新たな動き 3
学園の応接室。
呼び出されたリシアが入るとそこには父親がいた。
いるのはわかっていたけれど、実際に顔を見ると表情が固まったように動かなくなる。
にこりともしない娘にグランヴェル伯爵はつまらなそうに顎で座るように促した。
ソファに腰を下ろすと前置きもなく父親が口を開く。
「多少は利口になったかと思ったのだがな」
いきなりの暴言だったがリシアは無表情に受け止めた。
「戻って来たかと思ったら学園に籠城か。 それを続けられるほど、私の力は小さくはないぞ」
圧力をかけてリシアを連れ出すという脅しか。
「…」
リシアが黙っていると机の上に一枚の髪が置かれる。
見覚えのあるそれはリシアが父親に送った二通目の手紙だった。
「小賢しい真似をしてくれたが、この程度で私がお前の要求を呑むとでも思ったのか」
「別に…、その手紙に大した意味はありませんよ」
内容を見てわかる通り本当に大したことは書いてない。
ただ後ろめたいことのある人間にはそう見えなかっただけで。
リシアが書いたのは数字の羅列。
知らない人が見たら手紙の裏をメモにでも使ったのかと思う程度のものだ。
「お父様には意味のある数字みたいですね」
父親は冷静な顔を崩さないが瞳には怒りが見える。
数字は伯爵家の領地の去年の石高。
ただし実際の、という言葉が付く。
申告されたのはもう少し少ない量だ。
「貴様…」
父親が低い声で唸る。
小娘に脅されるような今の状況は想定していなかったのだろう。
けれど、そこまで怒ることでもない。
「この程度の計算間違いなど、よくある事ではないですか」
計算を間違えました、と言って不足分を収めれば済むことで、大なり小なり貴族たちは皆やっている。
「財務大臣はご友人ですしね」
このくらいのお目溢しくらいはしてくれる仲だろう。
「ご心配なく、これを誰かに話すつもりはありませんから」
「その代わりに何を願うつもりだ」
父の言葉に淡々と返す。
「何も」
「何?」
信じられぬと目を怒らせる。
父親の反応も理解できるが、本当のことだった。
「ただ話がしたいといっても時間を割いてはくれないでしょう?
その為だけですよ、これは」
この程度のネタで父親を脅迫出来るとは思っていない。
「話だと?」
「ええ」
どう話をしたところで父親がリシアを認めることはないだろう。
だから、リシアは勝手に決まった事として話すことにした。
「将来を約束した人が出来ましたのでご報告をしておこうと思っただけです」
「何っ!?」
嫌でもこの人がリシアの父親であるのは変えられない事実だ。
国にもそう届出がされている。
結婚するには父親の許可か放任が必要だった。




