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桜の樹の下には桜さんがいました  作者: ミルミル1号
3/3

入学式:無事に式を終えました。

教室では、ほとんどの人は静かに席についていた。喋っているのなんて僕達くらいだ。まぁ、僕は好きで喋ってるわけじゃないんだけど…。


「ハル、お前も紅葉ヶ丘もみじがおか高校に落ちたのか?」


お前、そんなこと大声で聞くなよ。ほら、何人かが恨めしい顔でこっち見てるって。


「いや、僕は雪代ゆきしろ高校に…」

「あぁ、学校に川が流れてるところか。あそこもなかなか難しいからなぁ」


うんうんと神妙に頷く姫路。


紅葉ヶ丘も雪代も県内で1.2を争う公立高校であるが、僕はその一方に見事に落ちた。そこで、滑り止めとして受けていた桜ノ森に入学せざるをえなかったというわけだ。


「そういえば、吉野も雪代に落ちてウチに来たらしい。朝会ったんだけど、アイツは1組だってよ」

「ふーん…」

「ふーん…ってお前、あの吉野だぞ!?あの才色兼備の千桜ちはるちゃんだぞ!!?なんでそんな彼女がこの桜ノ森に…いや嬉しいけどさ」


吉野 千桜は、中学の時から姫路が片思いしている女子だ。昔僕が彼女に綺麗な名前だねと言ったら、「お父さんが、吉野の千本桜からつけてくれたんだって!」と嬉しそうに教えてくれた。彼女の父親は絶対に都々逸どどいつを知らないのだろうな。




その後も一方的に話しかけてくる姫路を適当にあしらっていると、ドアが勢いよく開いた。



ガラッ!!



「お前ら、入学式の日から騒いでいてどうする!!もうすぐ担任の先生がいらっしゃるから、それまで静かに待っとけ!」



ピッシャーン!!



…嵐のような人だ。

騒いでいた僕ら(主に姫路)が悪いのは十分承知であるが、まさか初日からそんなに怒られるとは。


「… ハルごめんな、俺のせいで怒られちまった」


姫路を嫌いになれないのは、多分コイツが素直だからだと思う。


「僕も一緒に話しちゃったからさ、同罪だよ。ほら、後ろに本が置いてあるから、先生くるまで読んで待ってようよ」

「…ありがとなハル。そうだな、ただ待つのも暇だし何か読むか」



そう言って本棚から彼が取ってきたのは『走れメロス』だった。うん、お前にピッタリだ。

僕は無難に司馬遼太郎の『燃えよ剣』を手に取った。土方歳三、かっこいいなぁ。






「皆さん、おはようございます。私はこの1年4組を担任する松田洋平、担当は国語です。この1年間よろしくお願いしますね」


小説家の世界にハマりかけた時に教室に入ってきたのは、温厚そうな30代くらいの男の先生。大福みたいな顔をしている。

大福先生は自己紹介を終えると、これからの流れを説明し始めた。うわ、式の時間長いなー…。眠らないよう気をつけよう。






案の定、僕は式で寝てしまった。大体校長や理事長の話が長いのだ。来賓紹介なんか聞いても全く興味なんてない。

横に座る姫路に肘をつつかれて起こされた時には、教頭による閉会の言葉の真っ最中だった。





「お前もさー…よくあんな場で寝られるよな。まぁ中学ん時にしでかしたことよりはマシだけどな」

「僕の特技は空気を読まないことだからね。昔よりレベルは下がったけど」


無事式が終わり教室へ戻ると、大福先生はこれから保護者会をするので生徒は帰ってもいいと言った。親を待つ場合は昇降口前にある自習室を使ってもいいとのこと。でも自習室では喋っちゃいけないそうなので、僕と姫路は校庭で待つことにした。


「明日は新入生オリエンテーションかぁ。自己紹介したり、学校を見てまわったりするらしいけど…まぁ楽しみだよな」

「そだねー」

「…?どうしたハル、挙動不審だぞ」


僕は無意識に朝出会った女の子を探していたけど、いない。4組では無かったので他クラスなのだろうが、もう帰ったのか、それとも自習室にいるのか…。


「まぁちょっとね。桜が綺麗だなぁ…と思って」

「ん、あぁそうだな。…なぁハル知ってるか?この学校の噂」

「噂?うーん…知らないな」


知ってても多分興味ないし。


「俺も昨日兄貴から聞いたばっかなんだけどな。実は、この学校の桜には…」




「春人ー、保護者会終わったから早く帰りましょう。秋人もう疲れてフニャフニャしてるのよ」

「翔太。今日はお父さんが入学祝いにチーズケーキ買ってきてくれるらしいから、私達も早く帰ろっか」


なんていう素晴らしく間の悪いタイミングなんだいお母さん達。


「えっ、チーズケーキ!?うわマジか早く帰ろうぜ母さん!じゃあなハル、続きはまた明日な!!」

「まだまだお子様ねぇ翔太も。ではまたね、陽子さん。そしてハルちゃんとあっ君も」


姫路母と息子は笑顔を振りまきながら帰っていった。それにしても高校生になってまでハルちゃんは照れくさいよ、おばさん…。


「またショウ君と一緒のクラスなのねぇ。お母さんビックリしちゃった」

「うん。僕も驚いたよ」


二人を見送りながら、僕達は毎年恒例のセリフをつぶやいた。




明日は新入生オリエンテーション。彼女に、僕は会えるだろうか。

都々逸に

「君は吉野の千本桜 色香よけれど きが多い」

という作品があります。


「きが多い」という部分に、「木」と「気」が掛けられているのですが…

千桜は将来、魔性の女になるかもしれませんね。

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