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ロストソング  作者: 雪那 由多
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伝説の人

週一更新(希望!)ですが、どうぞよろしくお願いします。

 オリエンテーリングの集合場所にあたるゲイブリーンの森の入り口でクラス単位の班ごとに分かれていた。


「はーい、ちゅーもーくっ!

 みんなサバイバルキットは貰ったかな?

 そして昨日作った魔武器もちゃんと忘れずに持って来たかな?」


 朝からやけにテンションの高いシエル先生が一同を見回して楽しそうな顔を隠さずに副担任としてちゃんと確認している。


「ちなみにフレイ先生は昨晩お持ち帰りしたお仕事のせいで寝不足気味だから、みんな黙って察してあげてね」


 目の下に作った隈と見るからに判る顔色の悪さに誰もが口を閉ざす。


「昨日のおさらいだけどみんな貰ったマップを見て。

 マップにバッテンが書いてあると思うけど、そこがチェックポイントだよ。

 みんなはグループ全員でこのポイントで待機している先生から通過済みスタンプを貰うように。

 期限は明日の正午まで。

 六ヶ所全部回ってこの本部に戻って来たら帰ってもらってOKだから、グループのみんなとペース配分を相談して脱落しないように頑張ってね☆」


 言えばどこからともなくさざめくようなルート確認が聞こえる中


「ちなみに期限時間以内に回りきれば70ポイント。脱落は0ポイント。

 今日中に終われば30ポイントの追加点。ちなみにこれ距離と時間的に無理だから諦めよう。たまに三年生ぐらいだとクリアしちゃうお馬鹿さんはいるけどね☆

 挑戦するのは自由だから頑張れる子は頑張ってみてね☆

 代わりに期限までの1時間ごとに2ポイントの追加点がプラスされて、期限1時間オーバーごとに-2ポイントが加算されていくよ。

 期限過ぎると強制的にギルドの方に回収されるから、その時点で回れてないポイントごとに-10ポイント加算だ。

 さて、みんな怪我には注意するんだよ~」


 行ってらっしゃーいとどこまでも暢気な声で送り出される中フレイ先生がやって来て俺達の顔を見回してミストの所で視線が止まる。


「魔力……発動してるのか?」


 信じられんと言うような視線に


「昨日いろいろありまして、ミストは僕等と何ら変わりなく魔法がたぶん使えるようになったはずです」

「たぶん、はず……という前に、色々とは?」

「一言じゃ言えません」


 ヒューイの言葉に眉間を寄せるもミストの顔をと、その腰に誂えた杖を入れる為の鞘をみて


「大丈夫そうだが……みんなもシャトルーズが魔法に慣れない間は可能な限りカバーするように」


昨日とは違いどこか高圧的な威圧は消えるも……


「なんか酒臭くないか?」


 ファロードがスンスンと鼻を鳴らせばフレイ先生は口元を隠し


「シエルの奴に潰された。と言うか、アイツは俺以上に呑んだのにザルか」


 ふらふらとするのは寝不足ではなく酔い潰されただけ。


「くそー、だからアイツは昔からむかつく」


 と言いながら去っていくも、その言葉に嫌悪は隠れてなくて


「ひょっとしてフレイ先生ってばシエル先生を好きとか?」

「それはありえるな」


 エクルとヒューイは顔を寄せ合って二人が合流して話を始めるのをどこか冷やかすように笑いあっているが……


「なあ、俺達いつ出発するんだ?」

「皆行っちゃいましたね」


 スタートを既に5分を過ぎて取り残された俺達は他のクラスの先生に叱られるようにゲイブリーンの森へと入って行った。





 森はスタートする場所から鬱蒼とするように木々は高く、そして自然のまま手入れがされてないと言わんばかりに横へと広げられた枝によって陽光はさえぎられていた。

 光が届かない為に雑草は少なく、どこか湿ってる地面を踏みしめながら誰かが作った獣道をたどる事にした。


 とりあえずだ。


「今日はポイントを左回りに崖や、坂道の昇りの多い方を優先的に回ろう。

 高い場所から一度この森を眺めてマップ以外からの情報を手に入れるでいいんですよね?」


 ヒューイはミストに確認を取りながらの指示に俺達はコンパスを手にしながら焦らず、ミストの助けを借りて目印になる物を書き込んでいく。

 大岩だったり、特徴のある珍しい木だったり、地図にはない小川だったりと。

 出会って倒した魔物の特徴、遠くから伺うように眺めてくる魔物の縄張り図も書き込んでいればいつの間にか一番最初のポイントに辿り着いた。

 そこにはまだ人の姿はなく……


「おやおや、君達が一番乗りか。

 早速スタンプを押してやろう」


 のんびりと椅子にふんぞり返って本を読んでいた一人の男性が居た。

 その言葉に俺達は通過スタンプを押してもらう。


「他の人達はまだですか?」


 聞けば苦笑しながら


「皆はきっと水場がある方に向かったと思う。そろそろ足も疲れただろうし、休憩するにはぴったりだ」


 だからこっちに一番に来るのは珍しいと言う先生に


「足が痛くなる前にあの崖を攻略したいから。

 水場なら崖の途中に湧水もあるから」


 ミストの言葉に


「さすが二年目になるとこのオリエンテーリングの意味を理解してる。

 君達は幸運を拾ったな」


 言う顔はニヤニヤとしてた。


「私としてはミストローゼが元気そうで何よりだよ」

「そんな、サフラン先生……

 あのね、去年の担任の先生だったの」


 何処か恥ずかしそうに紹介するミストに


