回想 中等部編 4
寮の自室で教科書を開いてテスト範囲の勉強をする。
いい成績を取らないように赤点を取らないようにするラインを教科ごとに見極めるのは、もはやただの作業と化していた。
一人きりの寮室は誰にも気を使わなくて済む。
第二と自室の中だけは自分を隠さなくていいので思う存分予習をすることができた。
二人部屋を一人で使っている理由はリシアと同室になりたがる子がいないから。
伯爵家に取り入りたい人にとっては伯爵家族と不仲であるリシアと仲良くしてもしょうがない。
伯爵家と関わりたくない人にとっては傍に居ると目を付けられるかもしれない危険人物として警戒される。
結果二人部屋に独りということになっていた。
夜の時間を自分の為にだけ使えるのでとても助かっている。
寮に入って本当によかった。
伯爵家では自室にいてもメイドや姉に見られる危険があって先の範囲の勉強はできなかったから。
多少の制限はあるけれど学園では存分に勉強が出来て満足している。
(先生のアレはやり過ぎだとおもうけど)
この前見せてくれた本は貴重で興味がとてもそそられた。
驚愕に叫びたくなったのも確かだけど驚きが消えたら興味の方が勝ってた。
魔法は普通の人間には使えない。
この世界の誰もが魔力を持っているのに、魔法と言われる力を行使できるのは”魔法使い”と言われる人たちだけ。
通説では魔法使いの血統しか魔法を使えないと言われている。
ただあんな本があるからにはそれは完全に正しいと言うわけではなさそう。
先生は何であんな本を持ってきたのか。
後々聞いたら先生の私物だと言っていた。
所持がバレたら先生だって処分を受けるかもしれないのに。
(もしかして私の為…? まさかね…)
秘密を晒すことでリシアに自分の弱点を掴ませた、なんて思うのは都合の良い妄想なのか。
(ああ…、でも、もしそうだとしたら…)
先生にどんな顔をして会えばいいかわからない。
そうまでして約束を守ると言ってくれたのなら、自分はどうすればいいのか。
そもそも先生がわざと本を見せたなんていうのはリシアの想像にすぎない。
けれど、それでも…。
「信じたい……」
言わないと誓ってくれた人。君は悪くないと言って抱きしめてくれた人を信じたい。
心はもう信じたいと叫んでいる。
先生が貸してくれた本を見ながらため息を吐く。
信じる、と一言声に出せたら変われると思うのに。
開いた口から出るのは深い溜息だけだった。