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第12話

――キーキ、キ、キ、キッ!

――ケーケーケーケエエーッ!


 マルタン王国の森のように不気味な雰囲気がベルナール王国の森のなかにも漂っていた。


「危くないのかしら? オーロラ、今回ばかりは留守番してくれる?」

「危険は大好きだって、なんど言えばわかるの? ワクワクしてくるわ!」

「オーロラは勇気があるな。なにかあったらわたしが守るから安心して……」

「アーサー様! わたしのことも守ってくださいまし!」

「ノエル・トマさん。あなたのことは衛兵が……」

「だめです! 占い師に衛兵は連れていくなと言われましたから! 呪いに関係のあるメンバーだけで行くようにと忠告を受けました! だからオーロラ! 大人しく城で待っていなさい! 足手まといよ!」

「なんですってー! ちょっと! 側室だかなんだかしらないけど……」

「ノエル! オーロラも連れていこう! 彼女はとても優秀だから、呪いを解くヒントを見つけてくれるかもしれない」

「まあ! ミシェルさん、どうもありがとう! そうよね? わたしがいないとかっこつかないわ。それじゃあさっそく、行くわよ! ふくろうさん、よろしくね? レッツゴー!」

「あっ! ちょっと、オーロラ!」


 オーロラが夜空にふくろうを放し駆け出した。

 皆がたいまつを持ち、そのうしろを追いかける。


「もう! オーロラってば! ここは迷路なのよ! あの子ってば、まったくー!」

「リンダ! はぐれるとまずい! 手を繋いで行こう!」

「ルイ……わかったわ」


 わたしたちは手を握りあい、森の奥地へと入っていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「ハアハア……もう、オーロラったら! やっぱりはぐれた!」

「リンダ、ここはどのあたりだろう……。あれ? おかしいな……ここは蛇の地図にない場所だぞ」

「ルイ、その紙を見せて? ほんとうだわ……。どうなってるの? あら? ルビーの指輪が光りはじめたわ!」

「不思議だ……ルビーの光がそこの大きな石に当たっている。石をどかしてみよう。うんせ……」

「あら! なにかあるわよ!」


 ルイが道端の大きな石をどかすと、下から輝く金の鍵が出てきた!

 かがんでそれを拾いあげた。

 金の鍵はキラキラと輝きだし、光線を発しはじめた。


「リンダ、わたしたちの前方を指し示している。もしかしたら正しい道を教えてくれているのかもしれない。行ってみよう!」

「はい!」


 ルイの差し出す手を握り、金の光線をたどりながら再びわたしたちは走りはじめた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇


「アーサー様! わたしの描いた地図にこんな道はないわ!」

「わたし? ノエル、たしかにそうですね。でも、この図を紙の裏から見るとわたしたちのやってきた道筋にピタリと合致しますよ」

「まあ! ほんとう! アーサー様って顔やスタイルだけじゃなくて、頭もいいのね!」

「いやー、それほどでも……! って、ほめてもらうのはうれしいですが……おや? あの箱は……」


 なんと道の前方に小型の宝箱が置かれていた!


「まあ! アーサー様! 宝の箱ですわ!」

「これはすごいな! しかし、鍵がかかっているようだ」

「では、とりあえず持ち帰りましょう! 持ち主がわかったら、お返しすればよろしいですわ」

「そうですね、そうしましょう!」


 ◇ ◇ ◇ ◇


――ホッホー、ホッホー……。


「ハアハア……オーロラは足が速いな……」

「ミシェルさま、それだけじゃございませんわよ? 持久力にも自信がございます! これぐらいの長距離走じゃへこたれませんわ! ほら! あそこにさっきのふくろうが!」


 道の突き当たりに高い木があり、こずえに占い師のふくろうが止まっていた。


「おお、ほんとうだ! おや? 木の下に誰かいるぞ? あっ! オーロラわたしのうしろに! この化け物! なんの用だ!」

「きゃあっ!」


 そこには、人間ぐらいの大きさのふくろうが立っていた!


