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パレット  作者: 青原朔
55/101

ep23.東京跡地

喫茶アオハラ ― 作戦会議


喫茶アオハラの扉は閉まっていた。


営業中ではない。


外に「CLOSED」の札が掛かっているのは、

客を断るためじゃない。


――ここから先の話を、外に漏らさないためだ。


カウンターの上には、

コーヒーが五つ並んでいた。


湯気だけが、静かに立ち上っている。


誰も、口をつけていない。


「……東京は、もうない」


久我が言った。


事実を確認するような口調だった。


「正確には、“存在していた場所”はある。

 だが都市機能は完全に停止している」


「政府も対黒局も、

 表向きには“封鎖区域”扱いだ」


「封鎖、ね」


魅魅がくすっと笑う。


カウンターに肘をつき、

頬杖をついたまま。


「かわいい言い方」


「“食べられた”の間違いでしょ?」


誰も否定しなかった。


火憐が、無意識に拳を握る。


「……暴食」


零が、葵の体を借りて呟いた。


「王の中でも、最悪の一体」


「存在するだけで、世界を削る」


ハルは、黙って聞いていた。


東京。


そこに、

“佐久間咲”がいる可能性がある。


十年前。


能力を奪い、

能力を与え、

対黒局から逃げた存在。


アマネが追っている存在。


自分たちの“始まり”を知る存在。


「行くしかねぇな」


久我が言った。


それは確認じゃない。


決定だった。


「だが問題は移動だ」


「通常ルートは全部封鎖されてる」


「鉄道は使えない。

 空路は論外。

 検問で止まる」


沈黙。


その時。


「旧高速道路」


鷹見の声だった。


壁にもたれたまま、

腕を組んでいる。


まだ包帯は取れていない。


だが目は、生きていた。


「封鎖されてるのは“表の高速”だ」


「旧高速は違う」


「黒の侵食で放棄されたまま、

 管理もされていない」


「つまり」


ハルが言う。


「誰も使ってない」


鷹見が頷いた。


「だからこそ使える」


久我が、小さく笑った。


「いいな」


「決まりだ」


魅魅が、ハルを見る。


「ねぇハル」


甘い声。


でも、その奥にあるのは王の視線。


「ほんとに行くの?」


試すような声。


ハルは迷わなかった。


「行く」


短く。


はっきりと。


「理由は?」


「決まってる」


視線を逸らさない。


「全部、取り戻すためだ」


「俺の始まりも」


「アマネも」


「この世界の真実も」


静寂。


魅魅が、ふっと笑った。


嬉しそうに。


「そっか」


それ以上は聞かなかった。


零が、小さく呟く。


「……面倒な場所だよ」


「王が二体いる」


「暴食と、怠惰」


火憐が顔を上げる。


「二体……」


「うん」


零が続ける。


「普通なら、日本はもう終わってる」


「でも終わってない」


「つまり」


「怠惰が、暴食を止めてる」


久我が舌打ちする。


「最悪のバランスだな」


鷹見が静かに言った。


「だからこそ、今しかない」


「均衡が崩れる前に接触する」


「崩れたら終わりだ」


全員が理解していた。


これは探索じゃない。


世界の“境界線”へ行く行為だ。


帰って来られる保証はない。


それでも。


ハルが、立ち上がった。


椅子が小さく音を立てる。


「準備しよう」


その一言で。


全員が動き出した。


誰も反対しなかった。


コーヒーの湯気だけが残る。


まだ温かい。


――帰る場所は、ここにある。


だから。


進める。


喫茶アオハラの扉が開く。


夜の空気が流れ込む。


「行くぞ」


ハルの声。


そして――


東京編が、始まる。

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