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水底呼声  作者: 宣芳まゆり
番外編
168/227

願い

カーツ村で再会した日の夜,みゆはウィルとともに寝室に入り,今までのことを説明しようとした.

神聖公国のことや王国の滅亡のことや,村長たちの前では口に出せないものが多い.

しかし会話は,スムーズにいかなかった.

理由は明白だ.

ふたりの向き合う姿勢が悪い.

「ウィル.」

みゆはむっとして,恋人をにらみつけた.

「何?」

彼はにこにこしながら問いかける.

そんな風にほほ笑まれると,怒った顔を維持するのが難しい.

だがみゆは,がんばって表情を厳しくした.

「しゃべりづらいのだけど.」

「そう?」

ウィルは首をかしげた.

「ひざから降ろして.」

「嫌.」

にっこりと断る.

最初は,ふたり並んで,ベッドに腰かけていた.

なのに,いつの間にか,みゆはウィルのひざの上にいた.

横向きに抱っこされている.

さらには,すきをついてキスされるので,話しづらいことこの上ない.

みゆが逃げようとしても,腕でがっちりとホールドされる.

「さっきまでの話を聞いていた?」

「聞いていなかった.」

すがすがしい答が返ってきた.

「スミの背が高くなっていたんだっけ?」

が,ある程度は耳をかたむけていたようだ.

「それで,バウス王子とセシリアが来たの?」

右耳から入り,左耳へと抜けていったらしい.

みゆは,銀の髪を持つ美しい少女とは再会していない.

みゆはため息を吐いた.

今夜は,話をするのは無理そうだ.

そもそもみゆ自身,腹を立ててはいない.

一生懸命,怒ろうとしているだけだ.

何とも不毛な戦いである.

いろいろ考えていると,ほおにキスをされる.

恋人の腕から,ほんの一瞬たりとも逃げられない.

さびしかったとか会いたかったとか,言えない気がした.

きっとウィルの方がつらかった.

二年は長すぎる.

ずっとそばにいて,彼が少しずつ大人になるのを見ていたかったのに.

みゆはそっと,ウィルの首に腕を回した.

すると,もっと強く抱きしめ返される.

甘い拘束の中で,彼は耳もとでささやいた.

お願いというには,あまりにもささやかなことを.

けれどみゆは,ほとんどそれをしたことがなかった.

いつも受身で,楽をしていた.

「ウィル,目を閉じて.」

彼のほおに手を伸ばす.

そして自分から,唇を合わせた.

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