ep58.対面試練-星崎天音
天音の部屋
決意は、固まっていた。
もう迷いはない。
ここまで来た理由は、ひとつしかない。
――神木春を、蘇らせる。
そのために。
この塔は、確実に突破しなければならない。
たとえ。
何を犠牲にしても。
「……」
天音は、静かに息を吐いた。
階層の奥。
現れた扉。
黒とも白ともつかない表面。
生きているように、微かに脈打っている。
対面の部屋。
誰かがいる。
誰かと、戦う。
誰かを、殺す。
「……どうせ戦うなら」
小さく、呟いた。
「初めから、本気でいく」
スケッチブックを開く。
ページをめくる。
指先が、止まる。
そこに描かれているのは――借りてきた力。
「……借りるね」
三ページ、同時に開いた。
紙が、震える。
魔力が、重なる。
ソードマスター。
剣のすべてを知る力。
ガンマイスター。
銃のすべてを支配する力。
フィジカルアップ。
身体能力を極限まで引き上げる力。
三つの能力が。
天音の中で、重複する。
骨が、軋む。
筋肉が、締まる。
感覚が、拡張する。
視界が、研ぎ澄まされる。
戦闘用の身体。
完全な状態。
天音は、フードを深く被った。
顔を隠す。
迷いを、隠す。
感情を、殺す。
「……行く」
扉に手をかける。
冷たい。
鼓動している。
押す。
開いた。
瞬間。
空気が、弾けた。
「――ッ!!」
天音は、踏み込む。
迷いはない。
入った瞬間。
取り込む。
それが最善。
それが最短。
それが――生き残る方法。
だが。
相手も、同じだった。
影が、動く。
速い。
速すぎる。
剣が、振り下ろされる。
天音は、剣を抜いた。
ぶつかる。
刃と刃が。
激突する。
衝撃。
空気が裂ける。
その瞬間。
フードが、捲れた。
視界が、開ける。
そして。
天音の身体から。
力が、抜けた。
「……え」
声が、漏れる。
目の前にいるのは。
知らない敵じゃない。
知らない誰かじゃない。
あり得ないはずの。
あり得てはいけないはずの。
その顔。
「……なんで」
喉が、震える。
「なんで……いるの……?」
信じられない。
理解できない。
理解したくない。
だって。
だって。
だって――
「なんで、生きてるの……?」
涙が、滲む。
「春……」
名前を呼ぶ。
抑えられなかった。
叫びになる。
「春!!!!」
神木春が。
そこにいた。
生きて。
立っていた。
同じように。
目を見開いて。
動けずにいた。
「……天音……?」
春の声。
震えていた。
現実を、否定するように。
互いに。
剣を構えたまま。
動けない。
動けるはずがない。
ここは。
対面の部屋。
バビロンの試練。
勝ち残るためには。
殺さなければならない。
どちらかが。
どちらかを。
殺さなければ。
外に出られない。
沈黙。
剣が、震える。
指が、震える。
心が、壊れる。
「……なんで」
天音の声が、崩れる。
「なんで……生きてるの……」
それは。
問いじゃなかった。
願いだった。
否定してほしい現実への。
救いを求める声だった。
だが。
春は。
そこにいた。
確かに。
生きていた。
そして。
二人とも。
理解してしまった。
ここは。
再会の場所じゃない。
――処刑場だと。




