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ロストソング  作者: 雪那 由多
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自分の行動には責任を持ちましょう。

評価ありがとうございます!

全く気付いてなく何時頃か判らなくてお礼が遅れましたが、これからもよろしくお願いします。

 体は痛くないがレイが肩を貸してくれると言うわざとらしさは一部にはやりすぎだと苦笑を与え、一部からどうしてこんな事にと本気の涙を引き出す効果があった。

 苦笑する顔を隠したマジ顔のシエル先生とフレイ先生に治療の為にとテント内にある椅子に座るように促され、レイに運ばれてそこに座った。

 雨だから既に降ろしていた入口の幕をぴっちりと閉じて


「ファロード君服脱げるかな?服ハサミで切っちゃった方が早いかな?

 治療するけど痛い所ある?」

「服は頑張って脱ぐから着替えないので切らないでください。

 痛みは痛くない方を探す方が難しいな」


 笑い声を零しそうになるシエル先生は口元を引き攣らせながらも懸命にこらえて


「とりあえず消毒以前に魔法で身体とか服とか清潔にだよ『ラセット~!』

 傷口と痛みも魔法でとりあえず塞いで消しちゃえ『ヒーリングライト~!』

 さて、ここまでの治療が終わった段階でどこか痛い所はあるかな?」

「服が全滅です」

「はうー、先生自慢じゃないけどお裁縫は得意じゃないのよ。

 後で去年の忘れ物コーナーから運動着とかもらってきてあげるね」

「ズボンが破れた精神的ダメージがかなり……」

「一体何歳よって言うやんちゃ小僧って言う感じの破れ方だしね」


 そんなのんきなシエル先生の声にフレイ先生はあきれ返ってたけど、レイはこの寸劇の完成度具合によくできた先生だねぇと逆に感心していた。

 魔法の波動でテントの外に居ても使われた魔法が判るから実際にシエル先生は魔法をかけてくれたけど、詠唱破棄のトリガーだけで使える魔法としては中々な物だと思う。

 さすが先生と言う職業に就く人だと感心していれば


「もうお邪魔して大丈夫かの?」


 学園長とトリアがやって来た。

 そしてトリアの後ろには数名のギルドの奴らが居て、一瞬シエル先生の顔が険しくなったのに気が付くもレイはニヤニヤといつもの締まりのない顔をしてるだけ。

 一体何なんだと頭を捻っていれば


「レイ殿と言っていたか、あのウェルキィの使い手は?」

「あー、あいつとはただの酒飲み仲間なので契約どころか使い手でもないし、ただのちょっと融通の利く友達って奴なのでって言うか、あいつ何所よ?」


 今頃思い出したようにテントの中をきょろきょろとしていれば


「生徒達を送り届けてくれた時に攻撃を受けたから反撃に行ってくると言ってこのギルドの者達を捕まえてこちらに連行してくれたのだ。

 君達がいつ戻って来るか判らなかった為に先にこの者達を事情徴収して黒判定を見届けた後、呼び出しがかかったから帰るからレイ殿に伝えてくれと伝言を頼まれたのだが……」

「ありゃ、呼び出しがあったのなら仕方ないか。伝言確かに受け取りました」


 学園長を使っちゃって申し訳ないねと頭を下げた後に


「それよりも本当に済まない事になってしまった。

 ファロードが無事森から帰還してくれたからこうやって謝罪する場が出来たのだが、まさか私のギルドのメンバーがレイへのつまらない嫉妬に駆られてファロードへの嫌がらせをするなんて、一歩間違えれば命に係わる事故を引き起こしてたなんて、侘びても侘びきれない。

 本当にすまない」


 トリアは頭を下げるも、嫌がらせした男達は悪びれた様子もなく


「悪いな。

 上空に魔物が居て魔法をぶっ放してまさかおたくらに当るとは思わなかったんだ。」

「ほら、あんな厚い雲だからどこにいるか判らないだろ?