『これはこれは王と王后……何か困りごとかな?』

「王と王后ですって? ちょっと! 大ふくろうさん! なに勘違いしてるかしらないけど……」

「オーロラ! あれはわたしたちが探していたふくろうの精だ! ここは逆らわずに彼の話を聞こう!」

「えっ? そういえば! わたしとしたことが……ミシェル、わかりました」

「あの……なぜわたしが王だと?」

『その指輪です。王后はガラスの指輪をしているという言い伝えがあるのです』

「ミシェル、ふくろうの言い伝えは間違って伝わってるみたいね。こんなおもちゃの指輪をルビーの指輪と勘違いするなんて!」

「おもちゃ? 結構しただろが! ふくろうだから、ガラスとルビーのちがいがわからないのだろう。ふくろうの精殿! 蛇の模様がカラダに浮き出た女がいるのだが、呪いの解き方を知っておるかな?」

『蛇だと! 蛇は大好物だ!』

「まさか突っついて食べるとか言い出さないわよね? あのー……。その女性を殺さない程度でおねがいします」

『この森のどこかにある宝箱の中にふくろうの羽で出来たマントがある。それを被れば蛇の模様は消えるはずだ』

「おお! それはありがたい! ふくろうの精よ、感謝するぞ! お礼にこの森を、未来永劫保存することを誓う!」

『ありがとう、王よ……さらばじゃ!』


――バサバサバサバサーッ!


 大ふくろうはどこかへ飛んでいってしまった。


――ホッホー、ホッホー……。


 あとに残ったのは占い師のふくろうだけだ。


「すごい! ブラボー! ふくろう万歳! これでリンダの呪いが解けるわ! ルイ王を愛することができる!」

「オーロラ……ルイ王を愛することができるってどういうことだ?」

「実は……リンダはドミニク・トマに愛する人を不幸にする呪いをかけられたの。だからルイ王子のことが好きなのに別れなければならなかったのよ」

「そうだったのか……。だが、呪いはそれだけで終わらないぞ」

「どういうことなの?」

「ドミニク・トマの遺言の最後はこうだ。ベルナール王がその座をドミニク・トマに明け渡すこと。でなければ災いが降りかかる。だからルイのご両親は退かれてノエルが側室になった。ルイはドミニク・トマの遺言に沿い花嫁選びをして結婚したら、すぐに離縁して自分ひとりが呪いを受ける覚悟だった」

「どちらにしてもルイ王は危ないじゃない! だけど、ノエル・トマが側室になる理由がわからないわ」

「ドミニク・トマの子孫だから、少しは呪いが軽減するんじゃないかと我々とベルナール王国との話し合いで決まったんだ」

「だけど、まだ呪いは起きてないんでしょ?」

「いいや……今年に入ってからベルナール王国は天災や事故が相次いでいる。ルイは自分が犠牲になれば国が助かると思っている」

「そうだったの……」


――バサバサバサバサッ!


「あっ! ふくろうが飛び立ったぞ! 出口に向かっているのかもしれない。付いていこう!」

「はい!」


 ◇ ◇ ◇ ◇


「リンダ……完全に迷ったな……」

「ええ……ルイ、どうしましょう」


 金の鍵が示すとおりに来てはみたものの、まったく地図とは関係ない場所に出てしまった。

 そこはなぜか昼間のように明るく、池のある野原の真ん中だった。

 音楽が聞こえてくる。

 あの思い出の曲だ。


「なつかしいな……2人の曲だ……リンダ……いや、ロラ! 踊ろう……」

「ルイ……」


 2人は3年前のようにステップを踏みはじめた。


「あのころは幸せだった……ロラ、君がいたから」

「ルイ……」

「城もいらない。地位も名誉もだ! ただ、君がいればそれだけで幸せなのに……」

「ならばわたくしは、あなたの幸せの部分だけ取りのぞかなければなりません。あなたの前から姿を消します」

「どうしてだ? アーサーに、君が3年前に浮気をしていたと聞いた。ほんとうか? わたしはまったく信じていないが……」

「ルイ……。もしも、もしもよ? この蛇の模様が消えるなら、わたしにかけられたドミニク・トマの呪いも消えるのよね……」

「ああ、そうだよ。あとはドミニク・トマの遺言だけだ」

「それは何? あの遺言には続きがあるのでしょう?」

「わたしが王でなくなることだ。ドミニク・トマにこの城を明け渡す。そうすれば災いは起きないそうだ。今現在、ベルナール王国は数々の不幸に見舞われている。大きな天変地異が起こる前にどうにかしないと……」

