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パレット  作者: 青原朔
39/54

ep7.フルバトル

空気が、重い。


肺に入らない。


まるで水の中に立っているみたいだった。


統の周囲だけ、世界の密度が違う。


黒粒子が雪みたいに舞っている。


触れてもいないのに、

皮膚がひりつく。


「……これが」


須川が低く呟く。


「王、ね」


銃を握り直す。


指の震えはない。


だが本能が叫んでいる。


――撃つな

――勝てない


それでも。


「関係ねぇ」


トリガーを引く。


パン、パン、パン。


三連射。


今度は弾かれない。


弾丸は、統の“影”に吸い込まれた。


着弾音すらない。


「……吸収?」


「違う」


鷹見が言う。


「分解だ」


統の足元。


弾丸が、砂みたいに崩れていた。


物質そのものが“否定”されている。


「この世界の法則は」


統が歩く。


一歩。


それだけで地面が軋む。


「私が決める」


次の瞬間。


ハルの視界が暗転した。


「――っ!」


腹。


衝撃。


見えなかった。


いつ殴られたのか分からない。


気づいたら吹き飛んでいる。


ビルの壁に叩きつけられる。


コンクリが砕ける。


「がは……!」


血が込み上げる。


(速い、とかじゃない)


(認識できてない)


「遅い」


統の声。


真横。


もうそこにいる。


首を掴まれる。


片手。


人形みたいに持ち上げられる。


「黒を纏っても、この程度か」


「失望だ」


締まる。


呼吸が潰れる。


骨が軋む。


「ハル!!」


鷹見がノートを叩き開く。


自分の胸に、拳を叩き込む。


ゴキッ。


骨が折れる音。


同時に。


統の肋骨が内側に凹んだ。


「……!」


初めて。


統の身体が崩れる。


ハルが落ちる。


「デバフ……厄介だな」


「人間の痛み、知らねぇだろ」


鷹見が吐き捨てる。


「教えてやるよ」


再び自分の腕を折る。


統の腕も同時に歪む。


「くっ……」


須川が動く。


「今だ!」


滑るように移動。


低姿勢。


スナイパーの動き。


至近距離。


銃口を喉へ押し付ける。


「心臓は撃たねぇ」


「でも――」


発砲。


喉。


声帯破壊。


統の首が吹き飛ぶ。


血が舞う。


……はずだった。


だが。


穴は、次の瞬間、黒で塞がった。


再生。


「再生まで標準装備かよ……!」


須川が舌打ち。


統の肘が振られる。


須川の脇腹が裂ける。


「っぐ!」


吹き飛ばされる。


コンクリに転がる。


鷹見が走る。


「須川!」


ノートを押し当てる。


「バフ!」


傷が、鷹見の腹に転写される。


須川の傷が消える。


代わりに鷹見の脇腹から血が溢れる。


「ぐ……っ」


「なんであんたが痛がってんだよ……!」


「黙って戦え……!」


ハルが立ち上がる。


血だらけ。


でも、笑っている。


「……楽しいな」


影が、膨張する。


黒が腕を飲み込む。


皮膚が割れる。


爪が伸びる。


「もっとだ」


瞳が赤黒く染まる。


「もっと寄越せ……!」


ダイブ。


影の中へ。


統の足元から出現。


拳。


黒の爆発。


ドンッ!!


初めて。


統が後退した。


一歩。


二歩。


地面が削れる。


「……ほう」


統の目が細まる。


「人間性を捨て始めたか」


「正しい進化だ」


「褒めてやろう」


「うるせぇ」


ハルが吐き捨てる。


「お前に褒められても気持ち悪ぃだけだ」


再突撃。


須川が同時に撃つ。


鷹見が自分の脚を傷つけ、統の脚を潰す。


三方向。


完全連携。


王を。


押している。


「……チッ」


統の舌打ち。


初めての感情。


黒粒子が爆発的に増える。


圧力。


ビルの窓が一斉に割れる。


「時間切れだ」


声が低くなる。


「これ以上は非効率」


影が広がる。


街を飲み込む規模。


「ここで消す」


絶対的な死の宣告。


その瞬間。


三人、同時に踏み込んだ。


「上等だ」


「来いよ、王様」


「ぶっ飛ばす」


黒と銃声と血と怒号が交差する。


夜が砕ける。


王と人間が、真正面から衝突する。


――これは戦争だ。


まだ誰も、退かない。


まだ誰も、諦めない。


そして。


まだ誰も知らない。


この戦いの果てで、


統が、

ハルの“内側”に入る未来を。


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