突然!RPG -MAJIKA-
俺は新しいゲームソフトを手に入れた。
確か、俺が小学生の頃にブームを巻き起こした冒険RPGだ。今回買ったソフトは、そのゲームの番外編だった。あれだけハマッたゲームの番外編だし、きっとおもしろいに違いない!俺は、ソフトを本体に差し込んだ。
「あれ?」
本体が古いだけじゃなく、ソフトも古いからなのか、画面が映らない。新しいゲームといっても、俺にとって初めてプレイするゲームなだけで、実際の発売時期はもうかなり昔の話だ。
「やっぱ昔のだから反応鈍いんかな」
ゲームの差し込み部分に息をフッとかける。ついでに本体の方にも。よし、これで映るだろう。
「あれ・・・まだダメか」
しばらく同じ行動を繰り返す。息を吹いてみたり、綿棒で優しく掃除してみたり。けれど、ゲームは一向に画面に映らない。
「まじか・・・結構いい値したのに!」
―MAJIKA―
どこかでピッ!と音が鳴ると同時に、突然俺の目の前にコマンド入力画面が出現した。
▷冒険を始める
▷冒険はしない
「なんじゃ!?」
突然、自分の目の前の空間に、映し出された映像の画面に驚いたが、俺はとりあえず『冒険を始める』の文字の部分を触ってみた。一体今から何が始まるのか・・・
よくあるゲームなら、まずお城の王様に会いに行ったりするわけだが、テレビの画面は暗いまま。さっき、目の前に突然現れた画面も消えてしまった。
「なんなんだ・・・目の錯覚かな」
ふと、時計を見ると18時50分だった。しまった!19時からバイトだったんだ!バイトまでの空き時間にちょっとだけゲームしようと思ったんだった。
「まじか!やばいな、間に合うかな」
―MAJIKA―
その時だった。またどこかでピッ!と音が鳴り、目の前にまたも画面が現れた。
▷バイトに行く
▷バイトを休む
えっ!?そりゃ、とりあえずバイト行かないと、まずいし。『バイトに行く』を選択し、俺は慌てて家を飛び出した。
玄関を出て、慌ててチャリを漕ぎ出す。
ガタガタガタガタガタガタガタ!!!
「まじか!?なんで空気抜けてるんだよ~~~~」
―MAJIKA―
▷走って行く
▷自転車を修理に出す
▷家に戻る
「えっ・・・この場合は・・・」
とりあえず、バイト行くし!ってなわけで『走っていく』を選択する。
すると、勝手に体が動き始めた。自分でも信じられないぐらいの猛スピードで走っている。
「なに~~~?どういうこと~~~???」
おかげで5分前にはバイト先について、ギリギリ間に合った。しかし、さっきのは一体何だったのか。不思議なことに、あれだけ猛スピードで走ったのに体に疲れが出ていない。
居酒屋のバイトをしながら、俺は考えていた。この不思議な体験って・・・本当にゲームが始まっているってことなのか?でも、昔ハマったゲームとはほど遠いような・・・敵も出てこないしな。
「アキラ君、なにぼーっとしてるの?」
バイト仲間のユミちゃんに声をかけられ、ハッと我に戻る。
「いや、なんもない」
俺はホールに出て出来上がった料理をお客さんのテーブルに運んだ。
しばらくして、離れた場所からユミちゃんの声が聞こえた。
「こ、困ります・・・」
「ねえちゃんーかわいいねー高校生かなー」
「だ、大学生ですけど・・・あっ・・・」
ユミちゃんの困った声が気になり、俺はその場を見に行った。
酔っ払いがドリンクを運んで行ったユミちゃんの腕を掴んで抱き寄せようとしている。
「あのっ離してください・・・」
「んー?聞こえないなー。ねえちゃん新しい子かー?」
酔っ払いは完全に酔っぱらっていて、ユミちゃんをホステスかなんかと勘違いしているようだった。
「まじか・・・勘弁してくれよ・・・」
―MAJIKA―
アキラの前にヨッパライLV5が現れた!
▷ユミを助ける
▷大声を出す
▷逃げる
「え・・・またか・・・」
そもそも相手のレベルが5って、俺はゲーム始めたばかりだから多分レベル1だろ・・・勝ち目があるのか?でも、さっきは不思議な力で早く走れた。ゲームの世界ならなんとかなるかも知れない。俺は『ユミを助ける』の文字を力強くタッチした。
「どうにでもなれ~~~」
どうなるのかわからなかったので半分ヤケクソだったが、またも勝手に体が動き、なんと酔っ払いに向かって水をぶっかけてしまった。
「ひっ!なにしてくれる!?」
酔っ払いが怯んでユミちゃんの腕を離す。その隙に俺はユミちゃんの体をそっと押し、その場を立ち去らせた。
「お客様、かなり酔ってらっしゃるようなのでお水お持ちしました」
「服濡れただろ!さっきのホステス呼べ!」
「お客様、ここは普通の居酒屋ですよ。従業員の体を触るなんてことはおやめください」
俺の言葉に、酔っ払いは正気に戻ったのか
「ちっこんな店二度と来るか!」
と言いながら、そそくさと勘定を済ませ出て行った。
その時、頭の中でピッという音が鳴った。
ヨッパライLV5をこらしめた!