 魔物にぶっ放したはずなのに当たっちゃうなんてよ災難だったな?」

「でも無事帰ってきてくれてよかったぜ、なぁ兄弟?」

「だな。綺麗な顔に傷も残らなくって安心したぜ兄弟」


 何故か全力のいい笑顔で俺の肩を力任せにバシバシ叩かれるも目は全く笑ってなくってさらに怒りを抱きかかえた状態になっていた。

 トリアが何か言いたそうに口を開きかけたが、それよりも早く学園長が口を開いた。


「所でこの四人のペナルティはどうなっているかの?」


 トリアは開きかけた口を閉ざしてゆっくりと確認をするように


「救援中の学園生への保護と言う任務不履行の罰としての罰金頭金1人当たりの三倍、三ヶ月の任務停止及び依頼のランクを彼らはBランクの所を二段階降格としてDランクからの再開となります」

「トリア、そりゃないよ」

「蓄えはあるけど、きっついぜ」

「なぁ、もうちょっと、せめて一ヶ月にしてくれよ」

「反省はしてるんだからさあ」


 男達は母親に甘えるようにトリアにもうちょっと緩めてくれと言うが


「任務を受けた時の契約書にそう記してあったはずだ。

 もし読み逃しがあればそれはお前達のミスだ。

 全員同じ依頼書と同意書を渡してサインしてある。

 お前達の落ち度に我々が付き合う義理はないし、罰金と三カ月の任務停止及びランクの二段階格下げ、学園とその内容で契約している以上私は一切の譲歩はしない」


 テントの幕から覗く外の景色には同じ制服に身を包むガーリンを筆頭にこんなにもギルドのメンバーっているのかという厳しい視線んの顔ぶれがずらりと並んでいた。


「確かにレイの取り扱いについては黎明の月の新人としてはかなり特別扱いになるかもしれない。

 だがそれを埋めるだけの実績が彼にはあり、私の情報網からかき集めた彼の評価はギルドマスターに十分値する知識と実力を持っている。

 彼がファロードの学園生活の為だけの一時の滞在と引き換えの滞在としても十分に黎明の月のメンバーとしてやっていくだけでも我々には大きすぎる力になる。

 それと引き換えにお前達が今回した事を良く考えろ。

 相手の実力を見誤ったどころか、まったく関係のない子供を巻き込み、それも我々が負うべき救援任務の手伝いと言う中での殺人未遂。

 王都の騎士団に引き渡しても何らおかしくない内容だ」


「だが、ファロード君にはそこをどうか我慢してほしい」


 一人の紳士がいきなり入って来た。

 身なりも立派で、水色の髪を後ろへと撫でつけた風格ある男に何だとレイへと視線を向ければ


「初めましてだファロード君。

 娘のミストローゼが世話になっているようだ。

 今回はモリエールの救援中でとんだ事件に巻き込まれたようで大変申し訳なく思う」

「いやいや、おかしいだろ。

 この状況ならミストの妹が寝てたとは言えトラブルに巻き込まれて親ならもっと怒るべきだと思うんだけど」


 本来ならもっと喚いて学園長や黎明の月への大きな貸しが出来ると喜ぶところじゃないのかと俺でも判る状況に


「学園長とトリア君には既に申し出ているのだが、もうすぐ巫女の選定に入る。

 こんな大切な時期にモリエールの経歴に傷一つも付けられないからな。

 それどころか魔法にかかっていたとは言えそのようなトラブルがあったと言うのにグースカ寝ている娘こそ一番恥じねばならない我が家の問題だ。

 どうかこの事件はこの内輪だけの話しにしてもらいたい」

「そりゃかまわんけど、こんだけ見てる人間がいるんだ。

 人の口に戸は建てられないぜ?」


 そこは俺が関与する所じゃないかと溜息を零すも


「お父様!それは誤解です!

 私は長雨に当って体調が悪くなって起き上がれなかったのです!」


 元気はつらつと言う様に怒鳴り込んできた空気の読めないお嬢さんは片方の頬を赤くして父親を睨み上げていたけど、絶対零度の視線で娘を見る父親は


「話はハイネから聞いている。

 今回の学校の課題もハイネの提案を退けてお前の独断の判断でクリアできず、そのうえギルドの者を雨に打たせて自分は文句ばかりを言っていたそうじゃないか。

 その上救援に来てくれた彼を人殺し呼ばわりしたそうじゃないか」

「当然です!

 あんな汚らわしい魔物に乗るなんておぞましくて今も体が震えます!

 総てハイネが独断で判断したこと!ハイネを私付きの護衛から解任してください!」


 呆れたような視線の父親と、甲高い声でこの狭いテントの中で喚き散らすミスト妹に俺は肩を竦めながら


「これがお嬢様って言う奴なのか?

