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パレット  作者: 青原朔
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ep3.傲慢の王

対黒局本部は、夜でも明るい。


白すぎる蛍光灯が、床を冷たく照らしている。


足音だけが響く廊下を、

数人の職員が早足で通り過ぎていく。


「夜祭りの被害報告、まとめました」

「捕獲班、三名軽傷」

「未所属能力者、依然逃走中」


事務的な声。


感情のない報告。


命の数が、数字として処理されていく。


その最上階。


役員会議室。


重い扉の向こうで、数人の男が座っていた。


全員スーツ。


全員、同じ顔。


疲労と、責任と、保身。


その中心に――


一人だけ。


異様に整った男がいる。


年齢が分からない。


三十にも、四十にも見える。


背筋が真っ直ぐで、

指先まで無駄がない。


まるで“正しい人間の形”を模して作られたみたいに、

綺麗すぎた。


「未所属の能力者三名について」


誰かが資料をめくる。


「危険度はB相当」

「現状、直接的な脅威では――」


「違う」


静かな声。


全員が止まる。


男が、ゆっくりと顔を上げた。


「脅威かどうかではない」


声に温度がない。


怒りも、苛立ちも、ない。


ただ――当然、という響き。


「管理下にない時点で問題だ」


「資産は管理されて初めて価値がある」


「野放しの能力者は、ただの損失だ」


空気が重くなる。


誰も反論しない。


できない。


正論だから。


「捕獲を優先しなさい」


淡々と続ける。


「拒否するなら拘束」

「抵抗するなら排除」


「例外は?」


部下が聞く。


男は即答した。


「ない」


一切の迷いがなかった。


「感情は判断を鈍らせる」


「同情は損害を増やす」


「我々は組織だ」


「正しさだけで動け」


沈黙。


その言葉に、

“人間らしさ”が一滴も混じっていないことに、

誰もが薄く気づいている。


でも。


誰も言葉にできない。


「……トウさん」


部下が呼ぶ。


男――統は、小さく微笑んだ。


「何か?」


その笑顔は、完璧だった。


完璧すぎて。


ぞっとするほど、感情がなかった。


会議が終わる。


全員が退出する。


最後に、統だけが残る。


窓の外。


街の明かり。


祭りの残り火。


遠くで、小さく花火が遅れて上がる。


「嫉妬が動いたか」


ぽつりと呟く。


誰もいないのに。


「……面白い」


唇が歪む。


「感情に振り回される欠陥品が」


「まだ王を名乗っているとは」


指先でガラスに触れる。


その影が、わずかに歪んだ。


人の影じゃない。


王冠のような、黒い輪郭が一瞬だけ浮かぶ。


「回収しよう」


「全て」


「能力も」

「黒も」

「人間も」


「この世界は、私の管理下にあるべきだ」


その目は。


神でも、怪物でもない。


ただ。


心の底から。


「自分が上だ」と信じている目だった。


――傲慢。


王の一人は。


もう、とっくに。


人間社会の頂点に座っていた。


コン、と。


机の上の端末が光る。


「統様」


無機質なオペレーターの声。


「夜祭りエリアにて未所属能力者三名、再確認」


「位置、特定済みです」


統は、視線だけを落とした。


モニターに映るのは。


喫茶アオハラ。


そして、その周囲。


赤いマーカーが三つ。


ゆっくりと点滅している。


まるで。


照準みたいに。


「捕獲班を回しますか」


「……いいえ」


統は、即答した。


「試験運用中の部隊を使いなさい」


「例の“因子混合体”だ」


一瞬。


オペレーターの呼吸が止まる。


「……危険度A相当です」


「制御は――」


「構わない」


遮る。


「損耗は想定内だ」


「資産の価値を測るには、丁度いい」


淡々と。


書類を処理するみたいに。


命を計算する。


「投入地点は?」


統は、微笑んだ。


窓の外。


遠く。


あの街の方角を見て。


「――喫茶アオハラ周辺」


「まずは、揺さぶれ」


「反応を見る」


通話が切れる。


部屋に、静寂。


統は独り言みたいに呟いた。


「感情に頼る者が」


「どこまで壊れずにいられるか」


口角が、わずかに上がる。


「実験開始だ」


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