アキラはLV3になった!
「あ、ひそかに続いてたのか」
とりあえず、よくわからないけどLVが上がったらしい。キッチンに戻るとユミちゃんが俺を待っていた。
「アキラ君、ありがとう」
「大丈夫だったか。酔っ払いは困るよな」
普段の俺だったら、お客さんに水をかけることなんて出来なかっただろう。ゲームの力とはいえ、ユミちゃんを助けることが出来て、なんとなく嬉しかった。
バイトが終わって家に帰った俺は、ゲームソフトの取り扱い説明書をくまなく読んでみた。この不思議なゲームの謎を知りたかったし、普段、説明書を読むのが面倒な俺はすぐにゲームを始めてしまう癖があるから、なにか大事なことが書いてあるかも知れないと思ったからだ。
「ん?」
よくよく読むと、かなり薄い文字で何か書いてある。俺は目をこらして薄い文字を読んでみた。
―特別オープニングの仕方―
・ゲーム開始時に合言葉を音声入力すると特別オープニング画面が出ます。特別ゲームデータのプレイ中に合言葉を発することで状況に見合ったゲームが進んでいきます。興味のある方は、ぜひお試し下さい。なお、合言葉は箱に記載してあります。
(注意:合言葉を故意に連発するとゲームが開始しない場合があります。ご了承ください)
「箱にそんなん書いてたっけ・・・?」
見る限り、普通のゲームソフトのパッケージだ。ちなみに、ゲームタイトルは
『魔法使いと時空の鍵』というものだ。
大人気冒険シリーズの、勇者ではなく魔法使いにスポットを当てた番外編だった。俺は、箱をまじまじと見つめていた。
「あっ?」
箱を斜めに傾けてみたら、タイトル部分にうっすらと文字が見えた。タイトルの文字に沿うように、アルファベットが書いてあった。
(MA)魔法使いと(JI)時空の(KA)鍵
MA JI KA・・・まじか!!
俺は全ての謎が解けた。そうだ・・・買ってきた日にゲームが映らなかったことで「まじか」と言った途端、ピッ!という音と共に変な画面が現れたんだった。
その後も「まじか」という言葉を発するたびに画面が見えて、不思議なことが起こったんだ。
そうか、そうだったのか・・・。合言葉はこれだったんだな。
「まじかまじかまじか~」
合言葉を故意に発しても確かに何も起こらなかった。けれど、その後も道を歩いていて車にぶつかりそうになった時とか財布をどこかで落とした時とか、ちょっとピンチな時に発した「まじか」の言葉にはゲームが反応し、俺の目の前に画面が出て、その度にピンチをクリアすることが出来た。
そうして俺はいつのまにかLV31まで達していた。あの酔っ払い以後、敵らしい敵は出てこなかったが、落し物を拾って届けたりとか、テストの点が良かったりとか、ちょっとしたことの積み重ねでもLVが上がることがわかった。
「あ、めちゃ並んでる・・・」
俺は銀行のATMに来ていた。バイト代が入ったので少し引き出して洋服でも買おうと思ったからだ。退屈なのでスマホをいじりながら待っていた。その時だった。
「キャーーーーーーーーーーーーー!!!!」
凄まじい悲鳴が銀行内に響き渡る。
「騒ぐな!騒ぐと撃つぞ!!!!」
ATMコーナーと繋がっている銀行のロビーに、なんと銀行強盗がいる。手には猟銃を持っている。銀行員たちはカウンターの中で身を寄せ合って震えている。
「おとなしく金をこの中に入れろ!!!!」
強盗がカバンをカウンターの中に投げる。ロビーに一塊になっていたお客さんたちが「ひぃっ」と声をあげる。
「お前らも静かにしとけ!騒ぐと撃つぞ!!!!」
それは、ドラマとかで見る銀行強盗の光景だった。
「まじか・・・」
しまった!こんな時に合言葉を発してしまった。
―MAJIKA―
アキラの前にギンコウゴウトウLV80が現れた!
「え、レベル80て・・・」果たして俺に勝ち目があるのか?俺まだレベル31だよ。ボス級に挑戦するのはまだ早いんじゃないのか・・・
▷銀行を救う
▷騒ぐ
▷不思議な踊りを踊る
なんだよ、この3択。騒ぐと撃たれるし、踊ったりしたら目立つだろうが。
「うう・・・俺にやれるか・・・?」
俺は、『銀行を救う』の文字にタッチした。
~突然!RPG ―MAJIKA― (完)~