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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

剣も魔法も要らない素晴らしい国、日本は本日をもちまして終了しました。

作者: 相模

 ファンタジー系のゲームをやる都度思うことがある。

 この日本、ひいてはこの世界がゲームのような世界じゃなくてよかったということだ。

 おそらく、世の青少年たちは一度は剣と魔法の世界に身を投じてみたいと思っていることだろう。かつての俺みたいに。

 まあ、軽い中二病みたいなものだ。あの学校にやってきたテロリストを俺がかっこよく倒すとかいった類いの奴だ。

 けど、誰しもが心の内では分かっているのだ。そんな力はないし、仮にテロリストが現れても教室の隅で怯えるだけだと。

 ゲームの世界にしても同じである。そんな世界があったとしても、英雄物語の中心人物とは程遠い、せいぜい村人Aが関の山だろう。

 彼らは勇者一行が魔王を倒すまでの間、モンスターに襲われる恐怖に怯えているのだ。そこに、今の日本にある精神的自由はない。

 だから、日本が平和でよかった。


 という、話を登校途中、幼馴染みの三葉にした。


「ったく、勇斗は夢がないわね」


 俺の平和崇拝という素晴らしいことこの上ない思想は彼女の心無い一言で一蹴されてしまった。

 平和の何が悪いと言うんだ。ここで引き下がる訳にはいかん。反論せねば。


「はあ? 平和こそが人類永遠の夢でしょ。それとも三葉は魔王と不安に支配された暗いファンタジーの世界がお好みなのか」


 俺は真っ平ごめんだね。そんなとこ好き好んで行きたいって奴はマゾだよ、マゾ。


「そのネガティブな部分にしか目を向けてないところが夢がないっつってんの」


「じゃあ逆に聞くが、世界がファンタジーのメリットって何さ」


「そう聞かれると確かに難しいわね。うーん……モンスターが見られるとか?」


「むしろデメリットじゃ。てか、珍しい動物見たいなら動物園でも行けよ」


 ゲーム中のモンスターよりもよっぽど面白い動物がこの世にはごまんといる。

 バビルサとかいう奴は伸びすぎた自分の牙が頭に刺さって死ぬこともあるんだとよ。


「そうだ、魔法が使える。火とか氷とか出せて便利だよ。移動だってできる」


「魔法が使えなくても火はライターとかコンロとかで出せるし、氷だって冷蔵庫で作れる。移動も魔法程じゃないかもしれないけど新幹線や飛行機でどこにだって数時間で行けるじゃないか」


 近い未来にはリニアモーターで東京から大阪まで三十分ちょっとで行き来できるようになるかもしれない。

 魔法なんかなくたっていいのだ。

 その後も三葉は何とかファンタジー世界の長所を主張したが、その度俺が論破した。

 世の中にそう都合のいい世界があっていいはずないのだ。

 だとすれば、比較的平和という都合のいい国である日本より優れた世界の証明など簡単にできるはずもないのだ。

 全く、俺相手に舌戦とは無駄なことよ。


「ホンっと、勇斗は昔からムカつくんだから。この屁理屈野郎!」


 学校に着くと共に、いよいよ怒った三葉ははしたなくも鼻を鳴らしながら自分の教室へと向かっていった。

 ところで、昔からとか屁理屈とか言ってたけど、論破されて負け惜しみとは哀れな奴だ。

 俺の素晴らしい論説が屁理屈な訳ないじゃないか。

 剣と魔法のファンタジー世界なら斬りかかってるかもしれん。

 本当、平和でよかったよ。


 ***


「平和……じゃない!」


 無事に授業を終えた後、帰宅部の俺は真っ先に帰ろうとした。

 その矢先、上空には暗雲が立ち込め、やがて雲の間から黒いマントを羽織った人間(?)が出現したのである。


「あれは……不審者だ」


 まあ、不審者なら近づかなければいい話だ。

 人口と変人の多い日本なら人が一人宙に浮いているのはさして不思議なことでもないしね。

 とりあえず今俺がやるべきことは、すぐに帰宅してゲームの続きをすることだ。


「今からこの世界はこの魔王が支配した。存分に余を崇めるがよいぞ」


 不審者は町中に響き渡る声で言った。

 とりあえず今俺がやるべきことは、学校に戻って教室の隅で怯えることだろうか。

 いや、あれはいい年したおっさんが魔王ごっこをしているに過ぎないんだ。

 やっぱり早く帰ろう。


 下校中も平和とは無縁の物だった。

 具体的に言えば、頭の三つある野良犬がいたり、犬か猫と見間違うほど巨大なネズミがいたり、頭上で人間のような不可思議な造形をした鳥(?)が飛んでいたり、混沌としていた。

