新たな学園生活 2
早めの夕食に来た食堂でリシアは先生と食卓を囲んでいた。
「へえ、あの人子爵家の人だったんですか」
先生が婚約破棄を言い出した男の人が誰だったか教えてくれる。
「ああ、小領とはいえ中々栄えている家みたいだね」
希少な植物が採れる土地で小さくても安定した税収がある土地らしい。
カーミラ様も同じ子爵家なので釣り合いも取れているし思い合って結ばれるという珍しくも素晴らしい関係になるようです。
伯爵家の娘であるリシアとは分不相応な婚約だったというかとそうでもない。
愛人の子のリシアなら子爵家は十分すぎる相手と言える、世間的には。
貴族たちからしたら嫡出子でもないリシアに安定した生活を送れるであろう相手を見繕った素晴らしい父親ということになる。
嫌だと言えばリシアの方が恩知らずな娘になってしまう。冗談じゃない。
「伯爵が選んだ相手としては少し中途半端な気がするけれど、何か狙いがあったんだろうね」
確かに父親ならもっとおいしい相手を探して来そうなのに子爵の領地に父親が旨みだと判断する何かがあった、そう思うのが自然だ。
「私の意思を問う必要がないのならもっと直接的に利益になる相手に話をつけるでしょうしね」
例えばどこかのお金を貯め込んでいる貴族の後妻や上の貴族とのつながりを作れそうな相手などは、きっと探せばいる。
そうまでして子爵家と縁を結ぶ理由。
リシアには全く考え付かなかった。
「まあ、それはともかく伯爵が君の所在について何も言ってこないのが不思議かな」
「そうですね」
リシアが家に帰っていないことは知っているだろうに。
「所在さえわかっていればすぐに連れ戻せると考えているんでしょうかね」
学園にリシアの職を解くように言えば済むと思っているのかもしれない。
「何にせよ、静かなことは良いことだよ。 こうして一緒に食事も取れるし」
「ええ」
先生と一緒に食事をするなんて初めてのことだ。
学生のときは生活する棟が違ったので食堂も違った。
先生と過ごしたのは放課後の一時のみ。
こうして一緒に時間を過ごせるのはうれしい。
「結婚したら毎日こういう時間を取れるといいな」
先生の直球な台詞にスプーンを取り落しそうになる。
動揺するリシアを見て先生はうれしそうだった。
「こんなところで何言ってるんですか」
「誰もいないよ?」
先生の瞳が妖しく光る。
「だっ、だからわざわざ早い時間に来たんですか?」
食事には少し早い時間、食堂の職員もリシアたちに食事を提供した後は厨房に下がって姿がない。
よっぽど声を上げなければ誰もリシアたちのことなんて気に留めないだろう。
「うん、君とゆっくりできる時間は限られてるからね」
学期前とはいえ準備があるため暇ではない。
先生は今年から新学年の授業を受け持つため忙しそうだった。
臆面もなくそんな台詞を言われて頬が熱を持って行く。
絶対わざとやってるんだと思ってもそう言ってくれることがうれしくて、顔が勝手に笑みを作る。
リシアが笑ったのを見て先生も満足そうに微笑んだ。