表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パレット  作者: 青原朔
54/101

ep22.探しもの

放課後の教室は、静かだった。


最後の生徒が出ていく音が消え、

廊下のざわめきも遠ざかり、

夕日の色だけが、床と机を赤く染めていた。


窓際に座った魅魅が、脚を揺らしている。


靴の先が、夕日の中でゆっくりと揺れる。


「ねぇ」


その声は、軽かった。


けれど、その瞳は真っ直ぐハルを見ていた。


「なんで王を探してるの?」


その一言で、空気が止まる。


火憐が息を呑み、

葵の指先が、わずかに強張る。


ハルは少しだけ視線を落とした。


逃げる理由はない。


「……始まりを見つけるためだ」


魅魅が首を傾げる。


「始まり?」


ハルは頷いた。


「十年前」


声が、静かに落ちる。


「対黒局の施設から、“資産”が盗まれた」


魅魅の瞳が、わずかに揺れる。


「その時」


「俺と、アマネと……他の子供たちが」


拳を握る。


「能力を与えられた」


夕日の光が、ハルの影を長く伸ばす。


「犯人は、まだ見つかってない」


「でも」


顔を上げる。


「そいつを見つけない限り、終わらない」


沈黙。


魅魅は、じっとハルを見ていた。


まるで、その言葉の重さを測るように。


その時。


「——犯人の侵入経路は、確認されていない」


別の声が響いた。


ハルの口から。


だが、ハルの意思ではない。


統。


傲慢の王。


「監視網は完全だった」


「物理侵入、不可能」


「能力侵入、不可能」


「内部協力者の痕跡もない」


火憐が、思わず後退する。


「……じゃあ、どうやって」


統は、淡々と続けた。


「唯一の異常」


「空間座標の消失」


零の瞳が、わずかに細くなる。


「存在が」


「“移動した”のではない」


「“位置そのものが、書き換えられた”」


零が、小さく息を吐いた。


「……それ」


葵の影が揺れる。


零が前に出る。


「知ってる」


全員が、零を見る。


「葵の記憶の奥に」


「一度だけ」


「同じ感覚がある」


ハルの心臓が、大きく脈打つ。


「誰だ」


零は、静かに言った。


「名前は——」


一拍。


「佐久間咲」


その名前が、教室に落ちる。


魅魅の脚の動きが止まる。


「能力は、“転移”」


零の声は冷静だった。


「ただの転移じゃない」


「鏡」


「ガラス」


「水面」


「反射するものすべてを入口にして」


「“裏側”に入る」


火憐が眉をひそめる。


「裏側?」


統が答えた。


「裏世界」


感情のない声で。


「表世界の反転構造」


「物質は存在する」


「だが、人間は存在しない」


「空想と現実の境界層」


ハルの喉が鳴る。


零が続ける。


「そこには——黒がいる」


沈黙。


「昼間」


「黒は裏世界にいる」


「夜になると」


「表世界に出てくる」


魅魅が、小さく笑った。


「つまり」


「昼夜が逆なの」


「向こうが昼なら、こっちは夜」


「向こうが夜なら、こっちは昼」


ハルの背筋に、冷たいものが走る。


「……じゃあ」


「対黒局への侵入も」


統が答えた。


「裏世界から侵入」


「表世界の監視網は無意味」


「存在しない場所から現れ」


「存在しないまま去る」


零が、小さく呟いた。


「バレるはずない」


その通りだった。


この世界の“外側”から来た侵入者を、


この世界の防御で防げるはずがない。


魅魅が、窓の外を見ながら言った。


「会ったことあるよ」


全員の視線が、集まる。


「東京で」


夕日の中で、魅魅が微笑む。


「鏡の中から、出てきた」


「人間だった」


「でも」


振り返る。


「黒より、黒に近かった」


沈黙。


「名前も聞いた」


ゆっくりと。


「佐久間咲」


ハルの拳が、震える。


「まだいるのか」


魅魅は頷いた。


「いるよ」


「たぶん」


「ずっと」


その言葉は。


希望だった。


同時に。


この世界の深さを示す、底なしの闇だった。


黒の王たちですら、


その存在を“特別”と認識する能力者。


世界の裏側を歩く者。


そして。


ハルたちに能力を与えた、始まりの存在。


夕日が沈む。


教室が、夜に変わる。


境界が曖昧になる時間。


表と裏が、重なり始める時間。


その中心で。


ハルは、初めて確信した。


自分が追っているものは、


黒でも、


王でもない。


——世界そのものの境界だと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