2話
久親は水の音がそれはそれは大好きでした。
久親は8歳の無垢な少年です。
そして次期当主でもあるお方です。
お初と久親はいつもの通り屋敷の近くにある川辺を散歩しておりました。
すると突然後ろから大きな物音がしました。
驚いたお初が振り返ると、そこには大木が一つ倒れていたのです。
「・・・・っ!!どうしたのでしょうか」
お初はそれに気を取られて久親から目を離してしまいました。
―――ポチャン
川に何か大きな物が落ちる音が聞こえてきて、お初は我に返りました。
そこに、久親の姿はありませんでした。
「久親様っ!!久親様!!」
いくら叫んでも返事はありません。
「どうかしたのかっ!?」
お初の声を聞き、屋敷からぞろぞろ人が出てきました。
「久親様がっ・・・久親様が・・・」
お初は泣き崩れてしまいました。
「おーい!!川に・・・川に久親様が!!」
川の麓から男の声がしました。屋敷の者です。
慌てて皆が駆け寄ると、背中を上に向け浮かんでいる久親の姿がありました。
「皆、さがれ!!初は屋敷に戻るんだ!!」
屋敷の当主である清継の声にそこにいた皆が動き出しました。
お初をはじめとするほとんどの者は屋敷に戻り、数名の男性が久親の救助に行きました。
そして数時間後。
清継の嫁であり、久親の母であるミツがお初の部屋にいらして、静かに言いました。
「久親は死にました」
お初はそれからずっと泣き続けました。
声が枯れても、夜が更けはじめてもずっと泣いていました。