 俺は知らなかった。


「身近にも不思議な動物ってのはいるもんだな」


 見かけない動物たちに感心しながら歩いていると、あることに気がついた。

 何やら後方から走る音が聞こえるのだ。


「やっと、追い付きました!」


 音の主は、これからパーティーにでも行くのか、ドレスを来てめかし込んだ女の子だ。

 しかし、どうにも顔が見たことある。


「てか、三葉じゃねえか!」


 ドレスを着て、頭にはティアラを装着し、脇に鉄鎧を着た兵士を侍らせているが、どうみても顔は三葉である。

 ただ、こうして見ると中々に美人であることに気がついた。

 普段は洒落っ気がないので分からなかった。


「三葉? はて、私はクローバー王国の姫、リーフですけど。それはされおき、あなたが勇者ユート様ですね?」


 幼馴染みがいつの間にか電波少女になってた件。

 どうしましょったら、どうしましょ。

 こいつの言ってることが何一つ分からない。

 俺はいつから勇者になったんだ。

 クローバー王国ってどこだ。リーフって誰だ。後ろの鎧兵士は誰なんだ!

 俺が聞く間もなく、返答すら待たず、自称リーフ姫の三葉が話を続けた。


「勇者ユート様。あなたに世界征服を企む悪の大魔王を倒して欲しいのです。お願いします、あなたが最後の希望なんです」


「いや、倒すって……俺、ただの人間なんだけど」


「これは剣と軍資金、それと魔法武器です」


「ねえ、人の話聞いてる?」


「あとは酒場に行って仲間を探されるといいと思います」


 リーフ姫は日本語が通じないのだろうか。まさか、日本語に聞こえる別言語を話しているとか無いよね。

 あと、剣とか渡されても銃刀法違反で捕まっちゃうんだけど。酒場とかいっても俺未成年なんだけど。しかも、軍資金は五十円なんだけど。

 まあ、そんなこんなはささいなことで、問題は剣、軍資金と共に渡された魔法武器とやらである。

 黒く冷たいそれは、どうみてもアレである。


「これ、魔法武器ってか、……拳銃じゃね?」


 にわかな銃器知識にはニューナンブに見える。警察正式採用の回転拳銃だ。


「魔法武器です。先程蛮族にショクムシツモンなどと訳の分からないことを言われて姦淫の危機に合ったのですが、逆に懲らしめてやりました。こちらは危険なので回収しておいたのです」


「いや……それ、蛮族というか警察……」


 まあ、そりゃ平日の真っ昼間からそんな服装してりゃ職質の一つも受けるか。いやむしろ原因は後ろの鎧っぽいけど。

 大方、姦淫したというのも言いがかりであろう。哀れ、お巡りさん。

 懲らしめたとか言ってたし、まさか殺されてはないよね?


「まあ、それは置いといて」


 置いとくなよ。公務執行妨害だぞ。

 俺の幼馴染みはここまで頭がお花畑ではなかったはずだ。


「早く酒場で仲間探しをしましょう」


「いや、だから俺未成年だって」


 つーか、酒場ってなんだ。居酒屋でも行くのか。

 日本の居酒屋で魔王討伐のパーティーは集まらねーぞ。

 そもそも魔王討伐ってなんだよ。あの宙に浮いてるおっさん倒すの?


 色々文句を言いたいが、有無を言わさず仲間探しのためにリーフ姫に引き回される俺。

 その最中、視界の隅に犬に襲われている人間がめ映ったが気にしないでおこう。

 犬の頭が三つに分かれていることと、襲われている人間の服装がゲーム中の魔法使いみたいな黒のローブと三角帽であることを除けば、まあ人が犬に襲われることなどよくあるだろう。

 ミイラ取りがミイラになるのはごめんだし、見てみぬふりが吉と。


「勇者様! 人がモンスターに襲われています!」


 そう都合よくはいきませんよねー。

 お姫様が今すぐ助けなさいとでも言うように叫んだ。

 で、俺にどうしろと。


「上級モンスターのケルベロスが何故こんなところに……」


 いやいや、ご冗談を。あれは新種の犬でしょ?

 地獄の門番がこんな町中にいるわけ無いじゃないですかー。


「ささ、勇者様。今こそ魔法武器の出番ですよ」


「え、これ拳銃だよね? 外したらまずいよね?」


 外したら多分そこで襲われてるコスプレイヤーは死ぬよね。

 俺はまだ殺人犯にはなりたくない。


「大丈夫です。魔法武器には精霊の加護がついているので、必ず命中します」


 何を訳の分からないことを。

 これ拳銃だよね? ニューナンブだよね? え、違うの?