 汚嬢様の間違いだろ」

「しー、判ってても口に出さないのが大人って言う者よ」


 周囲に丸ぎ声の会話に俺はミスト妹に睨まれるも、シエル先生はテントの端っこでそうだねと頷き、フレイ先生はこんな汚嬢様の担任だと言うのを思い出してか頭を痛そうに支えていた。


「どっちみち主人の言葉に反論するような従者は必要ありません」

 

 ぷいと顔を背けてしまったミスト妹にテントの外ではチラリと見えたハイネの顔色の悪さは雨に打たれただけの様子ではなさそうだ。


「ハイネは私が命じて付けた者だ。お前が判断する事ではない」

「でしたら一歩も部屋から出るなと命じますが学園の生活内の事にお父様でも文句は言わせません。

 授業にも出させないので彼が落第しても、シャトルーズ家の従者が学園を落第する程度と笑われても私には一切関係しませんわ!」

「お前はどれだけ我が儘を言う……」


 あきれ返って真っ赤になる父親なんて気にしないと言う不思議にレイに


「何で父親なのにガツンと言い返さないんだよ?」

「んー、多分前回シャトルーズ家から巫女を出してないから娘達に期待してるんでしょうねぇ。

 代々シャトルーズ家って言うのは歴代巫女を輩出していた家柄だから、それだけ汚名を雪ぎたいのでしょうね?」

「貴族ってのもややこしいんだな」


 そんな物で不名誉になるのか普通と思うがふといい事を閃いた。


「だったら、ハイネの奴をミストの従者にすればいいんじゃね?

 普段の護衛ならハイネぐらいの実力があれば充分だろ」


 ハイネはミスト妹よりも魔力量は少ないが少なくとも剣を持ったり護衛の任務は問題ない。

 それにこんな汚嬢様の我が儘に付き合うくらいならミストの従者の方が幸せだろう。


「って言うか、ミストには従者が居ないんだよな?」


 何てテントからこの中をすがるような目で様子を見ようとしているハイネを見返して言えば


「当然でしょ?

 シャトルーズ家において魔力の無いミストローゼを守る価値なんてなんてないんだから」


 まるで私がシャトルーズ家の宝よと言わんばかりの態度に俺は爆弾を落とす事にした。


「いやいや、ミストの奴なんかこの課題の中で魔法が使えるようになってよ、エクルの奴に神殿に連れて行ってもらうとかいう話になってるぜ?」


 ぽかんと目を点にして口を開けた親子の姿に隣でクククと声を殺して笑うレイは背中を向ける始末。

 出発前に魔力の発現を感じていたシエル先生とフレイ先生は二人して腕を組んでこの言葉にどう応えようか考えていたようだが


「確かにこの課題から帰還したミストローゼには魔力が発現してました。

 一度学校でも改めて調べる必要があると担任と副担任でもある私も提案します」


 シエルが乗ってくれれば、何故か足を踏まれているフレイ先生もうんうんと全力で頷いていた。


「それは本当か?」

「俺に聞くよりも本人に会った方が早いんじゃね?」

「そうだな……」


 それを残しておっさんはそのまま外で待機していた従者に傘をさしてもらいながら娘を探し出して、暫くしたのちに抱きしめていた。


「これでどうやらハイネの留年問題は解決だな」


 おっさんに手招きされて何か話してたと思ったらハイネは片膝をついてミストの手を掬って忠誠を誓っていたようだった。

 戸惑うミストだけど、父親から多分初めて優しくされたのだろう。

 少しだけ嬉しそうな顔をして、それは喜びに満ちて泣いているようでもあった。

 だけど忘れていけない存在がある。

 同じテント内で今すぐにでも俺を視線だけで殺せそうな女がすぐ後ろにいると言う事実に。

 冷や汗を流していれば


「これでミストローゼの留年問題も今年は解決する。

 来年は姉妹仲良く揃って学年に上がれると良いのう」

「私は来年は巫女として神殿へと赴きます!

 この学園には今年いっぱいしか在学しない予定です!」


 学園長にまで怒りをまき散らして二人の従者を呼び寄せて何処かへと行ってしまったミスト妹を見送れば


「所で俺達もう帰っても良い?」

「悪いけどおっさんはまだまだ仕事」


言えば


「だったらわしの方からシャトルーズ侯に伝えよう。

 ファロード君の口止め料としてハイネ君をミストの従者にとの希望があった事を」

「ま、無難だな」

「って言うか、この状況で口止め料になるのか?」

「ファルが言い出したんだからそれでいいんじゃないのよ」

 

 そう言って、後はギルドと学校の契約の事だからみんなの所に合流して寮に戻りますとフレイ先生に伝えてテントを出た。


 相変わらず雨は鬱陶しいぐらいに降っているけど、すぐそこで親子として再構築するには打算的な親子関係だけど、それでも求めていた親からの温もりが手に入ったと言わんばかりのミストの様子にまあいいかと他の家の事なので本人がまた何か言い出すまで見守る事にした。

 





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