「それはだめ! ドミニク・トマがこの国を統治したら、民が不幸になるわ! それだけは止めさせなくては!」

「だからノエルに側室になってもらい、わたしが王に即位した。今回の選定で選ばれた花嫁とは理由を説明してすぐに離縁するつもりだった。だが、思いがけず君が王后になったものだから……」

「そうだったの……では、わたしの蛇の模様が消えてもベルナール王国の災いは消えないのね……。当初の予定どおりわたしは離縁するわ。ノエル・トマに正室になってもらって子供を産んでもらいなさい。現時点ではたぶん、それが最善の方法だわ。ドミニク・トマの遺言どおり花嫁の選定と婚姻は実行されたわ。あとは魔女の血統をベルナール王国に入れれば遺言はまっとうされ、呪いは成就せずにすむわ」

「ロラ……それでは、ぼくの気持ちがおさまらないんだ! 君をもういちど手に入れてしまったからには、手放すことなんて絶対に出来ない! いやだ! 別れるなんて、死にも等しいよ!」

「ルイ……だけど……あなたは王なのよ!」

「そしてロラ、君は王后だ! いいから、踊ろう」

「ルイ……」


 わたしたちはそのままお互いの目を見つめ合い踊り続けた。

 本来ならわたしは、国のため、民のため、そして愛するルイのために、彼を説得しなければいけない立場にある。

 それが王后の務めでもあるはずなのに。

 だが音楽は鳴り止まず、2人の体もクルクルと回り続けた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


――ホッホー、ホッホー……。


「誰ももどってこなーい!」

「オーロラ……君だけでも城にもどって部屋で休め。送っていくよ」

「いやよ! リンダたちが心配だわ! もういちど森の中へ……」

「待って! 待って! 動かないほうがいい! そうだ! わたしの国の話をしてあげよう!」

「ミシェルの国? 南にあるんでしょ? あなたはそこで何を?」

「ノエルが小国を統治していた。わたしはその補佐官だ。いまは弟に任せてある」

「女王の国なの?」

「女王? あ、ああ……こんどオーロラも連れていってあげよう! 南国はフルーツがおいしいぞ!」

「ほんと? 海で泳げる?」

「泳ぐ……? レディがなんつうことを……暑いから泳ごうと思えば1年中泳げるぞ」

「行く行くー! こんど連れてってー!」

「では、両親にあいさつするときに一緒に行きましょう」

「あいさつ? なんだかわからないけど、行くわ! もっと聞かせて! 南の国のことを!」


 ◇ ◇ ◇ ◇


「ハアハア……なかなか出口に着かない……」

「アーサー様、箱が重たいでしょう。そこの石の上で休みましょう」

「そうですね……」

「月が出てきたわ……とてもきれいね……。ロマンチックだわ。アーサー様! 詩に詠んでください! わたくしごと!」

「ええっ! ノエル、いまですかー?」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 いつの間にか音楽が鳴り止み、わたしはルイの胸にもたれながら2人で野原の真ん中に佇んでいた。


「ロラ……もういちどやりなおそう。いちから幸せを目指そう! 恐れていては何も手に入らない。危険は承知だ!」

「危険は承知……オーロラみたいね。たしかに、まだ起きていない不幸を恐がって不幸になるのはバカバカしい気もするわね……」

「そうさ! 呪いの何が恐いかって、それを嫌がるあまり不幸に向かって邁進してしまうことだ。怯えながら生きる生活に幸せはない。不幸にならないように前向きに努力すれば、呪いもいつか呪いを忘れる」