「俺には無理――」


 ――ガチャリ。

 ……という、金属音は、鉄鎧の兵士が俺の首筋に剣を突き立てている音だった。

 やべえ、刃が付いてる。模造刀なんかでは断じてない。

 殺人犯にはなりたくない。でも、死ぬ気はもっとない。


「すぐに撃たせてもらいまあぁす!」


 俺は死ぬ恐怖と殺人の恐怖に心臓をバクバク鳴らしながら、人生で初めて銃の引き金を引いた。

 弾丸は見事に犬の頭三つをぶち抜いて、脳漿(のうしょう)をぶちまけた。

 うわ、グロっ。キモっ。


「あの! 助けていただきありがとうございます!」


 俺が犬の死骸の有り様に引きながら、吐き気を催していると、さっきまで襲われていた魔法使いの女コスプレイヤーが丁寧にお辞儀してきた。

 おや、近くで見ると中々可愛いではないか。

 髪はセミロングの黒髪で、まだ中学生くらいの幼い顔立ちだが、十分に整っている。

 恰好はとっても痛々しいけど。


「いや、それはいいんだけど。その恰好は何なの? 三葉といい、近くでコスプレパーティーでもやってんの」


「あの、お礼と言ってはなんですが、私もお供させてください。見たところ冒険者さんですよね」


「は? どこが?」


 見たまんま高校の制服姿がどうして冒険者に見えようか。

 あと、人の話聞かないのは流行ってんの? 難聴なの?


「私、クローバー王国出身のノエルって言います。魔法が使えます」


 次から次へと、もう訳分からん。頭痛くなってきた。

 てか、クローバー王国ってアニメの設定かなんかなの? 有名な架空の国名にしては聞いたことないけど。

 だが、これで仲間探しに酒場に行く必要もなくなった訳だ。やっぱ、未成年が酒場はまずいよね。


「さあ、酒場で仲間を探しましょう」


「村人Aかよ!」


 村人A。それはプログラムにより同じセリフを永遠に言わされ続ける呪われた存在なのだ。

 俺の幼馴染が呪われてしまった。今行くべきは酒場じゃなくて教会だな。

 ノエルさんが自己紹介してくれたのに無視して酒場へ行こうとか、姫だかなんだか知らんが完全に舐めきっている。

 俺は常識人だから自己紹介されたら、ちゃんとし返すぞ。


「俺は水瀬勇斗だ。よろしく」


「あ、はいぃ!」


 ノエルの返事は裏返った声によってなされた。

 ノエルは沸騰したように赤くなり、恥ずかしいと言いながら顔を手で覆った。

 可愛いな、おい。

 さあ、俺は自己紹介したぞ。今度はリーフ姫の番だ。


「早く酒場にいきましょう」


 ぶん殴るぞ。

 顔が三葉なだけにムカつき具合が三割増しだ。

 だが実際にはこいつは別人(の設定)だし、殴ったら後ろの鎧に何されるか。

 ここは俺が大人になろう。


「こちらがリーフだ。クローバー王国の姫だとか言ってるがそうなのか? 俺は生粋の日本人だから知らんけど」


 すると、ノエルはひどく動揺した。


「えっ! このお方がリーフ姫!? 私ったらとんだ無礼を……」


 この女、やばい。本気でなりきってる電波さんだ。

 今日は一体どうなってやがるんだ。


「早く酒場に行きましょう」


「うるせえ! 少し黙ってろ!」


 ガチャリ。

 鎧の剣が首筋を掠めた。


「あ、すみませんした」


 ***


 リーフ姫の案内により、酒場に着いた。

 けれど、そこは酒場ではない。


「というか……俺たちの学校じゃねえか!」


 俺は力の限り叫んだ。

 だが、この状況など大したことないと、あの広い空はあざ笑うかのように俺の怒号を吸い込み、かき消した。

 そう、ここが学校であることなど大したことないのだ。

 校庭を新種の動物と呼ぶには苦しい、異形の生物が埋め尽くしていることに比べれば。


「そんな、モンスターがこんな町中まで」


 リーフ姫が呟いた。

 いやいや、さっきから町中でしたよ。町中にケルベロスいましたよ。

 こいつの基準が分からん。言語も見てる世界も違うのか?

 もしかして俺がおかしいの?


