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転生したら幼女吸血姫でした  作者: たんでん
日常編:第一章
2/5

第2話

 僕は今、とてつもない責め苦を味わっている、などと誰かに説明するわけでもないのにこんなことを考えてしまうほど、今の僕には余裕がない。

 その理由は僕の後ろに立ってやる気を漲らせている女の子――――リリーカさんにある。


「メル~、いい加減大人しくしてくださいね~」

「嫌です。自分の事は自分でやらせてください」


 断固拒否である。この年になってほかの人にやってもらうなど、恥ずかしさで悶え死にそうになる。


「もう5分近くこんな押し問答ですよ~。そろそろ観念してください」

「ならリリーカさんの方こそ諦めてください。髪は絶対洗わせません!」


 ただでさえ一糸纏わぬリリーカさんから、目を逸らし続けるのに追われ、やっと体を洗うという名目で抜け出したと思ったらこれだ。

 しかし、髪を洗われるというまるで子どものような――外見は本当に子どもなのだが――扱いは、思春期の16才男子としてプライドが許さない。

 というわけで、頭を抱えて体を丸め、洗わせるつもりがないことをアピールする。

 しかし――――


「メルがその気なら~、お姉ちゃんにも考えがあるのですよ~」


 そう言うと同時に頭の上に当てていた手が、リリーカさんの華奢な腕からは想像できない怪力で引っ張り上げられた。


「えっ……! ちょっ……」


 やめてください、と言おうとしたところで、口も塞がれた。


「はいは~い。余り意地張ったこといってると…………」


 そこでリリーカさんは言葉を切り、僕の耳元まで顔を近づけると――――

「さっき見せた(·)(·)、着せますよ……?」

「ひっ――――」


 アレはだめだ。アレは恥ずかしいどころではなく、下手したら一生立ち直れない致命傷を負うかもしれない。無理だ、諦めろと言ってくる理性に従って、僕は一切の抵抗を放棄した。











 >第2話·僕とメル<











 結局僕は、あの女の子に抱き締められたまま寝てしまったらしい。次の日の朝、なのだろうか。この部屋には窓が無いことに今気が付いた。

 明かりも枕元にある電気スタンドのようなもの一つで、本来なら全体的に黒い装飾と相まって、殆ど何も見えない筈だ。しかし、何故か部屋の端までくっきりと見ることができる。

 聞きたいことがたくさんあるので女の子を探して辺りを見回すが、どうやら今はここに居ないみたいだ。


 それにしても、まだ頭痛がする。少しではあるものの、最初に目が覚めた時のあの倦怠感は尋常ではなかった。一体この子――――女の子が言うには名前はメルというらしい――――はどうしてここで寝ているのだろうか。何かの病気か、怪我を負ったか。

 そんなこんなで思考を巡らせていると、傍にあった扉が開いて例の女の子が入ってきた。


「メル、気が付いた? 大丈夫?」


 そう心配そうに女の子は聞いてきたので、僕は簡潔に頭痛がまだ少し有ることを伝える。


「そうなの? それなら……」


 そう言って女の子は僕の額に指を当てて、一言、


「《錯覚(コンフュージョン)》」


 と唱えた。

 すると今まで感じていた痛みが嘘のように消え去った。今のはもしかすると魔法だろうか。色々とこの女の子には聞きたいことがあるので、ここらで聞いてしまう事にする。


「ありがとうございます。えっと……、それで聞きたいことがあるんですけど…………」

「もちろん! 何でも聞いてね~」

「えっと……まずここはどこか教えて貰ってもいいですか?」

「はいは~い。ここは〈常闇の城〉の医務室ですよ~。そしてこのお城は、メルが生まれ育った場所でもあるのですが、覚えてませんか?」


 そう聞かれて僕は言葉に詰まってしまう。それは女の子が、本当に悲しそうな、そして何かを諦めた顔をしていたからだった。

 あぁ、僕が嘘を吐けばこの子は救われるのだろうか。一瞬そんな考えが頭を過る。それでも――――


「すみません…………。何も、覚えていないです…………」


 嘘を吐き続けるなんて、僕にはできないから。


「うん……わかった……。そうだよね…………。よしっ!」


 そう言って立ち上がると、吹っ切れたような顔をする。


「覚えていないなら、何度でも覚えて貰うまでですよ~。というわけで改めて自己紹介を。私の名前はリリーカ·シュラーツで、メルのお姉ちゃんでもあるのですよ~。お姉ちゃんとしてどんどん頼ってくださいね~」


