモリの実は乾燥すると半年ほど持つのか。
チェニーの実はジャムにすると渋みとえぐみが抜けて、皮ばっかりのザリアの実は砂糖漬けにすると一年は持つのか……
携帯食向けの植物が生ってるとは、ここで収穫して自分達で用意してもいいって事だろうか……
なるほど、家から仕送りが無い奴らには宝の宝庫だな。
それに知っていれば何れ何かがあった時の知識になる。
ここまで見込んでこの森は作られてきたのか、すごいな」
世間知らずの坊っちゃんは同時にリアリズムだった。
「だけど、モモリの実がなってる所初めて見たよ私」
マッシュポテトをスープで流し込んで言えばヒューイも確かにと頷いて
「俺も初めて見た。
真っ白な果肉なのは知ってはいたが、皮がピンク色だとは知らなかったな」
「なんか産毛みたいなのも生えてたし」
洗って丸かじりをしていたファロを真似て食べてもその皮が気になって結局皮だけはぺっぺさせてもらったけど……
「もっと単純にそう言う植物のあるべき姿から学べって事じゃねーのか?」
何か難しそうな顔をしていたファロだったけど、それこそなるほどと私もヒューイも頷くのだった。
「ま、お互い世間知らずが露見した所で次は魔物図鑑でも作ろうか」
「ああ、それはいいのだが……」
「ファロって絵が下手ね……」
「自慢じゃねえが実は良く言われる」
自信満々気に言った一言に三人そろって
「私少しはましだから絵を描くわ」
「なら文字の方は俺が書こう」
「だったら俺は知識の方を提供するな」
そう言って植物図鑑と魔物図鑑を作ってみた物の、後日ミストに見せたらいつもの少し怯えたような視線を消して、食堂の個室を借り、夕食後から深夜に突入する作業が始まる事をまだ三人には想像もしてなかった。