新学期 3
学園には人が一杯いる。
学生時代はその誰とも関わらずに過ごすことに力を注いでいたけれど、今はその必要がない。
そしてそんな態度を取れない立場だ。
だからこそリシアは最近放課後に襲ってくる小嵐に頭を悩ませていた。
「リシア先輩っ! 今お時間ありますか?!」
教員室に駆け込んできた生徒を見てため息を吐く。
「エマリエさん、ここは何処ですか?」
笑顔で問いかける。
「き、教員室です…」
勢いを削がれた生徒が辛うじて答えた。
「はい、そうです」
それで、と言葉を続ける。
「教員室に入る時は?」
「ノックをして、失礼しますと言ってから入らないといけませんでした」
「そうですよ、気をつけてくださいね」
今はまだ時期ではないけれど、テスト前になると生徒は立ち入り禁止になる。
そこに今みたいに飛び込んで行ったら怒られるだけでは済まないかもしれない。
すみませんでした、と素直に謝る様子は可愛い。
困らされていても邪険にする気になれないのはこういったところを好ましく感じているからかもしれなかった。
「それで、私に用って何ですか?」
想像がついたけれど一応聞く。
「勉強でわからない所があるので教えてくださいっ!」
元気よく答えるエマリエさん。
これが困らされていることだった。
「エマリエさん、私は教師ではないのでそういうことは先生方に聞いた方が良いですよ」
「でも先輩の方がわかりやすいです」
直球の台詞にため息を禁じ得ない。
教員室でそういう言わないでほしい。先生たちは面白くないだろうと思っていると横から助けが入った。
「そう言わずに教えてあげればいいじゃないの」
「メイローズ先生」
「首席卒業者に教わりたいって思うのもおかしなことじゃないし、私たちより近しい先輩の方が聞きやすいこともあるでしょう?」
「いいんでしょうか? 私、ただの臨時職員で、教師じゃないんですけれど」
「難しく考え過ぎよ、先輩として後輩の面倒を見てあげればいいだけ」
そういうのやったことないのでよくわかりません。
「…わかりました。 どちらにしても今日はこの後まだ仕事があるので、無理です」
わかりやすくエマリエさんが肩を落とす。
「週の初めなら大丈夫ですから、また放課後いらしてください」
ちゃんと時間の取れそうな曜日を指定して伝える。
次の機会は来週になってしまうので、週末なら少しだけ時間が取れると言ったけれど辞退された。
週末は自邸に戻って家族と過ごすと言う。
「じゃあ先輩、また来週!!」
ぱっと背を向けて走り出しそうなエマリエさんを呼び止め退出の作法についても注意する。
うるさく思われるかもしれないけれど、必要なことなので仕方ない。
元気な所はとても可愛いけれど、ここが学園でリシアが職員であるから放置できなかった。
頭を下げて元気よく去っていく背中に廊下は走らないと声を掛ける。
溌溂とした少女を見送って教員室に戻るとメイローズ先生が楽しそうに声をかけた。
「ふふ、慕われちゃっていいわねぇ」
「慕われて…、何故彼女があんなに私に近づいてくるのかわかりません」
ずうっと遠巻きにされるか、悪意を向けられていたので彼女の態度には戸惑いばかりだ。
六年も離れるとリシアの家のことも遠い話なのだろうか。
「いいじゃない、教えるのも勉強になるわよ」
「そうですか…、そうですね」
気分を切り替えて頷いたリシアは先生が複雑な顔をしていることには気が付かなかった。