「わわっ! ユートさん、どうしましょう! モンスターがいっぱい」


 次にノエルが慌てふためきながら、俺の腕に抱き着いた。あざとい。

 流石にもう現実逃避はできないよなあ。

 まさかとは思ってたけど、日本と異世界が繋がってしまったのか。

 この三葉に激似のリーフ姫と謎のコスプレイヤーであるノエルも異世界の人間だとすれば説明がつく。


 ……そんなの俺は認めねえ!

 平和な日常が剣と魔法の物語に変わってたまるかってんだ。


「決めた……全ての元凶はあの魔王とかいうおっさんに違いねえ。俺の日常をぶっ壊すバカはこの手で全力でぶっ潰す!」


「よく分かりませんがやる気満々ですね! 命の恩人であるユートさんのためなら、私どこまでも協力しますよー!」


 ノエルも張り切っている。

 もし仮に、ノエルが本当に異世界から来た魔法使いなら、利用しない手はない。


「そう? じゃあ、まずはあのモンスターどもを一掃しようか。とりあえず雑魚だけでも退治してくれる?」


 これで真実を確かめる。

 果たして魔法使いか、はたまたただのコスプレイヤーか。


「任せてください。エクスフレア!」


 ノエルが手にした杖を一振りすると、爆炎が校庭を包み込み、周囲のモンスターを丸焦げにしてしまった。ついでに校舎も消し炭にしてしまった。

 え? まずくね?

 ああ、これは夢だな。でなければ人が爆炎を出せる訳ないし、モンスターが校庭にはびこっている訳ないし、今までのことも全部説明がつく。

 よかった。夢なら校舎が消し炭になろうと知ったこっちゃない。


「ユートさん! 私、やりました!」


 そして、校舎を消し炭にした張本人は無邪気に喜んでいる。末恐ろしいわ。

 自分が何をしたのか自覚がないのか?


「勇者様。酒場がこうなってしまった以上仲間探しはできません。私が協力できるのはここまでです。魔王討伐のご健闘お祈りしています」


「ここ酒場じゃねえし! どんだけ身勝手なんだ!」


 協力っていっても、剣と銃と五十円くれただけじゃねえか。

 勝手に人を最後の希望だとか言っときながらなんて恩着せがましいんだ。

 俺の怒りもどこ吹く風で、リーフ姫はどこかへ行ってしまった。


「置いてくなよ……。まあいい、とにかく魔王を倒しに行こうか」


「倒しに行くって、何かあてでもあるんですか」


 尋ねたのは俺がおもいっきりあてにしてたノエルだった。

 魔王はいつの間にか天空に城を構え、その姿を隠している。

 俺の一人であそこまで行く力はない。


「えっと、魔法で空飛んだりとか出来ないの?」


「まさか。魔法はそこまで便利な代物じゃありませんよ。すみません、役に立てなくて」


 ノエルは目に見えて落ち込んだ。

 やっぱり、魔法が便利なんて空想の産物だな。

 現代科学の方がよっぽど魔法だよ。


「いいんだ。人に頼るのはよくないからな。だが、そうなるとどうやってあの城まで行こうか」


「あ、ユートさん。空は飛べませんけど、ワープならできます!」


 は? なにそれ、空飛ぶより便利じゃん。魔法って最高!


