表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第二話

風が、あった。

ゆるやかに、花の海を渡っていく。赤も白も青も、同じ方向へ傾いて、また戻る。その繰り返しの中に、濃い黄色が見えた。

他の花より密集している。押し合うようにして、隙間なく咲いている。形が、どこか歪んでいた。花弁が均等ではなく、一方だけが伸びすぎている。それでも倒れない。周囲に押されながら、曲がりながら、そこに在り続けていた。

少女は少しだけ立ち止まり、それを見たあと、歩き出した。


女は、道の脇に立っていた。

腕を組んで、花を見ていない。どこか遠いところを見ている。

少女は少し離れたところで、女を見た。

それから、近づいた。

「……ねえ」

女が横目で少女を見た。子どもだ、という顔をした。

「何」

「ここ、よく来るの?」

「別に」

少女はその隣に、自然に立った。

「何か、考えてた?」

女はしばらく黙っていた。それから、ため息をついた。

「……同期がいる」

「同期?」

「仕事の。同じ時期に始めた子」

風が吹いて、黄色い花が揺れる。歪んだ花弁が、波打つように動いた。

「どうしてあの人だけって、ずっと思ってる」

「何が?」

「評価される。認められる。私の方がやってるのに」

声が、平坦だった。怒りではなく、本当に分からない、という声。

「見たくないのに、見てしまう。考えたくないのに、考える」

少女は濃い黄色の花を見た。押し合いながら、それでも崩れない。

「それ、よくないって言われてる」

女が少女を見た。

「……子どもに言われるとは思わなかった」

「そのままだと苦しいままだって」

「まあ、そうだけど」

「終わらせたほうがいいって」

女は少し間を置いた。

「……どうやって」

「思い出すの」

少女は前を向いたまま言った。

「最初に気になったのはいつか。何を見て、そう感じたか」

「それを全部見たら、終わる?」

「終わると思う」

迷いがなかった。

「もう十分だって思えるまで、見ていいって言われてるから」


女は黙った。

少女も何も言わなかった。ただ、隣にいた。

風が一度、強く吹いた。

黄色い花の端が、数輪だけ崩れた。花弁が飛んで、色が薄れて、そこだけ小さく欠ける。残りはまだ密集したまま、歪んだまま、咲き続けていた。


女の肩から、少しだけ力が抜けた。

「……なんの話してたっけ」

首を傾ける。

「同期の人の話」

少女が答えた。

「……そうなんだ」

それだけだった。続きはなかった。さっきまであった平坦な怒りも、分からないという重さも、どこかへ行っていた。ただ「そうなんだ」と、天気の話を聞いたときのような声で言った。

「帰るね」

踵を返す。少女のほうを見なかった。黄色い花の前を通り過ぎて、道を歩いていく。


少女は欠けた場所を見た。

数輪分の土が、そこに見えている。周囲の花は変わらず密集して、変わらず歪んで、変わらず咲いていた。

「終わった」

呟く。

風が、またゆるやかに戻ってくる。

少女は次の花を探すように、歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