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転生したら幼女吸血姫でした  作者: たんでん
日常編:第一章
5/5

第5話

「――――覚えてないのか、俺たちのこと……」


その質問は、僕にとって一番答え難いものだった。

覚えていないと言うのは事実ではあるのだが、そう答えるべきか僕は迷っていた。

さっきのやり取りでも、皆とても楽しそうに見えた。

そして、この家族の輪の中には、メル()もいたのだと思ったから。

この輪に入りたいと、思ってしまったから。


だからこそ僕は、嘘を吐き続けたくない。


既にリリーカさんは僕にこの世界の記憶がないことを知っているし、嘘は必ず綻びが出る。

すべて分かっていてやっていること。

自分の為だけの行動。

恐らく彼は傷つくだろう。

この体の年齢(14年間)の分だけ育て、一緒にいたことはほぼ間違いないのだから。


「…………すみません」


やっぱり、僕は弱虫だ。











>第5話・夕食にて、その2<











「そうか…………。いや、済まないな……、分かっていたことではあるんだ。はっきり聞いて漸く受け入れられたよ。私としたことが情けない……」


彼がそう言ったところで、女性が声をあげる。


「それでは、自己紹介何てどうでしょう? メルにとっては私達はまだ知らない人になるわけですし、これから長い付き合いになるでしょうから」


彼女の提案に彼は賛成する。


「ああ、それはいい考えだ。ありがとう、ルリア」


どうやら、彼女の名前はルリアというらしい。

そしてそのまま、ルリアさんから自己紹介が始まった。


「それでは私から始めますね。――――分かっているとは思いますが私の名前はルリア・シュラーツです。血縁関係としては、あなたの母親になりますね。これからよろしくお願いしますね、メル?」

「は、はいっ。よろしくお願いします」


かなり重い雰囲気だったのが、ルリアさんの提案から一気に自己紹介の流れに変わったせいで、少し戸惑ってしまった。

どうやら、夕食前の3人のやり取りを見ても、ルリアさんが会話の流れをコントロールすることに長けているであろうことが分かる。


そして次はあの男性の番だった。


「それじゃあ次は俺だな。まず俺の名前はレイモンド・シュラーツだ。そして――まあ、言わなくても分かると思うが――お前の父親だな。あと一応この城の城主をやっている。今後一から関係を作っていくことになるが、よろしく頼む。それと……さっきは本当にすまなかった。」

「あっ、いや、大丈夫です!もう大丈夫ですから!!」


もう既に一回謝られているのに、これ以上頭を下げられたら僕のほうも申し訳なくなってくる。というか城主がそんなに何度も頭を下げていいのだろうか? 少し心配になってくるが、ともかく、レイモンドさんがいい人だということは分かった。


「あ、あの……そろそろ頭を上げてください、レイモンドさん。本当に、大丈夫ですから」


と、僕の言葉にレイモンドさんはようやく頭を元に戻してくれた。


「あぁ、ありがとう。メル」


しかし何か気になるのか、少し煮え切らない顔をしている。


「『レイモンドさん』?」


と呼び掛けると、少しピクリと体を動かしたが、「いや、何でもない…………」と、また前の表情に戻った。


本当にどうしたのだろう。

少し首を捻って考えてみるが、何も思いつかない。

何か失礼なことをしてしまったのだろうか。


「うふふ。恐らく、『実の娘に他人行儀にされているのがむず痒いが、本人の記憶がない以上仕方がない』とか、思っているんじゃないですか? 多分遠慮することないと思いますけどね」


とルリアさんが言うと、レイモンドさんが図星を突かれたと言わんばかりの顔になった。ドンピシャらしい。


「あー……、メル。その……なんだ……出来ればでいいんだが…………俺のことは名前ではなく……えー……メルの『父親』として呼んで欲しいのだが……いや本当に嫌で無ければでいいんだ…………」


あぁ、なんだ、()()()()()か。


「全然嫌じゃないですよ、『お父様』」


この程度のことで喜んでくれるなら、せめてもとして。


「メル~。じゃあ、私のことも同じように呼んでください~」

「もちろんですよ、『お姉様』」


あぁ、上手く笑えているだろうか。


これで少しは――――――――










メルの代わりに為れただろうか。











▽▲▽▲▽▲▽











その後は気まずい雰囲気も無く、リリーカさん、じゃなくってお姉様と、お父様、お母様と一緒に夕食を食べ終えた。

よく考えてみたら吸血鬼なんだし、夕方に食べる食事が起きたばかりのものになるはずで、そう考えると朝食の様なメニューなのも納得がいく。

お母様からは無理に呼び方変えなくても良いと言われたが、一人だけ名前呼びなのも変だし、お母様と呼ばせて貰う事にした。

夕食中にこの城の大体の構造を教えてもらったので、この後お姉様と一緒に見て回る事になった。

何でもこの世界で有数の大きさの図書館がここには有るらしい。

前世では小説くらいしか読まなかったが、異世界の大きな図書館というだけで興味が湧いてくる。

それに、この世界の文化や歴史も早めに知っておきたいと考えていた。

あの神様(ロリコン)は邪神がどうのこうの言っていたし、ステータスプレートに有った「災禍の子」という称号も、どうにも気になって仕方が無い。


「メル〜? どうしたんですか〜?」

「あっ、いえ、図書館ってどんな感じなのかと……」

「あ~、そうですね~。一言で言うなら本当にきれいなところですよ~」

「きれい、ですか……?」

「詳しくは見てからのお楽しみです~」


そう言ってお姉様は小さなホールのような空間に僕を連れてきた。

見たところ行き止まりで、何もない。


「スコット」

「はい、ここに」

「ひゃっ……!」


突然アンナの声がして、驚いて変な声が出てしまう。

確かに二人だけで歩いていたはずなのに。


「…………?」


いや、そんな「どうされましたか?」みたいな顔をされても……。

本当にいつから居たんだろうか。全く気が付かなかった。


「それでは失礼します」


そう言ってアンナは円形の部屋の中心に進み出ると、何処に持っていたのかナイフを取り出して指の腹に押し当てた。当然ながら皮膚が切れて、そこから血が流れ出す。


「えっ……! ちょっと!」

「ご心配ありません。直ぐに止まりますので」

「そうじゃなくて……! なんで!」


少し声が荒くなってしまう。


「必要なことでしたので」


アンナはそう簡潔に答えてしゃがみ込み、床に血が付いた指を押し当てる。

その瞬間――


部屋の中央、アンナが指を当てた場所から青白く光るラインが走り、部屋全体にまるで蜘蛛の巣のような複雑な模様を描く。

そのラインは炎のようであるが、熱くはなく、むしろ不気味な冷たさを伴って揺らめいている。

そして発光が一際強くなったとき、アンナの澄んだ声が響いた。


「――――我、知を求むる者。我、真を望む者。我、理を欲す者。叩けよ、さらば開かれん」


青白かった光が、白くなり視界を覆う。

一瞬の浮遊感の後目の前に有ったのは、堆く積まれた本の山だった。

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