欲しがり妹に婚約者を奪われたので、そのまま譲ってみた~あなたの家のポーションはすべて私が作っていたものですが、忠告はしたのでもう知りません~
★お知らせ★
新作の連載を始めました!
強すぎて魔女認定され婚約破棄された転生令嬢、チートな魔力を活かして辺境でセカンドライフを送る〜え、私が守っていた領地が壊滅しそう?今更そんなこと言われても、絶対に戻りませんから!〜
https://ncode.syosetu.com/n0704mv/
広告下のリンクからも飛べます!
大勢の貴族たちが集まる夜会にて。今日この日、私と婚約者であるクラウス・エーベルハルト様との婚約披露の場となるはずだった。
だが、彼の隣には、私ではなく私の妹が立っていた。
この日のために、私はどうにか上等な化粧道具と、可能な限りの良いドレスを用意していた。なんせ、私の家は貧乏なのだ。
伯爵という爵位は持っているが、いわば没落貴族。私にポーション作りという才能があり、クラウス様の——侯爵家に見いだされてそこで軍部に納めるポーション作りをしながら、そこから発生したお金の仕送りをして成り立っているような家。
だから、私なりに今日この日に賭けていたつもりだった。
なのに。彼の隣には私よりも美しいメイクをして、派手なドレスで着飾った妹であるリーナが立っている。
「お集まりいただいた皆様に、ご報告したいことがある」
クラウス様が、周囲の貴族たちに言葉を向ける。
私との婚約の噂はあったため、一部の貴族たちはこそこそと私を見ながら嘲笑をしている。
「ここでイルゼ・ヴァルトナーとの婚約を破棄し、この美しいリーナと婚約を結ぶことにした!」
イルゼ——私の名前が呼ばれる。
周囲の貴族たちが拍手をする。ここまでの貴族たちが集まった場なのだから、確定事項なのだろう。
リーナ……彼女は昔からそうだった。私の持っているものは、全部自分のものにしようとしてきた。
お菓子や玩具は当然として、私の友人すらも奪ったことがあった。しかも、私への悪評を垂れ流す形で。仲が良かった人たちも、いつの間にかリーナの隣に立っていて、私を見るなりこそこそと内緒話をしていた。
ここまでのことをしているのに家族は無関心。私が意見を申し立てれば、いつだってリーナのことを両親は庇っていた。
それは、私が稼いだお金を家に送るようになっても変わらない。
多分、リーナが着ているドレスは私が仕送りしていたお金で買ったものだろう。それに化粧道具だってそうだろう。
なんせ、ここまで良いものは到底今の実家の財力では買えないものだ。
「クラウス様。私にはこのような知らせは届いておりません」
「当たり前だ。なんでわざわざお前に知らせる必要があるんだ?」
そう言って、彼はリーナを抱き寄せる。
「そうですわお姉さま! クラウス様はもう、お姉さまではなくわたくしにぞっこんですのよ?」
変わらない。相変わらず私を明らかに小馬鹿にしたような眼差し。
もうリーナからこのような目を向けられるのは慣れてしまった。
リーナが彼と婚約を結ぶのはいいことにしよう。
それよりも確認するべきことがある。
「リーナと婚約を結ぶということは、私の居場所はもうないということですか? 失礼ですが、リーナにポーション作りの業務を任せるというのは、かなり厳しいことかと思いますが」
なんせ、ポーション作りというのは技術と経験がいる。一朝一夕で身につくようなものではない。
リーナはというと、ポーション作りなんてやったことがなかった。いつもソファでゴロゴロしながら、お菓子を食べるような毎日を送っていた人物だ。
勉強もまともにできない。そもそも本を読むことすら危ういだろう。
「宮廷の軍部に納めるポーションはかなり品質のいるものです。陛下も私の腕を信頼し任せてくれていたと理解しています。ですがリーナは……」
ちらりとクラウス様の表情を見る。彼は、心底面倒くさそうにしながらこちらを睨めつけていた。
「誰にでもできることを、なにを長々と喋っているんだ?」
「そうそう! お姉さまにできることは、私にもできますわ。それも、お姉さまよりも上手く」
以前からクラウス様は私の仕事を誰にでもできると思っている節はあったが、まさかここまでのものとは。
呆れるというか、言葉が出てこない。
そもそも侯爵家は宮廷に納めるポーションを作ることを生業にして成り上がった貴族だ。だが、その技術者がいなくなったため急遽私が彼と婚約を結び、その業務を引き継いだ。
