ふたりの時間
休日。わずかに人を減らすその日もリシアは学園に来ていた。
生徒も一部の教師も家に帰ったり街に出たりしている。
リシアも街に出たくないわけではない。
ただ、今は学園の外に出られないだけだった。
「父から音沙汰がないのでそろそろ次の手紙を書きますね」
「ああ、よろしく」
先生の手伝いをしながら話をする。
「学園から出られないのは退屈ではない?」
先生が笑顔を少し曇らせて聞く。
「そんなことありませんよ。 自由に学園内を散策させてもらってますし、…危ないのはわかってますから」
あの婚約破棄からリシアは父親の手の者に掴まることを警戒している。
街に出て、そこで浚われたりしたら家から出られなくなるかもしれない。
既に他の婚約者がいてもおかしくないとすらリシアは思っていた。
相手の手に渡るまで監禁しておくなんてことも平気ですると思う。
それくらい父親とその家族を信用していなかった。
「そこは一緒に逢瀬を楽しみたかったくらい言って欲しいな」
「逢瀬って、今も似たようなものじゃないですか?」
今もふたりきりだ。
違うのは仕事もしているということ。
ちょっと言ってみただけなのに先生はうれしそうだった。
「君がそんなことを言ってくれるとは思わなかったな」
ふふ、と笑う先生は陽の光を浴びてきらきらしている。
比喩じゃなくそう見える。多分魔道具を使って何かしているんだろう。
「先生って色んな魔道具持ってますよね。 作ったんですか?」
この学園の教師なら先生も貴族だと思うけれど、リシアの記憶には無い名前だった。
魔道具は基本的に高価で、学園の一教師がそういくつも所持しているのは多少違和感を感じる。
ただ、簡易な物なら先生くらい知識に通じていれば作れると思う。
「うん? 作った物もあるし、受け継いだ物もあるよ」
答える先生は上機嫌だ。そんなにあっさり答えてくれるとは思わなかった。
「これは?」
手にある指輪を見せて聞く。
「それは家にあった物」
さすがに通信用の魔道具は先生作じゃないか。
「先生の家って変わった物がいっぱいありそうですね」
前に見せてもらった本も私物だと言っていたし、他にも色々ありそうだ。
「そうだねぇ、代々物を溜めこむ癖があるみたいで、雑多に物が置いてあるよ」
楽しそうだけど危ない物もありそう。
「見てみたいです、いつか」
今は学園から出ることも出来ないけれど。
遊びに行ってみたい。
「いくつか今度持って来ようか?」
「それは…」
どこにあるのか、この街から離れてないのか、そう考えが過ると言葉が止まってしまった。
一人にしないでほしいなんておかしな言葉だ。
二人でいた時間の方がずっと少ないのに。
淋しいと思うなんて、不思議だった。
「側にいないと淋しい?」
「…!」
考えていたことを言い当てられて先生の顔を見つめる。
「違う?」
「そんな顔してましたか? 私」
表情を読まれやすい方ではないはずなんだけど。
「そうだったらいいな、っていう願望。 でも、違ってはいないでしょう?」
覗き込まれて呼吸が乱れる。
「…先生は、どうしてそういうことばっかり言うんですか?」
どんどん激しくなる鼓動に息が出来なくなりそうだ。
「何でだと思う?」
先生は笑うばかりで答えてくれない。
「…わかりません」
正直に答えると先生は少しだけ眉根を寄せる。
「わかってほしいな」
わかってほしいと言いながら答えは教えてくれない。
リシアに気が付いてほしいと瞳が訴えている。
「わかりたいです…」
そんな中途半端な答えにも先生は嬉しそうに笑った。




