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パレット  作者: 青原朔
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ep8.守る側の大人

夜気が、鉄みたいな匂いを帯びていた。


黒因子を埋め込まれた人間たちが、倒れている。


息はある。

だが目がない。


操られた人形。


「……くそ……」


ハルの拳が震える。


「人を……駒みたいに……」


その奥。


街灯の下。


一人の男が、静かに立っていた。


スーツ。

整った姿勢。

乱れない髪。


戦場に似合わない、完璧な人間。


統。


「感情的だな」


淡々とした声。


「駒は駒だ。資源だ。配置するのは当然だろう」


その目には、本当に何も映っていない。


命も。

痛みも。

罪悪感も。


「効率の問題だ」


須川が歯を食いしばる。


「……あんた……正気か?」


「正気だから言っている」


統は首を傾げる。


「君たちの“同情”のほうが、よほど非合理だ」


次の瞬間。


地面が砕けた。


統の踏み込み。


速すぎる。


「っ──!」


須川が弾き飛ばされる。


ハルが受け止めに入るが、

間に合わない。


コンクリートに叩きつけられる音。


「がはっ……!」


血。


呼吸が乱れる。


立てない。


統が近づく。


「終了だ」


無感情に、告げる。


そのとき。


「……おい」


低い声。


統の足が止まる。


視線の先。


ゆっくり歩いてくる男。


コートの袖をまくり、

シャツは血で滲み、

それでも背筋だけは真っ直ぐ。


鷹見朗。


「……下がれ」


短い命令。


「でも……!」


「いいから下がれ、ガキども」


声は、いつも通り。


怒鳴りもしない。


ただ、逆らえない。


須川が、悔しそうに拳を握る。


ハルも、動けない。


鷹見が、二人の前に立つ。


統を見る。


静かに。


ただ、静かに。


「……やっと会えたな」


「私に用か?」


「あるさ」


ポケットから、黒いノートを取り出す。


角が擦り切れた、小さな手帳。


「初公開だ」


ぱら、と開く。


血で滲んだページ。


文字。


線。


人体図。


「メディカルノート」


統の眉が、わずかに動いた。


「能力者か」


「医者みたいなもんだ」


鷹見は笑う。


「ただし」


ペンを握る。


自分の腕に、深く突き刺す。


ぐしゃり、と肉を裂く音。


「っ……!」


ハルが息を呑む。


血が溢れる。


だが、鷹見は止まらない。


そのまま、ノートに書く。


【右腕:粉砕】


瞬間。


統の右腕が、爆ぜた。


「……!?」


骨が砕ける音。


統が初めて顔を歪める。


「なにを……」


「自分を壊せば」


もう一本、ナイフを刺す。


左脚。


【左脚:断裂】


統の足が崩れる。


「敵も壊れる」


「デバフだ」


笑う。


狂気みたいに。


「……ふざけた能力だな」


「だろ?」


さらに書く。


【肋骨:全損】


自分の胸に拳を叩き込む。


骨が折れる音。


同時に統の体が軋む。


膝をつく。


「……馬鹿な……人間が……」


「人間だからだ」


鷹見は吐血しながら言う。


「俺はな」


「もう二人、先に死なせた」


脳裏に浮かぶ。


部下の顔。


笑ってた顔。


「だから」


ペンを握りしめる。


震える手で、最後の一行を書く。


【全身:崩壊】


「やめろ!」


ハルが叫ぶ。


でも。


鷹見は、振り返らない。


「今度は」


静かに。


「俺が先に行くだけだ」


ペンが走る。


その瞬間。


鷹見の全身の骨が、同時に砕けた。


立っているのが奇跡みたいに。


そして。


統の体も。


同時に。


ぐしゃり、と崩れた。


コンクリートに叩きつけられる。


初めて。


初めて。


統の顔に、明確な怒りが浮かぶ。


「人間ごときが……!」


「は……」


鷹見が笑う。


血まみれで。


「人間なめんなよ……王様」


崩れ落ちる。


ハルが駆け寄る。


「鷹見さん!!」


意識が薄れながら。


小さく呟く。


「……転職、正解だったな……」


そして。


静かに、目を閉じた。


夜風が吹く。


統は、立ち上がれない。


初めて。


王が。


人間に、止められていた。


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