「今年はクラスメイトに恵まれたそうじゃないか。シエルとフレイが喜んでたぞ」


 学校中の噂する人物の行く末を心配する者が意外にも多くて驚く半面、サフランと呼ばれた先生も驚きの顔を広げ


「どうやら魔力、扱えるようになったみたいだな。おめでとう」

「ありがとうございます」


 ちょこんと頭を下げるミストにサフラン先生は目を細めて笑みを作り


「さ、オリエンテーリングは始まったばかりだ。頑張りたまえ」


 バイバイと見送られた先生に行ってきますと挨拶をして本日一番の山場になるだろう崖の上のポイントへと足を運ぶ事にした。


「それにしてもやっぱり先生方はミストの魔力をちゃんと見抜いていたな」


 ヒューイの言葉に


「モリエールは姉妹なのに気づいて無い様だったし」


 エクルはどこか苦々しい表情をする。


「そこでだ。ミストがまだ魔法初心者という事もあるし、精霊持ちと言うのも下手にからまれるネタになる。

 ましてや水一属性、昨日初めて聞いた特化と言うのはきっと誰も知らないと思った方がいい」


 言って足を止めたヒューイは三人の顔を見渡して


「この事は俺達の秘密にしよう。ばれるのは時間の問題だろうが。

 そしてミストがまた嫌な思いをするのは目に見えている。

 だがこれからはミストの力を利用したり悪用する者もあらわれるだろうし、何よりも昨日レイさんに行なった忠誠の誓約の口上はあの人数だ。

 隠しきれる事も出来ないだろうし、それでさらに嫌な思いもする事になる」


 険しい視線でミストを睨む


「あんな命を懸けた誓約なんてするものじゃない」


 言えばミストは視線を足元に落とすも


「だけど、魔力を使えないってだけで私には生きる価値がなかったの」


 言いながらゆっくりと足を進めながら山道を登り出す。


「シャトルーズ家は皆も知っての通り代々魔力の高い一族なの。

 宮廷魔導師の長だったり、魔導兵団の隊長だったり、おばあ様だって巫女をやってたらしいの。

 もちろん、そのためにシャトルーズに生まれた子供は皆魔力値の高い人と結婚して子供を残すと言う努力も怠らなかった。

 だから、魔盲が生まれたという事はシャトルーズ家にとって汚点でしかないの。

 小さい頃それが発覚した途端私は物置として使われていた北の古い使用人の小屋で過ごす事になって、人に気づかれないように小屋から出る事も許されずに育ったの。

 妹もそんな状況だから私を家族とも思ってないし、父も自分の子供だと思ってないの。

 特に母は魔盲を生んだ事をなかった事にしたくて、何人もの家庭教師を付けたりして私を一点の非のない人物に、それこそ寝る間も惜しんで私に色々な事を教え込んできたの。

 綺麗な服だってシャトルーズ家に生まれた事は周囲に知れ渡ってるから家名にふさわしい身なりをと言うだけの理由だし、とにかく、魔盲以外の欠点は総て消すように……そう躾けられて過ごしてきたの」


 その言葉からどんな生活かを想像するのも簡単だが、きっと想像以上の事も日常的にあったのは容易く、


「だから、ウィスタリア魔導学園で下宿生活をする事になった時、世界ってどれだけ穏やかなのか、やっと幸せを掴んだの」


 それは日頃ひどい事を言われてもそれ以上にこの穏やかな日常が幸せと言える異常に気付いてないのか、それともそれさえ日常なのか判断に苦しむところだが…


「学校には三年で卒業、卒業できなくても二年の猶予があるけど、放校になったらどこかのお家の後妻になるしか私の役目はないの。

 別の家とのつながりと言う価値もないから、重要じゃないけど繋がっておこうかという相手への贈り物になるくらいなら、私はどんな手を使ってもその思惑には乗らないくらいしか抵抗する手段が思いつかなかった……」

「だから、命を懸けたのか」


 ふー……と、長いため息を吐き出したヒューイは何かを言おうとした言葉を飲み込んで


「それでも俺は言うぞ。命は自分だけの物だと」


 ひたりとミストの視線と重ねて強く言う。


「生きていればいい事もある。それがいつだなんて保証はない」

「だな。実際いいことあっただろ?」


 ファロードが今までの空気ににつかわないあかるい声で笑みを作り


「俺もだがレイに命を救ってもらったんだ。

 いや、拾ってもらったと言うのが正しいな。

 毎日命がけの日々で、人より魔物が多い所で育ったけど、なんだかんだで俺にも、見ての通り友達が出来たしな」


 何処か恥ずかしそうな笑みがどこか眩しくミストは涙をこぼす。


「そう……だね。私にも友達が出来た」


 小さな声にファロードは満足げな笑みを作った後急に真面目な顔をミストに寄せて


「だから、俺は数少ない大切な友達が減るのは全力で阻止するから、ミストもレイに変な事されないように嫌な事には全力で拒否るように」


 あまりの真剣な表情にミストは意味を分からずにいればすぐ横でヒューイが大笑いをした。


「なるほど!養父の幸せより友達の数の方が優先か!

 それいい!俺も全力で協力する!!」


 納得したと言うようにエクルも大きく頷きながら賛成をすれば


「巫女をやればお父さんたちもびっくりなくらいの人達にも出会えるよ!

 素敵な結婚相手だっていくらでも見つかるんだから」


 世界を広げればそれだけ出会いがあるんだよーと言うエクルの言葉に


「結婚だなんて……そんな伝説の人が私にもいるのかな?」


 真剣に悩み込むミストの一言に伝説級の存在となった将来のまだ見ぬ伴侶に誰もが涙をこぼしながら笑い声を響かせた。








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