だから、それがどういうことを意味するかは考えなくても分かることのはずなのに。
「……では。必要最低限、リーナに引き継ぎをさせてください。大丈夫だと仰っていますが、到底厳しいように思えますので」
リーナや実家が心配だとか、そんなものではない。私はプライドを持ってこの仕事をやっていた。だから最低限のことはしておきたいと思ったのだ。
「必要ない! もしやお前……今更寄りを戻してくれと懇願しているのか?」
寄りを戻せ、か。もしそんなことを言えば、周囲は盛り上がるだろう。
だが、そんなことは一切思っていない。
なんなら安堵しているところもある。この婚約破棄を受け入れれば、エーベルハルト侯爵家からも、実家からも縁を切ることができるからだ。
「いえ。であれば、私はこれで。どうぞお幸せに」
忠告はした。これ以上の話は無駄だろう。
くるりと踵を返し、私は夜会会場をあとにする。その間、ちらりと後方を一瞥したが、クラウス様とリーナは心底私の方を見て笑っていた。
そして、キスまでもしていた。
今度は婚約者までも妹に奪われてしまった。別にどうでもいいが。
◆
「リーナが婚約したから、もう仕送りはしなくていいぞ。まあ送る金もないだろうがな」
実家に荷物を取りに行くと、言われた言葉だ。やはり今回の婚約破棄は、家族も一枚噛んでいたと考えて良いだろう。
私が働いたお金で生活をしていたのに、私への礼儀はない。なんなら、可愛げのない私よりも愛しているリーナを嫡男と婚約させることができて、家族もご満悦といったところか。
「そうですか。では、もう私のことは自由にさせてください」
「構わん構わん! なあ、母さん?」
「そうね。あなたはもう自由になさい」
両親はそう言う。それなら話は早い。
向こうから自由にしろと言っているのだから、文句は何もないだろう。
私は家族だった人たちと会話を済ませ、自室に向かう。自分の荷物をまとめる前に、私は机の引き出しに手を伸ばす。
そこには一通の手紙があった。手に取って、中身を確認する。
『お前の錬金術をうちで生かさないか?』というアルノルト・ヴィンター公爵様からの手紙である。
この国の北方を治めている領主で、宮廷軍とは別で、領地境界を守るための自軍を保有しているかなり地位と権力を持つお家の方だ。
私がクラウス様との婚約を結ぶ前、私の錬金術の噂を聞いたアルノルト様からスカウトされていた。だけど、その時にはクラウス様との婚約の話は上がっていて、返事をすることもできずにいたわけだ。
もう自分には縛られているものはない。
今更相手にされるかも分からないが、彼に連絡をしてみることにした。
◆
想定外だったのは、すぐに返事が来たことだった。私が魔導列車を乗り継ぎ、ヴィンター公爵領内の駅に降りると、わざわざ彼はその足で出迎えてくれた。
「お前が来るのをずっと待っていた。夜会での婚約破棄は知っている。災難だったな」
北方の雪のように美しい白銀の髪に、整った顔立ち。青く澄んだ瞳が私を見据えるが、それは冷ややかなものでもなく、優しく気高いものだった。
「ご存じでしたか」
「当たり前だ。君ほどの実力がありながら、それを理解しようともせずに不貞を働き、挙げ句の果てに婚約破棄をして追い出すとは。そのような愚かな選択をできる人間はそうそういない」
そう言いながら、アルノルト様は邸宅へと歩き出す。
「イルゼ。すまないがやってもらう仕事がある。君を信頼しての頼みだ」
久々の連絡だったというのに、スムーズに彼は私の名前を呼ぶ。どうやらハッキリと覚えてくれていたようだった。
私も彼に倣って、一歩後ろを歩く。
「俺が保有する北方軍は、昔から致命的な弱点がある。それは良質なポーションを調達することが物理的に不可能なことだ」
「ポーション自体、そもそもが薬品なので寒さにも熱さにも弱い。特にこの地だと王都から離れていることもあり、品質を維持したまま移送も困難でほとんど現地調達をするしかない……といったところでしょうか」
「さすがだ。そのせいで、戦地で負傷をすれば命はないようなものだ」
現状はある程度把握している。私自身が王都の商人にポーションを納める際に、各地の情報が耳に入ってきたのだ。
もちろん北方に運ぶためのポーションを作ろうと働きかけようとはしたが、やはりそれを作るのにも予算がいる。
クラウス様は宮廷に納めるもので十分だと言って、許可は下りなかった。予算さえ下りれば作れるものではあり、もし一度作れてしまえば独占的に北方軍へも売れる。
