表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パレット  作者: 青原朔
88/102

ep57.対面試練-時矢

時矢の部屋


扉に触れた瞬間。


世界が、変わった。


光。


次の瞬間には、もうそこに立っていた。


灰色の部屋。


広くもなく、狭くもない。


逃げ場のない、密閉された空間。


そして。


正面に。


もうひとつの扉。


「……」


理解した。


同時に。


その扉が、開いた。


反射だった。


思考より先に、体が動く。


一歩、踏み込む。


背後で。


――カチリ。


扉が閉じる音。


それを確認した瞬間。


能力を発動する。


世界が、止まる。


音が消える。


空気が凍る。


すべてが、遅れる。


時矢だけが、動く。


「……」


呼吸を整える。


顔は見ない。


見たら、迷う。


迷えば、終わる。


だから。


見ない。


一直線に距離を詰める。


ナイフを抜く。


手に、重み。


相手は、まだ扉の前に立っている。


動かない。


動けない。


止まっている。


あと、一歩。


ナイフを振るう。


首元へ。


動脈へ。


正確に。


迷いなく。


――その瞬間。


視界の端に。


見えてしまった。


顔が。


「……」


時間が止まっているはずなのに。


思考だけが、崩れた。


「……おじさん……?」


久我だった。


久我が。


そこに立っていた。


無防備に。


止まったまま。


その瞬間。


理解した。


――ここに来る理由。


同じだ。


目的は、同じだった。


ハルを。


救うために。


ナイフが、止まる。


刃先が、首元で止まったまま。


動かない。


動かせない。


「……」


呼吸が、乱れる。


どうすればいい。


このまま。


殺せば。


進める。


でも。


「……」


できなかった。


ナイフが、手から離れる。


カラン、と。


床に落ちる。


そして。


能力を、解除した。


世界が、動き出す。


空気が流れる。


音が戻る。


そして。


久我の目が、時矢を捉えた。


その瞬間。


久我が叫んだ。


「何で時間を動かした、時矢!!」


声が、響く。


怒りじゃない。


問いだった。


「……だって……」


声が震える。


「おじさんは……」


言葉が、詰まる。


「……何でここへ……」


喉が、締まる。


それでも。


聞いた。


「……神木春を、生き返らせるため……?」


久我の目が、わずかに揺れた。


疑問。


理解。


そして。


確信。


久我は、静かに言った。


「……ハルは」


一拍。


「死んでねぇ」


時矢の呼吸が、止まる。


「……え」


久我の目が、鋭くなる。


すべてを理解した目。


「……そういうことか」


低く、呟く。


「誰の差金だ」


時矢の口が、勝手に答えた。


「……青原さんが……」


その名前。


久我の眉が、わずかに動いた。


「……青原……?」


信じられない、という顔。


「……そんな判断をする男じゃねぇ」


静かに。


確信を持って。


そして。


言った。


「どっちにしろ」


周囲を見渡す。


閉じた空間。


出口はない。


「ここからは出られねぇ」


時矢の喉が、鳴る。


「……」


久我は、時矢を見る。


まっすぐに。


逃げずに。


「伝えろ」


低く。


確実に。


「そいつは、偽物かもしれねぇってな」


その瞬間。


久我が動いた。


床に落ちていたナイフを拾う。


一切の迷いなく。


自分の首へ。


「――おじさん!!」


止める間もなく。


刃が、皮膚を裂いた。


赤が、溢れる。


久我の体が、崩れる。


「なんで……」


時矢の声が、壊れる。


久我は、倒れながら。


それでも。


笑った。


「……そういう部屋だ」


血が、床に広がる。


「お前が……背負うことはねぇよ」


呼吸が、浅くなる。


「恨むなら……」


視線が、時矢を捉える。


最後まで。


はっきりと。


「嵌めたやつを……恨め」


そして。


久我の体から、力が抜けた。


動かない。


呼吸も。


音も。


完全に。


止まった。


「……」


時矢は、動けなかった。


ナイフが、床に転がる音だけが。


やけに大きく響いていた。


自分が殺したわけじゃない。


それでも。


久我は、死んだ。


自分の前で。


自分のために。


世界が、歪む。


そして。


壁が、開いた。


勝者の扉。


進めと。


そう告げていた。


でも。


時矢は、すぐには動けなかった。


手が、震えていた。


止まらなかった。


初めてだった。


守るために。


守られたのは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