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パレット  作者: 青原朔
56/101

ep24.出発

喫茶アオハラの前は、静かだった。


夜の住宅街は、

昼間の気配をすっかり失っている。


街灯の光が、

アスファルトに薄く伸びていた。


その下に、六人が立っている。


誰も、すぐには動かなかった。


「……ここからだな」


久我が言った。


短い言葉だったが、

それが“境界線”だと全員が理解していた。


久我のバイクは、

店の前に停めてある。


大型の黒い車体。

余計な装飾はない。


純粋に、“速く走るためだけ”の機械。


美波が、その後ろに立っていた。


銃ケースを背負い、

無言で車体を見つめている。


「乗れ」


久我が言う。


「……うん」


美波は素直に頷いた。


跨がる動作にも迷いがない。


もう、慣れている。


「振り落とされんなよ」


「落ちない」


即答だった。


久我はそれ以上何も言わず、

エンジンをかけた。


低い振動が、夜に広がる。


一方。


火憐と葵は、店の前から少し離れた場所に立っていた。


箒を手にしている。


「……東京、か」


火憐が呟く。


空を見上げる。


星は見えない。


「飛べる?」


ハルが聞く。


火憐は、少しだけ笑った。


「誰に聞いてんの」


強がりだった。


でも、必要な強がりだった。


葵も、小さく頷く。


「大丈夫」


その声の奥に、

零がいるのが分かる。


守る存在。


そして、王。


ハルは視線を移した。


魅魅が、すぐ隣に立っていた。


何も持っていない。


手ぶら。


ただそこにいるだけ。


それなのに――


一番危険なのは、彼女だった。


魅魅が、ハルを見上げる。


「ねぇ」


「なに」


「ほんとに一緒に行っていいの?」


試すような声。


ハルは即答した。


「約束しただろ」


魅魅の目が、少しだけ細くなる。


嬉しそうに。


「……うん」


満足したように頷いた。


鷹見が、店の前から言う。


「移動手段は確認済みだな」


全員を見る。


「久我と美波は地上ルート」


久我が軽く手を上げる。


「ハルと魅魅はダイブ」


ハルが頷く。


「火憐と葵は飛行」


二人が箒を握り直す。


鷹見は続ける。


「合流地点は旧高速道路入口」


「途中で異常を確認した場合、

 無理に交戦するな」


「目的は接触と確認だ」


誰も反論しない。


「……生きて帰れ」


それが最後の言葉だった。


命令じゃない。


願いだった。


久我がアクセルを回す。


エンジン音が強くなる。


「先行する」


そう言って、

バイクは夜の道路へ滑り出した。


美波が振り返らないまま、

手だけ軽く上げた。


すぐに、音は遠ざかる。


火憐が箒に跨る。


「行こっか」


葵が頷く。


二人の体が浮かぶ。


ゆっくりと。


重力を離れる。


風が、髪を揺らす。


「先に行ってる」


火憐が言う。


次の瞬間。


二人は夜空へ消えた。


残ったのは――


ハルと魅魅。


そして、鷹見。


沈黙。


魅魅が、小さく言う。


「ねぇハル」


「なに」


「死なないでね」


冗談みたいな声。


でも、冗談じゃなかった。


ハルは答えない。


代わりに。


影を踏んだ。


足元の闇が、揺れる。


「行くぞ」


魅魅が笑う。


「うん」


その瞬間。


二人の体が、影に沈む。


音もなく。


存在ごと。


消えた。


残ったのは――


鷹見だけだった。


喫茶アオハラの前。


静かな夜。


鷹見は、しばらくその場に立っていた。


全員が消えた後も。


「……行け」


誰に向けた言葉でもない。


それでも。


確かに、届くはずの言葉だった。


東京へ向かう者たちへ。


王の領域へ向かう者たちへ。


――物語は、もう止まらない。


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