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私の名前を呼ぶ人は(とっても短い婚約破棄 連載版)  作者: 桧山 紗綺
卒業後

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無自覚の痛み 2

 人は触れ合っていると心が癒されるものだ。

 リシアの髪を撫でながら様子を見る。

 後ろを向いているので表情はほとんど見えない。

 わずかに横顔が見えるだけ、それでもリシアが傷ついているのはわかる。

 アルベールの目にはリシアがひび割れ、崩れそうに見えていた。

(これだけの傷にも気づかないなんて…)

 学園外講習の前にはこんな傷はなかった。アルベールがいない間に何かあったのは明白だ。

 おそらく父親がまた訪ねてきたのだろう。

 何を言われたかしれないが、静かな怒りが胸を満たす。

(学園外講習が終わってからと思っていたのが間違いだったな)

 深く傷ついたリシアを見ると後悔が湧き上がる。

 アルベールに見える傷は無数にあるが、一番激しいのは真新しく走るいくつかの筋だ。

 引っ掻かれたような深い傷からひび割れが始まっている。

 小さい物まで入れたら無数の傷を持つリシアだが、とても美しい。

 毅然と前を向いてまっすぐな心のまま努力し続ける姿に魅了される。

 見ているだけで自分の心まで洗われるような気がするほど、アルベールにとっては特別な物だ。

 優しく触れ、言葉を交わすうちにゆっくりとリシアが落ち着いていくのが見えた。

 常時掛けている眼鏡をずらし、リシアを見つめる。

 傷だらけで、脆く崩れそうな彼女。

 けれど、強い意志で自分を守り、進む彼女をとても愛しく思う。

 きらきらと輝いて見えるのは自分の目の錯覚ではなく、彼女が持つ煌き。

 抱き締めて自分のものだけにしたいという気持ちがわずかに胸を突く。

(流石に今はまだ、ね)

 元教え子を校内で堂々と抱きしめられるほど厚顔にはなれない。

 頭を撫でるくらいがせいぜいだ。

 誰も来ないと知っていても万が一があれば傷つくのは自分じゃない。

 きちんとした関係ができるまでは我慢と自分に言い聞かせる。

「リシア」

「はい」

 撫でられる心地よさにか、リシアが少しぼうっとした声で答える。

「会いたかったよ」

「…!」

 態度で示せない分は言葉で表す。

 弾かれたように身を起こしアルベールを見つめるリシアに微笑みかける。

 勇気を得たようにリシアが口を開く。

「わ、私も先生が早く帰ってこないかなって思ってました…」

 頬を染め、淋しかったと口にするリシアを見て、自分の胸に湧き上がった衝動に驚く。

 うれしい。かわいい。抱きしめたい。

 浮かんだ衝動は頭を撫でることで落ち着かせる。

「そう言ってくれてうれしい」

 抱き締められる関係になるまで後少し。

 後少しだけだと言い聞かせて触れたくなる自分を抑えた。

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