「努力しながら呪いを跳ね返すぐらい明るい生活を送れってことよね?」

『そうだ、決して油断はせずに』

「あっ! おまえは誰だ!」


 いつの間にかわたしたちは暗い森の中にいて、目の前に大きなふくろうが立っていた。


「ルイ! ふくろうの精じゃない? わたしたちが探していた」

「ほんとうだ! あの……あなたに聞きたいことが……」

『答えはもうお仲間に教えておいた』

「まあ! では……蛇の模様は消えるのですね? ふくろうさん! どうもありがとうございました!」

「どうもありがとう、ふくろうの精よ……心より感謝いたします! さあ、ロラ、帰ろう! きっとよい知らせが待っているよ!」

「はい!」


 わたしたちは手に手を取り、森の中の道を駆け出した。

 たいまつはいつの間にか無くなっていたが、月が明るくわたしたちの前を照らしてくれていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「あー! もどってきた! アーサー様! ここよー!」

「ムッ! アーサー様! 箱が重いでしょうから、ゆっくり行きましょう!」

「ノエル……そうですね……」

「オーロラ、あのアーサーが持っている箱は何かな? もしかしてあれにふくろうの上着が入っているのかもしれないよ」

「ほんとうだわ! アーサー様! その箱を見せてくださーい!」


 オーロラとミシェルはアーサーとノエル・トマに走り寄った。


「オーロラ、ミシェル……ふたりとも無事でよかった。箱を開けたくとも、鍵がないんだ。困ったよ。城に帰って……」

「アーサー! オーロラも! みんな無事だったのね!」


 わたしはアーサーたちを見つけいそいでルイと駆け寄った。


「よかった! ルイ王もご一緒ですね。この箱をノエルと見つけましたよ」

「おお! 我らは金の鍵を見つけたぞ! さっそく開けてみよう!」


 ルイがアーサーの持ってきた箱の鍵穴に鍵を差し入れた。


――カチャッ! キイーッ、パカッ!


「おおっ! これは……!」


 その箱の中には、ふくろうの羽で出来たマントが入っていた!


「ルイ! これを王后が着れば呪いは解けるそうだ。ふくろうの精に教えてもらった!」

「ミシェル……君もふくろうの精に会えたのか? わたしたちもだ。では、リンダ! これを……」

「はい……!」


 ルイが上着を掲げてくれた。

 わたしは背中を向け、それに腕を通した。

 すると。


――キラキラキラキラキラーッ!


「わあーっ! まぶしいー!」


 わたしの周りを光が取り囲みはじめた!

 それはキラキラキラキラと真昼のように輝きはじめる!


「ルイ……あたたかいわ、とても……」

「リンダ……」


――キラーアアアアーンッ!


「きゃあっ! まぶしいー!」


 一瞬、目がくらむほどの光線がわたしとわたしの着たマントから発せられた!

 

 ◇ ◇ ◇ ◇


 気がつくとわたしは、ルイの腕の中にいた。


「リンダ! リンダ! しっかり!」

「あっ……! ルイ!」

「リンダ! 大丈夫?」

「オーロラ……」

「からだはどうだ?」

「アーサー……そうだ!」

 

 わたしはルイの腕の中から起き上がると、長い袖をまくってみた。

 そこにあるはずの、蛇の模様はきれいに無くなっていた!


「やった! やったわ、みんな! どうもありがとう! ドミニク・トマの蛇の呪いは抜けたわ!」

「やったな、リンダ! よかった……」


 アーサーが涙を流してよろこんでいる。

 わが従弟。

 わたしにかけられた魔女の呪いに、自分のことのようにずっと心を痛めていた。

 

「リンダ……!」

「オーロラ……」


 オーロラが抱きついて喜んでくれた。

 

「リンダ……いや、ロラ! よかった……!」

「ルイ……」


 ルイがわたしを抱きしめた。

 わたしもホッとしながら彼を抱きしめ返した。

 これからはルイと共に、幸せを模索していこう。

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