第一話 『外』へ
夜の闇が部屋の中にまで染み込んで来る。
そんな中、僅かな明かりを前に二人の男女が向かい合っていた。
男は二十代後半ほど、女は二十歳前後と言ったところだろう。
男は女より一段上に座っている。
「長、私の落ち度です。申し訳ございません」
女が男に頭を下げつつ言った。
「この度のことは、そなた一人の責任ではない、しかし…」
男が言った。
「私が、責任を背負わなければならない事でございます」
女はスッと頭を上げ、それでも高いところに居る男を見上げた。
「…そなた一人、か…」
「他に『外』へ出る事の出来る者はおりません。同時に責任を負える者も」
女の目には覚悟の色が見てた。
「…確かに…長老方はどう思われます?この度のこと、この地に生きる全ての者に責任はある。しかし、この者の監督不行きによってこの事態を引き起こしたとも言える」
部屋の明かりは二人しか写していない。
しかし、男は少し声をはり言った。
「確かにその通りじゃ」
「反論のしようもない」
すると、暗闇から幾人かの声が答えた。
「この度のこと、我々長老も責はある」
「しかし、責を負い『外』へ行くことが出来るのは…」
「今この『場』では一人きり」
闇の中に人影が見え始めた。
「『長』たる御主も今は『外』へは出られん」
「行かせてください。必ず責任を果たし帰って参ります」
女は見えてきた人影に向かって言った。
「それしか道はないが…」
「しかし…」
「『外』に出るためには『真名』が必要じゃ」
「出来るのか?魂の端を他人につかまれるぞい」
『外』に出るための制約。
それは重く圧し掛かる。
自分の命を他者に預ける制約。
「構いません。私は行きます」
女は迷い無く言った。
「…その覚悟、我々長老は認めよう」
「後は『長』たる御主に任せよう」
長老達は互いに頷きあい、女の決意を認めた。
「はい…良いのだな。本当に」
男は女と長老達の話を黙って聞き、女の決意と長老達の意見を聞き入れた。
「はい。構いません。私は行きます」
「分かった。ではそのようにしよう」
「ありがとうございます」
女は深々と頭を下げた。
「『日』を選ぶ、暫し待つがよい」
「はい。では、それまでに支度を整えておきます」
「そのようにいたせ」
「はい。では、失礼します」
女は静かに夜の闇の中に消えていった。
「なぜ、この様な事に…」
女が出て行ってしばらくたつと、男がつぶやくように言った。
「平穏を守ってきたこの地、変わり目かもしれんの」
闇の中にある人影が言った。
「長老」
男は人影に顔を向けた。
「我らはただの相談役、そなたはそなたの思うようにするがよい」
「間違いも失敗も我らの『命』で償える範囲ならばな」
どこか淡々とした声が影からかかった。
「そのような事はいたしません」
「まあ、『時』が来れば分かりおる」
「その時まで正しいと思う『道』を進むがよい」
「…はい」
男がそう言うと人影は薄れ消えていった。
男一人がその場に残された。
こんなネタが浮かんできてしまいまして…
まだ、完結してないお話があるのに…