だから今よりも稼ぎは多くなるなんて説明もしたが、それは通用しなかった。目先の利益しか見ていなかったのだから当然である。
「任せてください。この地で取れる雪華草という薬草と、仕入れることができる薬品で寒地でも品質を維持できるポーションが作れるはずです。すぐに用意できますか?」
私が言うと、アルノルトは少し驚いた様子で眉を上げる。
「雪華草と言えば、数は多いが加工にかなりの技術がいる。現実的にポーションへ利用するのは不可能という話があるが?」
「私であれば可能です。何度かその薬草で作ったことがありますので」
「……分かった。すぐに用意しよう」
その後、私は邸宅内の調合場へと案内された。釜やその他器具をしっかりと確認していく。普段使っているものと差異があれば都度対応しようと思っていたが、そこまでは変わりはない。
器具の質もいい。それに、常備されている薬品もだ。北方で入手できるものの中でもかなり上位の品だろう。
少しすると、使用人たちがせっせと雪華草を運んできた。
私は薬草を手に取り匂いを嗅ぐ。甘い匂いだ。
雪華草は品質の良さが匂いで分かる。枯れかけの養分のないものだと、ただの青臭い草の匂いしかしないのだ。
だが、質が良ければ甘い匂いを発する不思議な薬草である。
「本当に……これで作れるのでしょうか?」
運んできた使用人が不思議そうに尋ねてくる。
「大丈夫です。ありがとうございます、運んできてくださって」
「とんでもございません! では、お願いいたします!」
そう言って、使用人たちはせっせと邪魔をしないようにと外へと出て行く。
さて。ここからが腕の見せ所だ。
雪華草は葉の部分しか使用しない。これを一枚一枚、ちぎっていく。
軽く葉を乾かし、乳鉢にちぎった葉を入れ、乳棒でしっかりとすりつぶす。
その後、回復を促し菌に強くするための薬品などを混ぜ合わせたもので満たした釜に、すりつぶした葉を流し込む。
あとは熱管理をしながら、しっかりと混ぜ合わせる。
その後冷ましたあと、ポーション用の小瓶に入れる。
「途中から眺めていたが、いい手際だった。俺が見ていたことにも気がつかないほど集中していたな」
振り返るとアルノルト様がいた。どうも興味深そうに眺めていたようだった。
「すぐに兵士に試してみよう」
「いえ。まだダメです」
「完成ではないのか?」
「まだ薬効も試していないのに、兵士に使っては何かあった時に困ります」
そう言って、私は近くにあった素材を切るようなナイフを手に取る。袖をめくり、私はナイフで軽く腕を切った。
「なっ!? 何をしている!?」
アルノルト様が目を見開いて驚く。すぐに腕を掴んで止血しようとしてきた。
「本当に正しく調合できているか試すだけなので、ご心配は不要です」
私は自分が作ったポーションをごくりと飲み干す。薬品にしては甘い。雪華草の甘み成分が効いているのだろう。
自分の腕を見ると、次第に傷が塞がり、跡も残らずに完治した。
「なっ……傷が一瞬で」
「正しく調合できていたようです。では、兵士の皆さんにも携帯させるようにしてください。このまま私は普及と製法の効率化のために色々と検証してみます」
しかし、アルノルト様は頷くよりも先に私の肩を掴んだ。あまりにも突然のことで私は驚いてしまう。
「イルゼ、俺は君を信頼している。だからこそ任せると言っているんだ」
「え、ええ。承知しております」
「薬効が気になるなら、自分の腕ではなく俺の腕を切って試せ。それがこの地を治め、軍を指揮する俺の役目だ」
力強く、アルノルト様が言う。
「ですが、それではアルノルト様の負担が」
「構わんと言っているんだ。もう少し自分を労ってくれ、いいな?」
「……は、はい」
彼の優しさ、だろうか。強い語気で言っているが、彼の瞳はとても優しく思えた。多分、私のことを心配してくれているのだろう。
心配なんてされたことないから、どこかむずがゆい。
でも、そう言ってくれているのだから少しは頼ってみよう。
◆
その後、順調にポーションの普及と製法の効率化が進んだ。私を強く信じてくれたアルノルト様が、多額の金額を投じてくれたのだ。
おかげで北方軍は更に強化され、今まで以上に公爵家の地位が向上した。ここまでこの軍部がしっかりしたのは、数十年ぶりのことだと彼は言っていた。
「来てくれたか」
そんな中、私はアルノルト様の執務室に呼び出されていた。なんだか改まっての様子だったから、何かあったのだろうかと思っていたのだけれど。