「は、はい! これからよろしくお願いします」


 女の子――――リリーカさんは僕の姉になるらしい。それでここは〈常闇の城〉っと。残るは僕自身――メルのことだ。


「リリーカさん。僕の――――メルのことについて教えてください。お願いします!」

「…………」


 そこで黙ってしまうリリーカさん。もう一度お願いする。


「どんなことでもいいですから。僕、自分が誰なのか知りたいんです!」


「……………………。一人称が『僕』なのは、昔から変わらないんですね~。」


「えっ!? ……………えっ、ちょっと…………やめ…………て…………」


 僕がその言葉に驚いていると、リリーカさんが抱き締めてきた。


「大丈夫。メルが誰でも私の妹である事は変わらない、昔も今も、そしてこれからも。あなたがメルである事は私が保証するから…………」


 僕は、メルじゃない…………。でも、今胸の中にある、この安らぐような懐かしい気持ちだけは僕が僕である事を否定していた。











 ▽▲▽▲▽▲▽











 僕はあの後、姿見を見て自分の容姿に驚いたり、リリーカさんが作ってくれた料理を食べ損ねて寝てしまったりした。


 そして次の日(?)。僕は昨日見そびれた自分のステータスプレートを確認する事にした。早速教えて貰った通りにステータスプレートを開く。書かれてあったのは、以下の通り。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 名前:メル·シュラーツ

 性別:女

 年齢:14

 誕生日:聖歴555年5月5日

 種族:吸血鬼

 称号:災禍の子、吸血姫、黒の一族

 状態異常:記憶喪失

 属性魔法:闇属性、火属性

 特殊魔法:空間魔法、解析魔法

 一般特技:魔法詠唱短縮、魔法想像補正、長剣術

 種族特技:血練生成、自動再生、吸血強化、夜目、蝙蝠変化、霧化

  血盟契承

 種族特性:闇属性魔法威力増強、光·水属性魔法耐性低下、

  銀製品耐性低下、魔力増強、体力増強

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ………………。


 ひとまず各々がどんなものか確認しますか。


 とりあえずその文字をタップすると説明が出てきたので一つずつ見ていく。チートっぽかったのは、次の3つ。


 ·空間魔法

 ·血練生成

 ·自動再生


 上から順に、空間を自由に操れる魔法、血液を自由に加工·操作できる特技、魔力が有る限り外傷が自動で癒える特技と、どんな感じかはわからないがかなりチートっぽい。


 それと一番驚いたのは年齢で、この見た目(小さい幼女)で有りながら14歳だと言う。信じられないことにこのままだと合法ロリ一直線である。それだけは何としてでも回避しなければ。この世界のロリコンどもの餌食になるのだけは御免である。


 その他の特技はわりと普通に強い位の特技だった。それでも前の世界で夢にまで見た、魔法の世界である。今更ながら興奮してきた。というわけでこの城の探検にでも出掛けようと思い、ドアを開けたところで、リリーカさんが目の前に立っていた。


「メル~? 病み上がりなのに、どこへ出歩こうとしているんですか~?」

「えっ…………と、み、水でも飲もうかと思いまして…………」

「そんな嘘が通じるとでも、本当に思っているですか~?」

「すみません…………」

「はぁ……、着替えを持って来たので着替えていて下さいね~。お姉ちゃんは水を汲んできます」

「はい…………、分かりました…………」


 リリーカさんは奥のキッチンに入っていった。そういえば医務室にキッチンがあるのもおかしい気がするが、お城の医務室ともなればそれぐらい普通なのかも知れない。

 それじゃあ着替えますか、とリリーカさんが持って来た服を見たところで僕はフリーズした。


 ……………………。


 僕はその服を持ち上げる。スカートの裾が翻る。袖についたレースが揺れる。ピンクのモコモコの生地に白い水玉がアクセントを加える。


 その服は、間違いなく、――――――――子ども用のパジャマだった。


 こんなの着れるかーーーー!! いや、でもこの見た目なら何も問題はない? そんなことはない。男としての矜持はどこへいった、僕。そうだ、こんな服着れるわけないじゃないか。うん。

 と一時的な混乱状態から戻った僕は他の服をお願いしようと振り返ると、こちらをじっと見てニヤニヤしているリリーカさん目が合った。


 からかわれていると感じた途端、恥ずかしさで顔が真っ赤になる。


「おやおや~、どうしたんですか~? そんなに顔を赤くして~」

「ぜ、絶っ対からかってますよね!? リリーカさん!」

「さて、どうでしょう~? それとここにちゃんとした服を置いておきますね~」


 この人絶対わざとやってやがる。といっても悪意が有るわけではないし、一々怒っても仕方ないので我慢する。

 今度はちゃんとした服みたいだし。女物であるのは変わらないが、シンプルな白い薄手の長袖で前の服よりは恥ずかしさはなく、ささっと着替え終わる。


「メル~。着替え終わりましたか~?」


 と、リリーカさんがキッチンから出てきた。


「とりあえずお水です」と水を渡されたのでお礼を言って受けとると、「それとお風呂に行きましょう!」と突然言われ、驚いて水をこぼしそうになる。危なかった。


「い、いきなりどうしたんですか」

「いや~、だってメル3日も寝たきりだったんですよ~。体は毎日拭いていましたけど、そろそろ髪もお手入れしないとボサボサになりますよ~?」


 そう言われては反論出来ない。サラサラの髪を、僕のせいで痛めてしまっては申し訳ないし。


「分かりました。行きましょう、お風呂」




 そしてお風呂であった一悶着は…………恥ずかしいのであまり言いたくない。

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