表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

別れ話2

作者: 武井

キャンドルに下から照らされたその顔は、頬杖をついて呆れたように斜め上の方を見ていた。

「話ってそのことだったの」

相変わらず貴子は僕の方を見ずに、斜め上の方を見ている。僕の背中側には果物カゴの様子が描かれた絵が飾ってあった。貴子の目にはそれが映っているんだろうと思う。僕は小さなバーテーブルの上のグラスを軽く振って、口元にあてた。ロックアイスがだいぶ解けて、ウイスキーの水割りみたいになっている。

「押し黙っちゃって。どういうつもり?」

僕はもともと口数が多い方ではないが、こういう場面ではなおさらだ。何度か喧嘩をして気まずい場面があった時も、こんなふうに詰るような質問の仕方だったのを思い出す。貴子は顔の向きを変えないまま、目だけを僕に投げかける。僕はグラスの縁から目を上げられないまま、答えた。

「少し、退屈して」

ため息の音が聞こえた。テーブルが少しきしむ。頬杖の腕を変えたんだろう。ビートルズのチケット・トゥ・ライドが終わりに差し掛かる。カウンター席では、声の低い壮年の男性がマスターとなにやら談笑している。どうやら常連らしい。

「言葉、足りないよ」冷たい声音だ。「私の何がつまらなかったわけ」

「君がね、」僕は言う。「貴子がなにか僕の気に入らないことをしたとか、そういうんじゃないんだ。逆に僕が浮気心をこじらせてしまったのとも違う。ただ、なんだか、物足りなさを感じてしまって。相手がどうとか、そうではなくて、『付き合う』ということがもしかしたら僕には合わないんじゃないかって、そう思った」

僕はウイスキーに口をつける。小さくなった氷が、ガラスに触れて涼しげな音を立てる。貴子のグラスはもうとうに空になっていた。

「…」

貴子は顔をこちらに向けて、それでも頬杖はそのままで、目を細めて僕を見ながら言う。

「…ホント、あんたって卑怯ね。」ため息が混じっていた。「すぐそうやって、もっともらしい理由をつけて、人を馬鹿にして。結局私には飽きたってことでしょ」

テーブルのキャンドルはだいぶ背が低くなっている。僕は揺れる炎を見つめていた。貴子はそれきり何も言わなかった。店内には知らない洋学が流れていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 読み比べると違いがはっきりしますね。 書き分けられていると思います。
2014/10/14 19:01 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