「イルゼ。君が来てくれてから、この地は変わった。民にもポーションが普及し、死亡者数も激減した。改めて感謝する」
執務椅子から立ち上がり、私に目の前に立った。
「お前がいないと、この地は……いや、俺は何もできない。これからもずっと俺の側にいてくれ」
真剣な表情を浮かべているアルノルト様。私はその姿を見て、くすりと笑ってしまう。
「なんですかそれ。プロポーズの言葉みたいですよ?」
「その……なんだ。だから、俺は君に惹かれているってことだ」
どうやら本当にプロポーズの言葉だったらしい。しかも、なんて不器用な言い方なんだろう。あまりそのような経験はないのだろうな。
「私も、私を認めてくれるあなたのことを好ましく思っております。ですが……その申し入れの答えは保留とさせてください」
「な、なんでだ!」
アルノルト様が見たこともないくらい動揺している。でも、これは否定をしているわけではない。
「もっとあなたのことが知りたくなったのです。だから、その言葉のお返事はより深くアルノルト様のことを知って、より親密になった時に取っておきたいのです」
私は微笑を軽く浮かべたあと、彼の手をぎゅっと握る。その瞬間、アルノルト様は頬を朱色に染めた。
「まずは、あなたから私の手を握れるようになりましょうね」
「か、からかっているのか……!」
そう言って、彼は少し顔を逸らしたあと。
「……頑張るよ」
私のことを恥ずかしそうに見据えて言った。
「これからもよろしくお願いいたします、アルノルト様」
「……ああ」
なんて居心地がいい時間なのだろう。今まで体験したことのない、胸の温もりを感じていた。
常々思う。私の本当の居場所はここにあったんだ。
始まったのだ。今。
私の第二の人生が。
◆◇◆
「あああああ! お姉さまが全部悪いの! わたくしは悪くありませんわ!」
リーナの叫びが、侯爵家の調合場に広がる。そこでは薬品や器具がめちゃくちゃになっており、すぐにリーナが癇癪を起こして暴れ回ったのだろうと察することができた。
近くで見ていたクラウスは怒りの表情を浮かべている。
「お前ができるって言ったんだろ!? イルゼがやっていたことは誰にでもできて、自分の方が更に上手くできるんだって! お前の両親からもそう言って——」
言いかけると、リーナがクラウスに向かって叫ぶ。
「お母様とお父様の話はやめて! わたくし、両親からもすごく怒られているんですから……! どうしよう、このままじゃわたくしのお家、潰れちゃう……!」
イルゼが働いて稼いだお金で成り立っていたヴァルトナー家は、今や大混乱の様相を呈していた。心底溺愛しているリーナが侯爵家に嫁ぐことになり、イルゼという面倒な子がいなくなってせいせいしていたところに訪れた不幸。
両親はリーナが我々を騙したんだと絶縁すらも言い渡す勢いで、彼女に怒り狂っていた。だがそれは自分たちが招いたことだというのに、それを認めたくはないようだったのだ。
「僕の家だってそうだ! 宮廷ともこのままじゃ商売できなくなる! イルゼが、イルゼがいれば……!」
イルゼ、という言葉をクラウスが出した瞬間にリーナが彼を睨めつける。
「なんでお姉さまの名前を出すの!? わたくしという存在がありながら……わたくしに文句が言いたいわけですの!?」
「言いたいさ! 僕は……僕の家はお前に騙された! 潰れるんだよ、全部! お前の家も、僕の家も!!」
その言葉を聞いて黙り込むリーナを置いて、クラウスはすぐに近くにいた使用人たちに指示を送る。
「イルゼを探せ! 今すぐにだ!」
今更、イルゼを連れ戻そうと動き始めたのだ。すぐに各地へとイルゼを探し出すよう仕向け……どうにか彼女の居場所が発覚した。
クラウスは急いでイルゼがいる公爵家へと手紙を出す。
だが、その手紙は到着してすぐに破り捨てられることになった。今更、イルゼにとって『元』婚約者からの手紙なんて読む必要がなかったからだ。
わざわざ忠告したのに、今更手のひらをひっくり返されても困るだけである。
こうして、クラウスとリーナたちは破滅の道を歩むことになった。
★お知らせ★
新作の連載を始めました!
強すぎて魔女認定され婚約破棄された転生令嬢、チートな魔力を活かして辺境でセカンドライフを送る〜え、私が守っていた領地が壊滅しそう?今更そんなこと言われても、絶対に戻りませんから!〜
https://ncode.syosetu.com/n0704mv/
広告下のリンクからも飛べます!