 早速俺とノエルはワープ魔法で魔王城の入口までやって来た。

 目の前には巨大な鉄扉が立ち塞がっている。


「さすがに内部までは結界が張られていて行けないみたいです。すみません」


「いや、落ち込むことはないだろ。ワープ移動ができるんだ、すごいじゃないか」


「本当ですか!? お褒めに預かり光栄です!」


 ノエルはピシッと敬礼をする。

 なんか大げさだなあ。

 でもまあ、すごい。

 ゲームの中の勇者といえば、下らない人助けに身を投じたり、謎の見えない壁に行く手を阻まれたり、遠回りに遠回りを重ね、やっとの思いで魔王の元まで辿り着くのだ。

 そんなご都合主義をぶち壊し、一瞬で魔王城へ来てしまうのだから逆に申し訳ない。

 だが、悪いのは全て魔王なのだ。

 今の俺にストーリーの肉付けやかさ増しといった、開発者並びにプレイヤーの都合に付き合っている暇はない。

 俺の使命は一刻も早く魔王をぶっ倒し、今までの平和な日常を取り戻すことなのだから。


「……開けるぞ」


 ノエルはこくんと頷き、俺は鉄扉に手を掛けた。

 重厚な扉を押し開くと、部屋の中央でいかにも高価そうな服を身にまとったおっさんが、でかい玉座に偉そうに腰掛けていた。

 城の内装は横にも縦にも上にも広がっていたが、調度品は魔王とおぼしきおっさんが座ってる玉座だけだ。


 一つ、突っ込みたいことがある。


「魔王城一部屋だけかよ!」


 豪華な外装に反し、内部には二階、三階に続く階段も、左右に無数の扉がある長い廊下もない。

 衝撃――魔王城の間取り、まさかの1R。

 モンスター界に週刊誌があれば大スクープの見出しになりそうである。


「し、仕方なかろう。予算がなかったのだ」


「世知辛いな」


 天下の魔王様も予算不足とは、嫌な時代になったものだ。

 ところで誰がどうやってこんなところに城建てたんだよ。物理法則とかどうした。


「ところで、貴様らは我が魔王城に何の用だ」


「あんたに個人的な恨みがあるのでぶっ潰しに来た」


 俺はポキポキと拳を鳴らす。

 武器に剣と拳銃持ってるからあんま意味ないけどね。


「私はユートさんの(しもべ)です。だからユートさん決定に従うまで」


 ノエルが俺に続く。

 俺は可愛い女の子を僕にした覚えはないけど。お願いしたらご主人様とか呼んでくれるのかなあ。


「ほう、面白い。余を倒すと申すか。ならば余が魔王たる所以、余の恐ろしさを存分に見せてやろう!」


 パァン!


 鉛の弾は魔王の脳天を貫いた。


「この魔王を相手にここまで……敵ながら……天晴れ……」


 魔王はその場に倒れこんだ。

 魔王も一発とは、拳銃ってすごい。


 俺が現代科学の素晴らしさに感動していると、突如として魔王の体が光り出した。


「今度は一体なんだ」


 光の内側から人が出てきた。

 その人物は、なんというか形容に困る、言うなれば勇者の様な風体をしていた。

 あと、顔が俺にそっくりでイケメンである。


「君が、魔王を倒してくれたのか?」


「まあ、そうっすけど」


「そうか……ありがとう。僕は勇者ユート。見ての通り魔王に情けなくも敗れ、封印されていたんだが、最後の力を尽くして抵抗してやったんだ。それがこの大魔法、セカイマゼール」


 勇者ユートって、リーフ姫は俺をこいつだと思ってたのか。

 それにしても大魔法の名前だせーな。

 あと、今の説明から察するに、元凶は魔王じゃなくこいつっぽいな。


「セカイマゼールは僕の世界と異世界を繋げるものだった。つまり、君のいた世界に魔王を打ち倒す希望を託したんだ。無関係の世界を巻き込んですまなかったと思っているが、君は見事魔王を倒してくれた。セカイマゼールは事が終われば壊れたものも、死んだ人も魔法が発生する前の世界に戻るから、あとは個人的に君にお礼をしたい。君は僕に似てるから魔王を倒した誉れは君が受け取れる。僕からのプレゼントはきっと気に入るはずさ。もう一度言うが、本当にありがとう」


 本物の勇者ユートが小声で呪文を唱えると、目の前が暖かい光で覆われていった。


 ***


 目の前が真っ暗だ。

 そうか、俺は寝てたのか。

 ゆっくりと目を開けると、見慣れぬ天井が映り込んだ。


「あっ、やっと起きてくれた。ユートさん、早く着替えてください。リーフ姫が外でお待ちです」


 あれ、俺まだ寝てんのかな。

 目の前の三角帽を被った少女はどっからどうみてもノエルだ。

 それにしてもリーフ姫が待ってるって何?


「昨日は長旅から帰ってお疲れだろうと、姫様が気を利かせて勇者凱旋を今日にしてくれたんですよ」


 ……嫌な予感がする。


「なあ、ノエル。ここってどこ?」


「まだ寝ぼけてるんですか? ユートさんの家じゃないですか」


 違う。俺の部屋の天井は木目調じゃないし、電灯があった。


「そうじゃなくてさ、国的なもっと大きな括りで」


「やっぱり寝ぼけてる。ここはユートさんの故郷、クローバー王国じゃないですか。姫様から聞きましたよ。本当は同郷なのに黙ってるなんて水くさいじゃないですか」


「……。あの野郎!!」


 俺が壁を思い切り殴ると、ヒィッとノエルがあとずさる。


「あ、すまん」


 いや、ノエルは悪くないんだ。

 俺が怒ってるのはあの勇者ユートとかいう奴だ。

 何が礼だ。恩を仇で返しおって。

 俺は日本の平和を享受するため魔王を倒したのだ。

 だが、あいつは俺を自分の代わりにこの国の英雄にしようとしている。

 そう、この剣と魔法がはびこる異世界で!


 嗚呼、魔王を倒して得たのは剣も魔法も要る最悪な国、クローバー王国でした。

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