入浴中と寝入り端に湧いてきたアイディアって、なんであんなに思い出せないんだろうね…?
日常あるあるネタ
その白い空間では、いつものごとく会議が行われていた。
「さて、次の案件だが……」
厳かな裁定者の声に収集員が答える。
「はい。次は十六歳、男性。発案場所は自宅の風呂場、浴槽の中です」
収集員は手元の資料をパラリとめくった。
「ジャンルは異世界転生もので、いわゆる知識チート系ですね。貧乏貴族の息子が料理を飛躍的に進歩させ、ハーレムを作りながら最終的に姫君を伴侶に迎えるストーリーです」
「ふ……む。あまり目新しいアイディアではないようだが……」
「正直なところ、いろいろと浅いです。強いて言えば、主人公が意外とクズ男なので、特徴といえばそのあたりでしょうか」
「なるほどな。ならばその案は本人に返却で構わないのではないか? ストーリーがキャラ頼みならば、ありきたりな物語でもなんとかなるだろう」
「はい、そうですね。本人の力量に賭けましょう。では、こちらは覚醒時に再発案できるように手配します」
収集員は手元の書類を再発案と書かれた箱に入れて座った。
待ち構えていた別の収集員が立ち上がり、書類を頭上にかざした。
「裁定者様、次はこちらをお願いします!」
「ふむ。では聞こう」
「はい、ありがとうございます! 発案者は二十五歳の女性で、場所はベッドの中。入眠直前の発案です」
収集員は裁定者の元に歩み寄り、その目の前に資料を広げた。指で文字列の一か所をトントンと叩く。
「ここをご覧ください」
「ふむ? 証拠の残らない殺人方法、か?」
「はい。いくつか考えていて大半が荒唐無稽なものなのですが、二点、マズイものがあります。植物の毒を抽出する方法と、組み合わせで毒となるものを、明日起きたら調べようとしています」
「あぁ、たしかにマズイな、それは。その作品が完成したら、完全犯罪ミステリーを現実に持ち込む読者が出てくる可能性があるな」
「しかもこの女性、夫の浮気に気付いています。日々殺意を育てているようで……本人が実践する可能性が非常に高いです」
「いかんな、それは。物語は物語であるから面白いのだ。現実に持ち込んではいかん。その発案は焼却処分だ」
「はい!」
収集員は安堵の息とともに書類を焼却処分と書かれた箱に放り込んだ。
「さて、次の案件は?」
「はい、こちらです」
また別の収集員が立ち上がり、手にした紙の束を大きく振った。
「三十四歳、男性の発案なのですが、こちらは傑作となる素養があります。あ、失礼しました。発案場所は車の中、帰宅のための運転時でした」
「ふむ。入浴中や入眠寸前が発案のセオリーだが、最近は自動車や自転車の運転中に発案するケースが増えてきたようだな」
「そのようですね。余計なことを考えずに運転に集中してほしいものです」
「うむ。まさしくだな。それで、傑作の素養とは?」
「はい。まず世界観が既存の作品の影響が少なく独創的です。主人公は三人で、入り組んだ構成により作中の謎を解き明かしていく形になります。詳しくはこちらを……」
裁定者は資料を受け取ると素早く目を通した。しばし後、感嘆のため息が漏れる。
「なるほど、素晴らしいアイディアだな。筆力さえあればベストセラー間違いなしだ。これを忘れてしまって、本人は悔やんでも悔やみきれないだろうな」
「本人はまだ忘れたことに気付いていません。断片だけでもすぐにメモを取っていれば、そこから思い出せたかもしれないのに……」
「正論ではあるが、物書きが忘れてくれるから我らの仕事があるのだよ」
冗談めかした自分の言葉に、裁定者は苦笑した。収集員は恐縮したように頭を下げている。
「この資料によれば、この発案者の能力はアマチュアの域を出ないようだが……」
裁定者は言葉を切り、ふむむと顎を撫でながら考え込んだ。
やがて何事かを思いつく。
「私が思うに、このアイディアは文章にするよりも絵で見せる方が向いているように思うのだが」
「はい、私もそう思います。これは、迫力のある絵と文字を使う漫画向きの物語だと」
「ならば、こちらは天啓科に回そうか。そちらでこの物語に最も適した者に神託を下してもらおう」
「賛成いたします」
「天啓科への恩がまた一つ増えたな」
裁定者は晴れ晴れとした笑みを浮かべた。が、いまだ大勢待ち構えている収集員たちを見て、すぐに真顔に戻った。
案件はまだまだある。
人は忘れる生き物なのだ。
「さて。次の案件を」
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「なんでお風呂の中で考えたストーリーって忘れがちなんだろね? 絶対に覚えておこうと思っても半分くらい忘れるよね?」
「寝入り端に急に浮かんで来るやつも、起きると忘れてるよね」
「「アレ覚えてたら傑作になるのになぁ」」
終わり
できれば返してほしいなぁ(´Д⊂グスン
お読みいただきありがとうございました!




